青空の下で
白い雲1つない平野を2人の男女が歩いていた。道は公道だが砂利道で小さな石ころが多数転がっている。周りに高い木はなく、遠くの緑の景色までよく見える。道ではない草むらにはピンク色の花が咲き、その周りを黄色い蝶がヒラヒラと舞い踊っていた。
男の名前はバイン。帝国軍第四類所属。ランク50位(最下位)。
女の名前はアナ。帝国軍第四類所属。ランク49位。
2人合わせて通称『最下位コンビ』といわれている。
帝国とは、この一帯を支配下においている巨大国家である。その国の軍隊には第一類、第二類、第三類とあり、第四類は主に少数制をとっておりハンターなどの賞金稼ぎ達が採用されている。犯罪者からは『死帝』といわれ恐れられている実力者達である。
個々の実績によってランクづけされ、ランク20位以上は帝国永住権が認められている。バインとアナは永住権がなく、主にレテランス(地域や国から仕事を紹介している帝国設立機関)から依頼を受け行動している。その中でも戦闘区分がもっとも依頼料が高いのだが行政区分もそこそこ料金が高く、帝軍免許を持っている者でしか仕事ができない業務独占体制をとられている。
そこでバインとアナはレテランスから行政区分『他国ドラゴニの調査訪問』を受け、向かっている最中である。
「腹減ったナ。バイン」
ボサボサのショートカットの黒髪で赤いハチマキをし、民族衣装(戦闘用)を着たアナがお腹をかかえていった。背は小さく、童顔で目が大きいのでよく子供と間違えられるのだがもう20歳を超えている。背中には愛用のトマホーク(斧)が光った。
「もう? まだ昼じゃないよ。それにまだ道のりは長いんだからそんなに簡単にお腹を減らすなよ」
前髪を分け、機能性の高い鎧を着こなし、腰に愛用のベータ(剣)を持ったバインが言った。体型は剣士としては標準的、顔も平均的、ただ頭の髪はカツラである。
「ああ〜腹減ったヨ。ここいらで飯にしよウ」
「だからまだ昼じゃないだってば。もう少し我慢しようよ」
「駄目ダ。もう限界だヨ。胃が収縮を始めてるヨ」
「お姉さんこんな平野で食べるよりどっかの木陰で食べようよ。こんな公道で食べてたら通行の邪魔になる」
「人なんて来ないヨ。私にはわかるネ」
「それはエスパーか? それともフォース? …とにかく、仮にも帝軍免許所持者がこんな所でご飯だなんてありえない」
「まったく、これだから頭光ってる奴は融通が利かないナ」
「おいおい。それは俺の中にある何かを刺激してるよ。いいのか? 俺悪いけど暴走するよ?」
いつものやりとりをしながら2人は何もない公道をトボトボと歩いていた。
「なあバイン」
「なんだいお姉さん」
「あの雲」
アナは青空に1つだけある大きな白い雲を指差した。
「あの雲にもし人が住んでいたら楽しいと思わないカ?」
「別に。あの高さから地上に落ちないか心配で夜も眠れないね」
「馬鹿だナ。あそこに住んでいる住人には翼が生えているんダ。つまり天使ダ」
「ほほ。面白いこと言うね。天使は人が創った想像上の生き物だ。実際いるわけない」
「夢のない奴だナ(…だからハゲてんダ)。きっと天使の住む国は平和で争いがなく善人ばかりダ。皆幸せに暮らしていル」
「幸せね…確かに実際そんな国があればいいよな。…ってかさっき小声でハゲって言わなかった? ハゲてる人なんてどこにもいないけど?」
「そんな国があれば私はいっぱい子供つくって、いっぱいご飯食べさせて、いっぱい幸せにしてやるんダ」
アナは両手を大きく広げて楽しそうに笑った。
「単純だね。そんな国がそもそもあるわけが…」
「あっ、天使ダ!」
「えっ!? どこっ!?」
「嘘ダ! バ〜カ」
「アハハ」とアナは大笑いする。バインは恥ずかしそうに顔が真っ赤になった。
「クッ…違うね。俺はお前に騙されたんじゃなく本当は変な鳥が飛んでたから…」
「あっ」
アナはポカンと口を開いた。
「天使ダ…」
「ふっ、芸がないな。嘘が二度も通用するわけがないだろう?」
「本当に天使ダ。小さい天使ダ。やっほう〜」
「っておい!? 急に走るな!?」
「天使ダ! 天使ダ!」
アナは嬉しそうに空を見上げながら公道を駆けていく。
バインはアナを追いかけながら空を見上げた。
…そこには青空だけが広がっていた。