第二章 アイドルは女王様 - 11 - 敵襲
第二章 アイドルは女王様 - 11 - 敵襲
派手な飛沫が舞い上がり、血液の混じったお湯が周囲に降り注ぐ。
その光景に見とれているような余裕はなかった。
舞が落下したタイミングで、水中から何かが飛び出してきた。
あまりに動きが早かったために、圭太には良くわからなかったが、舞は即座に反応する。
浴場の中に響きわたる金属音。
それは一度だけでなく、まるでベルの音のように聞こえた。
今圭太に見えているのは、高速で動く二つの影。
水面が激しく動き、飛沫がまるで雲霧のように広がった。
だが、それはけして長く続いたわけではない。
時間で言えば十秒ほどだ。
高速で動いて見えなくなっていた舞が、全裸の彫像のごとく姿を現した時、その周囲に、黒い肌と尖った耳を持つ三人の女が同じように彫像のように現れた。
その独特の特徴からするに、ダークエルフという言葉が圭太の頭の中に浮かんだ。とはいっても、本当にそういう存在かどうかまでは分からない。
だが、それが彫刻ではないことなどすぐに分かる。
舞は、全裸の姿で両手に剣を握っていた。
剣を軽く振って血を吹き飛ばすのとまったく同時に、周囲に立つダークエルフの女達の首が足元に転げ落ちてお湯の中に沈んでいった。
その後を追うように盛大に血液を吹き上げる頭の無くなった体が、派手な飛沫を上げてお湯の上に倒れ込んだ。
返り血をまったく気にする様子もなく、浴場の中に全裸で立つ舞は怖いほどに美しい存在に見えた。
どうやらこの騒動に一段落ついたと判断した圭太が立ち上がり、舞の方へ移動しようとしたその時であった。
舞が反応する。
「逃げて!」
叫ぶように言葉を発した時には、舞の体はすでに宙に居た。
跳ねた先は、圭太の下である。
一体なにが起こったのか、そのことを理解したのは圭太の胸を黒い刃が貫いているのを感じた時であった。
目の前にいるのはダークエルフの女である。
笑顔もなく、それどころか表情すらない整った顔。
その背後に、舞が落ちて来る。
ダークエルフの首筋に銀色の光が走り、舞がたてた飛沫の中に頭が落ちていこうとしている。
圭太が現実に見ていた光景はそこまでであった。
目の前は急速に暗くなり、一瞬だけ感じた焼け付くような胸の痛みもすぐに遠いものとなる。
俺はこれで死ぬのか?
と思った瞬間であった。
自分の中にゼロとイチとで構成された無数のコードが存在していることに気がついた。




