第一章 二人の嫁、襲来 - 17 - 運転手
第一章 二人の嫁、襲来 - 17 - 運転手
万単位の料金になっているので、乗り逃げを疑われるかも知れないという想定はしていた。
そのときには、自室までついてくるように頼むつもりだったが、運転手の反応はまったく予想していないものであった。
ていうか、運転手の様子が明らかにおかしい。
「お客さん、お腹はすいてますか?」
明らかににおかしな質問だった。
そもそも、降りるというのに、料金の放しはせずにそんなことを聞いてくるなんて普通はありえない。
「いえ、とくには……」
正直に言えばかなりお腹は空いていたが、なんとなく正直に答えないほうがいいと思い圭太はそんなふうに答える。
すると、運転手は前を向いたまま、また話しかけてくる。
「お客さん、お腹すいてるはずですよ?」
今度は返答を誘導するかのような質問に切り替えてくる。
運転手は、やはりひとつの答えを求めている様子だった。
「いえ、お腹は空いてません」
さすがに圭太もそのことに気づき、後ろから見た運転手の様子があまりにおかしな具合になっているような気がしたので、今度ははっきりと否定する。
「お腹……空いてる……言わなきゃ、俺食べられない……」
運転手の話し方も、どんどんおかしくなってきていた。
もうさすがに、気の所為とかいうレベルではなくなっている。
その中で、圭太は運転手に向かって聞いてみる。
「食べられないって、何を?」
この質問の先に何があるのか知るのが怖かったが、今こうやって質問しなければ何が起こっているのか知る術がなかったのであえてその質問をした。
ちなみに、その時圭太はドアを半分くらい開けて、逃げ出す準備をしていた。
運転手が、ゆっくりと後部座席の方を振り返る。
顔を向ける速さはゆっくりだったが、運転手に起こった変化は急激だった。
最初は顔色が悪いなというくらいだったのだが、圭太の方に顔が向くにつれて、急激に腐食が始まり飴細工のように形が歪んでくる。
同時に、車内には強烈な腐臭が充満していった。
そして、運転手の顔が圭太の方へと向けられた時、その顔はもう人間のものとは言えないような物に変わっていた。
「あんたの……のうみそ……たべる」
非常に聞き取りづらかった。それでも運転手がなんと言っているのか分かったことは、ある意味奇跡的なことかもしれない。
もちろんその瞬間、圭太は外に飛び出した。
外に出るといつもの町の光景であったが、いつもとは何かがはっきりと違っていた。




