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Entangled Hearts  作者: 八智
1/1

1.夜の始まりへ(1)

 人気のない路地裏。

街灯も消え寝静まった夜には、昼の街並みとは違う何かがそこにあった。

「今日から君たちは『狩人』になる。そしてそれには必ず危険が伴う。まずはそれを理解してほしい」

目の間に浮かぶ球体が幼い子どもの様な声色でそう喋った。

可愛らしいマスコットのようなそれは、しかし私達の常識の外側にいる者。

『星の使者』彼は自らをそう名乗っている。

些か信じがたいが、彼らはこの星の外からの来訪者だという。


 宇宙人の言葉を信じるのなら、私たちは今から未来を守る為に戦うらしい。

身の毛もよだつ恐ろしい何かと、

私たちは彼らのもたらす『武器』あるいは『力』を手に取り、夜の静かな狩りを行うのだ。

華南(かなん)、これが君の武器、戦うため守るための力だよ」

「これが私の武器?」

渡されたモノは、夜目にも一際目立つ真っ黒な武器だった。

一つは小さい、というかよくテレビとかで見る拳銃そのもので、

ずっしりと重たいが不思議と持ちにくさはない。

まるで何年も使い古され、完全に自分の手に馴染んでしまった様な感触。

引き金を引くまでの所作を違和感なく行える。

もう一つは私の身長の半分はあるかもしれない長さと、威圧感の装飾を纏った銃だった。

片方よりも更に重たく、素人目に見ても持ち上げて撃つものではないことは分かった。

長方体の集合、直線によってのみ構成された(つがい)の武器は、

その銃把を手に握ると瞬く間に思考がクリアになり、

それぞれの持つ特性、適切な運用方法が頭の中に入ってくる。

それをマニュアルによる情報と言うより、

先天的(アプリオリ)な事実として理解させられたことに、彼らの持つ技術力の高さを思い知らされる。

無機質なそれは外見を裏切らず、二つとも戦う以外の役割を一切捨てていた。


 そう、私たちは戦うのだ。

その為に私たちは彼との契約を結び、『使命』を背負う。

そしてその完遂の暁には各々の願いを叶えるという『対価』を支払うという。


 だけど、私はまだその対価を決め兼ねている。

誰しもが初めから定めているわけではない、そう彼らは言っている。

けれど今の私にはこれと言って不満があるわけでもない。

叶えたい夢もない。

だから、立ち向かうことに戸惑いを残してしまう、決意みたいな物が全くない。

だったら、私がどうしてこんなことをするのか。

……はっきり言うと自分でもまだよくわからない。

成り行きでなってしまった以上、そんな言い訳を言える立場ではないけれど、

それが今の嘘偽りのない気持ちだった。

ただ少しだけ思うのは、今、私の胸に巣食うこの迷いが晴れていくこと、

それを願っているのかもしれない。

生きてきた中で望むことはしなかったけど、誰かのために何かをしたこともなかった。

頼るわけでも頼られるわけでもない、宙ぶらりんなこの心を何処かに落ち着かせたい。

カッコつけるつもりはないけれど、守りたいものが欲しい、大切にするべきものに気づきたい。

しいて言えばそれが理由だろう。

それに、私の傍らに立つ瀬玲奈(せれな)が一緒だというのも後押しになった。


……何がどうであれ最早戻ることは出来ない。

星の使者が語る言葉は、まるで戦地に赴く兵士に向けられた煽り文句に

聞こえてならない。

一抹の不安が、私の体を固くさせる。

「緊張するでしょ。でも大丈夫。初めから出来る人なんて誰もいないわ。

私だって成り立ての時は失敗ばかりだったから」

そう言って私を勇気づけてくれたのは、奇しくも同じ高校の先輩である彩芽(あやめ)だった。

「でも、彩芽さんは私なんかよりもずっと勇気があるじゃないですか。

あの時、私達を助けてくれた時みたいに」

「そうね、でも勇気なんて慣れみたいなもの。何事も経験あるのみ。

しっかり私について来れば大丈夫。後輩にはかっこいいとこ見せないとね」

「じゃあ期待してますよ!アヤ先輩」

まるで子供のように目を輝かせてはしゃぐ瀬玲奈。

その姿を見れば、彼女は本当に自分で望んだことなんだと分かる。

彼女はいつも優柔不断な私と比べて、はっきりとモノを言う性格で、どこまでも前向きだ。

だから彼女は後悔をしないし、いつも最後までやり通す。

時々それが作り物に思えてしまうほど、真っ直ぐで力強い彼女の生き方。

きっと私なんかとは比べようもなく強くなっていくだろう。

だから私もそれを見習って、たくましく生きていきたい。

その為に今私は闘いに身を興じるのだろう。


「さあ、そろそろ行きましょうか」

彩芽は踵を返し、歩き始める。

それについていく私と瀬玲奈。

夜の暗闇が無性に怖かった。

ふと後ろを振り返ると、そこにさっきまでいたはずの星の使者の姿はなく、ただ声だけが残っていた。

「二人共目覚めることを忘れないように。明日の光は常に訪れるのだから」

希望に満ちた激励かあるいは警句か、どちらにせよ少しは気が晴れる、そんな気がした。

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