第一章 二人の嫁、襲来 - 19 - 空きあらば
第一章 二人の嫁、襲来 - 19 - 空きあらば
舞は圭太の体をきつく抱きしめたまま、圭太の訴えを思いっきり拒絶した。
もちろん右手は圭太のズボンファスナーに手をかけたままである。
初体験が国民的な美少女ということになんら不満はないものの、圭太の常識が路上でそういった行為に及ぶことを全力で拒否していた。
だが、このままでいけば間違いなく圭太は舞によって初めての経験を体験させられてしまうだろう。
再び再開したれろれろの中、なんとかしないとと圭太は焦る。
結局焦るだけでなんとも出来ない中、ズボンのファスナーがついに一番下までさげられた。
その時だった。
それまで、どうやっても離れようとしなかった舞の体が、一瞬で圭太から離れる。
同時に、圭太の目の前を銀色の光が一瞬だけきらめいた。
圭太には分からなかったが、輝きをはなった光は剣の刃。
その剣の持ち主は、いつの間にか圭太の横に立っている類である。
「あんた、マジで殺す気だったでしょ?」
離れた舞が類に向けて毒づくと。
「はい、あんたへの土産よ」
類はそう言いながら剣を持っているのとは反対側に手に握っていた何かを、舞の顔の辺りに向かって投げつける。
「あら、これってあんたの部屋のインテリアにちょうどよかったんじゃないの?」
舞は右手でそれを受け止めて、皮肉たっぷりに言い返す。
ちなみに、類が投げて舞が受け止めたものは、腐った生首である。
圭太には見覚えがある、あの運転手の腐った生首であった。
舞はその生首を空に投げ上げると、掌をそれに向けて光を放つ。
放たれた光は生首に命中して、何も残すことなく消滅させた。
実際に見たわけではないのだが、あの時腐ったタクシーの運転手が襲ってこなかったのは類が始末したからなのではないかと、圭太は思った。
「こっちが後始末してるってのに、勝手に好き勝手やってるんじゃないわよ、この売女!」
類は到底アイドルとは思えないような悪口を舞に向かって浴びせかける。
「なにけちなこといってんのよ、キスしてただけじゃないさ。そもそも、そっちだって圭太さんの寝起き襲って、さんざんキスしまくってたくせに良く言うわよね」
もちろん舞だって負けてはいなかった。
本当にこの二人は仲が悪い……というか、不倶戴天の敵なのだろう。
唯一圭太のことが好きで、圭太のことを守るという一点のみで繋がっている関係であることは誰にでもすぐわかる。




