第一章 二人の嫁、襲来 - 15 - 握手券
第一章 二人の嫁、襲来 - 15 - 握手券
どうしてこうなったのかはまったく分からない。
ただ目の前にはアイドル達が並んでいて、警備員に守られながら次々とファン達と握手を繰り返していた。
圭太はそのファンたちの列の一番前にいたのである。
そして、圭太の目の前には上原類がいてとても嬉しそうに微笑んでいる。
しかも、驚いたことに、その隣には希舞までいた。
なんで、どうして、こんなことになったのだろうか?
もちろん圭太にわかるわけはなかったが、ひとつ希望というべきことがあった。
それは、この場にいる全てのファン達が共通して持っている物であり、圭太だけが所持していないもの。
そう、圭太は握手券を所有していないのだ。
「握手券を提示してください」
警備員が握手券の提示を求めてくる。
「すみません、持っていません」
圭太ははっきりと告げた。
これで、圭太は類と舞の前に進むことなく、無事につまみ出されるはずだったのだが。
「すみません、今落としましたよ?」
すぐ後ろにいたファンが突然そんな事をいいながら、圭太の方に券の束をよこしてくる。
すると、圭太が反応するより先に警備員がそれを受取っていた。
「握手券十枚確認しました。一分間どうぞ」
勝手に言われて圭太は警備員から問答無用で押し出された。
倒れそうになったところを、類が支える。
「あたしたち、しばらく休戦することにしたの。それでね伝えとかなきゃって思い直したの。あたし圭太さんの永遠の花嫁になるためだけに生まれてきたのよ。だからね、どこに行ってもならず見つけるから、それだけは覚えておいてね、圭太さん」
倒れかけた所を無理やり握手に持ち込みながら類が話す。
でも、その手を強引に横から攫ったのはもちろん舞である。
「休戦したからって仲良しごっこなんてしないわよ、類。圭太さんの最初はあたしがかならず貰うわ。この女に邪魔されたけど、すぐに会いにいくわ。その時はかならず、あたしの物にするから、覚悟だけはしといてね、圭太さん」
休戦したと言いながら、類も舞もバチバチだった。
二人してあまりに強く圭太の手を握りしめるものだから、MP関節がみちみち鳴っている。
二人分の力で締めつけられて、かなり痛い。
だが幸いなことに、ここで時間切れになった。
十枚分として許可された一分間が過ぎたのである。
すぐに剥がしがやってきて、腕を引き離そうとするが、中々うまくいかなかった。




