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みんな仲間だ!  作者: 公心健詞
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怒りの本質

人間の村に金髪碧眼のエルフと行くとすごく親切にされ、青肌のザンといくとぞんざいに扱われる。

そんな人間の村に嫌悪を感じるユーベルトートであった。

とりあえず、現在人間の村がどういう状況になっているかユーベルトートは偵察に行くことにした。

ユーベルトートはマンとローブを着用し、顔が見えないようにして村に行った。

青肌のザンと一緒に行くと、村人は一瞥したあと距離をとった。武器屋などに行っても露骨に店員がにらんでくる。

それに対してエルフのマシューと一緒に行くと、村人は笑顔で接してくれる。

 ユーベルトートの中身が見えなくとも、みんな一緒にいる人間で態度を変えた。

 街の壁には見慣れた男の絵がかいたポスターがいたるところに貼られていた。

 西田譲二の似顔絵のポスターだ。

 西田はユーベルトートに呪いの鎧をおしつけたあと、この村の村長に立候補して当選したようだ。

 西田は村人たちのゴブリンへの憎しみを煽り、ゴブリンを倒さないかぎりこの村に平和は訪れないと訴えた。

 しかし、その裏でゴブリンに金を渡しゴブリンの人間への敵対行為を煽っているエルフには一切言及しない。

 かつてユーベルトートは鉄仮面をかぶっていた西田から、ゴブリンの行いはすべてエルフが裏で金を渡してやらせていると言っているのを聞いている。

 それを西田は民衆の前では言わない。

 エルフといっても一枚岩ではない。エルフは知性的であり、強力な軍隊を持っている。畏怖は尊敬に変わる。

 人間たちは、エルフが何度人間のうらわかき女性をサラって人体実験に使って殺したり、生贄にしてもエルフを敬愛していた。反対に、人間を殺すわけでもなく、棍棒を振り上げて暴れて罵声をあびせかけるだけのゴブリンには激しい憎しみと殺意を抱いていた。

 エルフに殺意を抱き反抗すれば、即、村には死が降りかかってくることを人間たちは本能的に理解していた。


 とはいえ、エルフは物腰柔らかで、理知的であり、人間に被害が及べば恭しくお頭を下げて謝罪した。

 客観的に見て、この世界で残忍な戦争を繰り広げ、もっとも多くの命を奪っているのはエルフだ。

 しかし、エルフは魔法を使う。懇望で敵の頭を打ち砕くゴブリンと違って、エルフはスマートに殺す。

 爆裂魔法であとかたもなく吹っ飛ばす。あとには死体も残らない。このため、エルフに対するヘイトはこの世界ではあまり広がらなかった。

 ゴブリンのうち、人間に対して危害を加え、人間を殺すゴブリンが居たならばそれは殺害してもかまわないとユーベルトートは思った。しかし、人間は、人間を棍棒で殴り、怪我をさせただけのゴブリンでも、夜陰に乗じて襲って殺す。

 エルフに人間が殺害されても、悲しみ、哀悼の意を表すだけでエルフは襲わない。襲えば、エルフは軍隊を出動させ、魔法で村一つを消し飛ばすくらい簡単なことだからだ。

 

 ユーベルトートは、正直、村に来るまでは人間と戦うことを躊躇していた。しかし、村に来てみて、エルフ族のマシューと行動した時と青肌のザンと行動した時のあまりの差を見たことや、ゴブリンに対しては過剰に報復するが、エルフに対しては従順で泣き寝入りする姿勢を見て、考え方を変えた。

 村からの帰り道、ザンが強くユーベルトートの腕をつかんだ。驚いてユーベルトートはザンを見る。

「おい、見上げるな」

「は?」

 ユーベルトートは意味がわからなかった。

「お前の拳、ずっと村を出てから握りっぱなしだぞ」

 ザンがそう言ったのでユーベルトートは慌てて手を開いた。

「お前、無意識のうちに憎しみを蓄積させてるだろ。それはやめろ」

「しかし、不正義に対して怒りをもつことは普通でしょ」

「怒りは持つな。つねに冷静に対処しろ。そうでないと、お前は怒りの神、ヒューリーに取り付かれてバーサークするぞ」

「バーサーク?」

「そうだ、それがどんな正当な理由であっても、人に対して怒り、憎しみ、殺意を抱くとき、人は怒りの神、ヒューリーに支配されているのだ。その感情は正義の心ではない。ただ、ヒューリーに支配されているだけなのだ。ヒューリーの意のままに従い、心を怒りで支配されてしまえば、あとはバーサークして殺人鬼となり、狂い死にするだけだ。」

「じゃあ、どうすればいいんですか」

「怒りをみくだせ。これは本当に自分が怒っているわけではない、怒りの神、ヒューリーに取り付かれているだけなのだ。そんな怒るに値するようなことではない。とるに足らないことなのだと思いこんで感情をしずめろ」

「とるに足らないことではありませんよ!」

「だから!」

ザンはもう一度、強くユーベルトートの腕を掴んだ。

「たとえ、大したことではないと思えなくても、本当は深刻な事であっても、心を静めるために、心の中でそう唱えるのだ。そして、怒りの神を見下ろせ。怒りの神に支配されるな。その先には破滅しかないのだ」

「しかし……」

「深呼吸しろ」

「何を言っているんですか今、そんな事して何になるんですか!」

「いいから深呼吸しろ!」

「はい……」

 ユーベルトートを大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

「どうだ、すこし気が治まっただろ」

「あ……なんだか、少し怒りがおさまった気がします」

「だろ、俺は何も不正義を寛容しろとは言ってない。不正義は正さねばならない。しかし、だからといって怒りに支配されてしまえば、その先には破滅しかない。それを知れ」

「ああ……、はい、助かりました。ありがとうございました」

「ケンカは逆上したほうが負けるんだ。怒りの神の支配下に置かれたものの末路は破滅しかない」

「はい、心しておきます」

 ユーベルトートは深々と頭をさげた。

怒りは身を滅ぼす。ザンの教えを心に刻み込んだユーベルトートであった。

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