第一章 二人の嫁、襲来 - 13 - 握手会会場
第一章 二人の嫁、襲来 - 13 - 握手会会場
巨漢はけっこう良い奴らしく、すまなそうに頭をかきながら謝ってきた。
「いやいや、気にしなくてもいいよ。俺も不注意だったし……。それより、ひとつ聞いていいかな?」
圭太は痛みを隠しながら、丁度いいと思い今一番知りたいことを質問することにした。
「もちろんだとも。それより、本当に大丈夫かい?」
巨漢は気楽に応じながらも、まだ圭太のことを心配していた。
「もちろん。このくらいなんてことないよ。それより、質問なんだけど、この人混みはなんなのか教えてくれないか? 実は、道に迷ってここまで来たんだけど、なにが起こってるのか気になってたんだよ」
圭太は平気なふうを装いながら質問をした。
「いくらなんでも、ここが幕張メッセだってことくらいは分かるよな? 今からNHP64の握手会があるんだ。ここに集まってる男たちは、それで集まってきてる連中だよ」
圭太が見る限り、周囲には男しかいない。
ある種異様な光景だった。
これまで実際にアイドルの握手会に来たことはなかったのだが、そうだろうなと想像していた通りの光景であった。
ただ一つ言えることは、早急にこの場を離れたほうがいいだろうということだ。
ここは言わばアイドルにとってのホームグラウンドである。
このまま会場にいたら、圭太を狙う二人のうちのどちらかに見つかってしまう可能性が高い。
それに、ここから自宅までの距離はかなりある。すぐにでも此処を離れてタクシーを拾うつもりだった。
「ありがとう。それじゃ、俺は帰るよ」
圭太が巨漢の男に別れを告げようとした時だった。
周囲の男たちの間から、一斉に歓声があがる。
もちろん圭太には、何が起こっているのかさっぱりわからない。
「おい、みろよ。メンバーが登場してきたぜ」
巨漢の男が聞かれもしないのに教えてくれた。
会場の前方入口から、制服を着た女の子たちが次々と入って来ている。それを見て、男どもが騒いでいるのだ。
圭太は念のために入場してきた女の子たちの顔を確認すると、ほとんどが知らない顔だった。
「あれ? おかしい。ルイちんがいないぞ、どうしたんだろ?」
会場に入ってきたメンバーの中に、上原類の姿がないことに気づいた巨漢の男が不安そうな言葉を口にした。
だが、もちろんそのことに気づいたのは巨漢の男だけでなく、すでにこの会場にいるほぼ全ての男達の共通認識となっている。
だから会場全体が、妙にざわめき立っていた。




