第一章 二人の嫁、襲来 - 03 - 転移
第一章 二人の嫁、襲来 - 03 - 転移
どういうことかを聞く前に、類は圭太の腕を掴んで引っ張り始める。
「さぁ行くわよ。こんなあなたの匂いの強い場所にいると、あたしの理性がいつまで持つかわかんないから」
そんな、さらにわけの分からないことを言われながら、圭太は類によって自分の部屋から連れ出される。
されるまま外に連れ出されて、ようやく圭太は肝心なことに気がついた。
「なにしてんの? っていうか、なんで僕のこと知ってるの?」
目が冷めたら、本当の意味でのトップアイドルが目の前にいて、れろれろされているという、あまりに衝撃的な出来事のために一番素朴で重要な疑問がすっ飛んでしまっていた。
「人目のある場所でゆっくり長話なんて出来ないから、とりあえず保留しといてね。さっさと行きましょう」
どうやら、圭太の意思に関しては類の中で重要度が低いようであった。
まるで恋人にするかのように、圭太の左腕に自分の右腕を絡めて引っ張り始める。
周りから見ればおっさんと美少女の異色カップルといったところだが、美少女の方は超がつくほどの有名人である。
こんな格好で外を歩き回れば数時間後には、ネットが写真付きで炎上しまくることはほぼ確定だ。
だが実際にはそうはならなかった。
類は組んでいない左腕をまっすぐ正面にかざすと、そこにはオレンジ色と白い色がマーブル状に光る枠が出現する。
光の枠の中はまるで湖面のように表面が波うっていて、その向こう側にはぼんやりと何かが見えているような気がした。
「さぁ、覚悟してね。ここを抜けたら後戻りはできないから。もちろん、覚悟しなくても一緒にいくけどね」
警告になっていない警告を発すると、未だに何がなんだか分かっていない圭太の腕を強引に引っ張って、波打つ光の枠の中に突入した。
水面のように見えても水のような抵抗も全く感じることなく通り抜ける。
すると、圭太は安アパートの廊下ではなく全く別の場所にいた。
別の場所という表現は正確ではなく、まったく別の異世界であったのだが、そんなことはこの時の圭太に分かるはずがなかったのである。
圭太が入ってきた場所は中世ゴシック調の雰囲気を持つ大きな部屋の中だった。
そして、いきなり数人の男女に囲まれると着ていた服を剥ぎ取られそうになる。
「しばらくの辛抱だから我慢してね。あたしも準備があるから一旦ここで別れるけど、すぐに式場で会えるわ。それじゃ、がんばって、圭太さん」