第一章 二人の嫁、襲来 - 14 - トップの入場
第一章 二人の嫁、襲来 - 14 - トップの入場
それも当然のことで、メンバー全員に対して均等にファンがついているわけではない。
ファンにはいわゆる推しメンと呼ばれるメンバーがいて、その人数は天地ほどの開きがあった。
ましてや、不動のセンターと呼ばれる上原類ともなれば、この会場にいる半数以上の男たちが推している可能性が高い。
このまま姿を見せないとなると、下手をすれば暴動にもなりかねなかねない。
この様子を見て、さずに圭太は恐ろしくなった。
ただ来ないというだけで、こんな感じになるのだ。
もし仮に、類が圭太にやったことがバレでもしたら、生きてここから出られないかも知れない。
なんにしても、このままこの場に留まることはリスクが大きすぎる。
圭太は騒然としている人混みに紛れて、脱出を図ることにした。
ところが、いつの間にかさっきよりも格段に人の数が増えていた。
簡単には抜け出せそうもない。
人混みをかき分けて、どうにか数メートルほどの距離を進んだ辺りで、また会場がざわついた。
というか今度の今度は間違いなく、これまでで一番の歓声そのものであった。
さすがに圭太であっても、その理由はすぐに分かった。
なんと会場後方、すなわちファン専用の入口の所に上原類と、ライバルと言うべき希舞がそろって姿を表したからである。
ファン達が騒然とした理由は明らかで、あまりに異例づくしの出来事であったからである。
最近の握手会ではアイドルとファンの間は厳重な管理下に置かれており、たやすく接触できないようになっている。
なのに、上原類はそんな垣根をあっさりと飛び越えて、ファン達の中に現れた。
しかもだ、その隣にいるのはこのイベントとはまったく関係ないはずのマジカル・スイーツ・Θのセンターであった。
まったく違うアイドルグループに所属している、けして交わらないはずの二人である。
ファン達には一体何が起こっているのか理解できる者はいないし、主催者にも分からない。
この広い会場の中、どういうことなのか理解できたのは唯一圭太だけであった。
圭太は腰を屈めながら二人から遠ざかる方向へと必死でファンたちをかき分けて進む。
なんども文句や苦情を言われたが、すべてごめんなさいで押し通してどうにか会場の端までたどり着いた、と思ったのだが。
軽い目眩のようなものを感じた。
ほんの僅かに捉えることのできた感触はそれだけだった。
いつの間にか圭太は、会場の先頭にいた。




