第一章 二人の嫁、襲来 - 01 - れろれろ
第一章 二人の嫁、襲来 - 01 - れろれろ
れろれろ。
圭太の口の中を、何かが這い回っていた。
れろれろれろれろ。
圭太が目を覚まさずにいると、その動きは益々激しくなってくる。
夢の中で圭太はナマコに襲われる夢を見ている所だった。
生きのいいナマコが、幼生エイリアンのように動き口の中に飛びこんできた。
そして激しく口の中を、れろれろれろれろと動き回るのだ。
そんな悪夢にうなされていたが、徐々に目がさめてくるにつけて、自分の口の中で、れろれろれろれろと動き続けているのがナマコなどではないことに気がついてきた。
「うごぐごぐごうぐ」
ようやく目が冷めた圭太だったが、今自分の身になにが起こっているのかわからなかった。
話そうとしても口を塞がれて話せない。口の中ではナマコではない何かが這い回っている。
それが何なのか、そして自分の身に何が起こっているのかを悟ったのは少ししてからだった。
圭太の口を塞いでいたものが、ゆっくりと離れていく。
ある程度離れたところで、目の前を塞いでいた物が完全な形で視界に入ってきた。
美しい顔。美少女の極み。見ているだけで、現実というものが失われそうになるほどの。
圭太の目の前に透明な雫が架け橋となって、その美しい唇と自分の唇との間を繋いでいる。
それを見て初めて、圭太は自分の口のなかでれろれろと動き続けていたのがナマコではなく、美少女の舌であったことに気がついた。
声も出せないで驚いていた圭太だったが、さらに驚いたことに、目の前にいる美少女の顔に見覚えがあることに気がついた。
テレビをほとんど見ることのない圭太であっても知っている顔だった。某国民的アイドルグループの総選挙において、不動の一位を取り続けている美少女である。
名前は上原類。
「あたしのことは知ってるわよね、圭太さん」
テレビやネットの動画で見た美しい美少女が、圭太に話しかけてきている。
聞かれたので、思わずうんうんうんと何度か頷いたのだが、頭の中は完全に真っ白で、一体何が起こっているのかまったく理解できていない。
っていうか、一度ナマコの夢から覚めたつもりになって、まだ夢の中にいるんじゃないかと思った。
理由は単純で、三十過ぎの独身DT男にこんなことなんて起こるはずがないという、いたって常識的な判断故だ。
こんな事が現実に起こるはずがないということになれば、当然今は夢の中にいるということになる。
実に単純な推理であった。