第二章 アイドルは女王様 - 25 - 細切れ
第二章 アイドルは女王様 - 25 - 細切れ
ビームを使わない攻撃とは、せいぜい踏み潰すことくらいであり、空中に浮かび上がるほどの打撃を受け続けている怪獣にそんなことなどできるわけがない。
そして、左右から加えられる攻撃は級数的に威力を増してゆき、ついには体長の数倍の高さ。千メートルを超えていた。
これほどの高さにまで到達すると、その落下のエネルギーだけでももう怪獣の体では耐えきれなくなっている。
圧倒的なまでに強靭なはずの怪獣の体が、急速にその形を変え始める。
粘土を拳で思いっきりなぐりつけたように、へこみを作ってはまた千メートルもの高さに舞い上がる。
そんなことを数度も繰り返すと、もう元の形すら判別不可能な状態になっていた。
粘土で作った怪獣を、子供が叩き潰したかかのような有様は、ひどくシュールで滑稽に見えた。
ただ、それが微塵も笑えないのは、そのいびつな形をした粘土は、高層ビルをいくつも纏めて瓦礫に変えてしまうほどの大きさと質量を有しているという事実があるからである。
そんな質量が、地面に叩きつけられたら、どれほどの被害を地上にもたらすのか考えるだけでも恐ろしいが。
そうはならなかった。
最後に跳ね上げられたその時、上昇を続ける間怪獣は分断され始め、上昇の頂点に達したその瞬間無数の破片に分解されていた。
もちろん、勝手にそうなったわけではない。
類の持つ双剣によって細切れにされたのである。
まるで噴水から放出された水のように、細切れになった怪獣の体は、分散し落下し始める。
まとまっていたならば、その質量は脅威となる。
だが、分散した瞬間、その脅威はなくなった。
纏まった水がひとかたまりとなり叩きつけられれば、その質量は脅威となる。
だが、同じ質量の水でも雨となって降ってきたなら、その質量は脅威ではなくなる。
それと同じ原理で、細かい肉塊となった怪獣はもうなんの脅威にもならなかった。
散らばった肉片の後始末は恐ろしいことになるだろうが、それは致命的な脅威にはならない。
そもそも、それを果たして通常の生物の『肉』と呼べるのかすら定かではない。
三百メートルを超え、自在に動き回る質量を支えられる有機物など本来なら存在しえないはずだからである。
現実としてその怪獣は存在したわけだが、怪獣がどのような原理で動いているのかわからない以上、それを生命体として判断するのかすら不明である。
いずれにしても、怪獣は物理的に活動を停止した。




