逮捕しちゃいますよ!
饕餮様の『制服萌え企画2015』に参加しています。
前回の『制服萌え企画』の『警察官になります!』の続編です。
就活中に自転車を盗まれて、駅前の交番に駆け込んだ美奈は、爽やかな笑顔の三浦巡査に一目ぼれした。華奢な美奈は、就職先に警察を考えた事も無かったが、憧れの三浦に近づくために、凄く頑張った。柔道や剣道は今更無理だが、簿記に英語、中国語、韓国語と資格を取りまくる。
「やったぁ! 合格だぁ!」
体力面は自信が無いが、警察にも事務員が必要だろうと美奈は考えていた。それに、警察学校では、三浦教官と再会できた。
『これって、運命の出会いだわ!』
胸がキュンとする美奈だったが、警察学校での訓練は思ったよりも厳しかった。フル装備でのマラソン、柔道、華奢な美奈には、他の訓練生より負担も大きい。
しかし、美奈はへこたれず、無事に卒業の日を迎えた。
警察学校の女子寮では、やっと卒業できた警察官のひよっこ達が、部屋を片付けている。
「四月から10ヶ月も警察学校でしごかれたんだよねぇ」
これで、鬼教官の特訓とはおさらばできると、皆は浮き浮きしているが、一人がっかりしているチビッ子がいる。身長155㎝が女子警察官の採用身長の最低限だが、それをクリアできているのか、微妙な身長しかない。
本多美奈は、周りの同期生達がてきぱきと部屋を片付けているのを、恨めしそうに眺める。それは、愛玩犬がご主人様に出ていかないでと上目使いに眺めているようだ。
「美奈! あんた程、大変な目にあった子は居ないのに、卒業できて嬉しくないの?」
身長も体重もギリギリだった美奈は、装備をつけてのマラソンで気絶しそうになったり、柔道では本当に投げられて気絶した事もあった。しかし、美奈は一度も辞めたいとは思わなかった。片思いの三浦教官の顔を見るだけで、ファイトが湧いてくるからだ。
「だって……三浦教官と別れるのは嫌なんだもの! 留年とかないのかなぁ」
ベビーフェイスの美奈の眉が下がると、余計に保護欲を刺激する。
「もう! 馬鹿な事ばかり言ってないで、部屋を片付けましょう! それに、今夜は卒業パーティよ! 美奈の大好きな三浦教官も来るんだから、さっさと片付けてオシャレしなきゃ」
美奈は、そうだった! と、凄い勢いで部屋を片付け始める。玄関に段ボールをテキパキと運び、寮監さんに配送先を書く用紙を貰う。今夜、泊るのに必要な着替えと歯ブラシとかは、バッグにまとめる。
「呆れたわねぇ! でも、あそこまで三浦教官ラブを貫かれると、私達も応援したくなるわ」
爽やかなハンサムの三浦教官は、女子訓練生の人気ナンバーワンだが、チビッ子の美奈が気絶しても訓練を頑張る姿に、全員が譲る気持ちになった。
「今夜は、三浦教官に告白する!」
部屋を片付け、段ボールを次の赴任先の寮へと送ると、美奈は自分の決意を宣言する。そうしないと、このまま唯の教官と訓練生で終わってしまうのだ。
「美奈ちゃん、頑張ってね! あんただから譲るんだからね! ぼやぼやしてたら、次の訓練生に取られちゃうよ!」
はぁあ~と溜め息をつくが、パンと両手で頬に気合を入れる。恋の告白には、ロマンチックさが足りないが、憧れの三浦教官に当たって砕ける勇気を振り絞る。
「皆さん、卒業おめでとうございます。これから、皆さんは各警察署に赴任していきます。ここで学んだ事を忘れずに、市民の安全を護って下さい!」
警察学校の校長を誰が呼んだのだと、新米の警察官達は犯人探しをする。警察学校の近くの居酒屋の二階を借りきって、卒業生と若い教官で、気楽な卒業パーティというか、合コンをする予定だったのだ。
長いスピーチは、卒業式で聞いた内容と同じなので、美奈はまったく耳に入れずに、教官達と並んで座っている三浦教官の方ばかり眺めていた。
『スピーチが終わったら、ビールをつぎに行こう! でも、遠いなぁ』
教官席までの距離が、自分との距離に感じる。しかし、今夜を逃せば、繁華街にある警察署に赴任するのだ。美奈が英語、中国語、韓国語、に堪能なのが見こまれたのだ。職場に慣れるまでは、辺鄙な場所にある警察学校までなかなか来れないし、第一卒業したのに訪ねて来るのは不自然過ぎる。
「じゃあ、皆さんの卒業をお祝いして、乾杯!」
ぼんやり三浦教官を眺めている間に、隣の同期生がコップにビールをそそいでくれていた。
「ええっ! いつの間に?」
「ほら、乾杯!」ビール瓶を持ったまま、スピーチする校長を無視して出遅れた美奈を、同期生は笑って乾杯とコップをぶつけてくる。
「美奈、もう少し後にした方が良いよ! 今は、まだ皆シラフだから……」
警察官同士の恋愛は禁止はされてはいないが、結婚が前提になるので、余り公にしない方が良いのだ。皆が酔って、カラオケとか始まってから、三浦教官を誘い出して、店の外で告白する予定を立てた。
数時間後、美奈は校長とカラオケでのりのりでデュエットしていた。歌が上手いのは良いが、校長のネクタイを引っ張ったり、肩を組んでるのはいただけない。
「ちょっと、美奈って酒乱?」
美奈は告白する緊張を和らげようと、ハイペースで飲みすぎたのだ。
「ああ! マズイ! 校長のズラがずれてる」
酔った美奈が、ズラに気づいて、ケタケタ笑い始める。同期生達は、マズイ! と思いながらも、自分達も酔っているので止めるのが遅れた。
「あれっ? 校長先生の頭が……変だぁ!」
酔っ払った美奈が、校長のズラを直そうとする手を、三浦がつかむ。
「もう、このくらいで良いでしょう」
目の前の三浦教官に、美奈は微笑み、意識を無くした。
「あれっ? ここは? 皆は何処?」
卒業パーティの会場の隅で、座布団の上で寝ていた美奈は目を覚まして慌てる。三浦教官に告白するつもりが、酔っ払ってしまったのだ。段々と自分の所業を思い出す。
「ひぇえ~! 校長のズラを取ろうとしたの?」
校長のズラは全員が気づいていたが、絶対にズラだと口にしてはいけない規則なのだ。クビかもと、美奈は真っ青になる。
「大丈夫だよ、ズラを取る前に寝ちゃったから」
美奈は、ハッと正座する。憧れの三浦教官に、恥ずかしい姿を見られたのだ。穴があったら入りたい!
真っ赤になって俯く美奈は、可愛くてポケットに入れたいぐらいだ。教官と訓練生の立場の違いから、自分の気持ちにブレーキをかけていたが、三浦はこれ以上は待ちたくないと思う。
「美奈ちゃん……」
『美奈ちゃん?』ずっと、本多さんと呼ばれていたのに、三浦教官が、名前で呼んでくれた!
美奈が期待して顔を上げ、三浦は「付き合って欲しい」と告白するつもりだった。
「おおぃ! 三次会へ行くぞ!」
居酒屋の階段の下から、校長が叫ぶ。折角の良い雰囲気が台無しだ。
「普通は、校長は一次で帰るだろう! それも、わざわざ二次会の会場から呼びに来なくても!」
怒りを表す三浦教官に、美奈も笑う。
「本当に気がきかないんだから! ハッ、ええっと……」
三浦は、美奈も自分と同じ気持ちだと悟った。
「今、行きます!」と、下で騒ぐ校長に返事をしながら、二人はスマホを近づける。お互いの連絡先を確保してホッとする。
「今度、デートしてくれる?」
美奈は、真っ赤な顔で頷く。
「おおぃ! タクシーを待たせているんだぞ!」
良いムードも、校長のドラ声に邪魔される。仕方ないなぁと、顔を見合わせて微笑む。
階段を下りながら、美奈はふわふわと雲の上を歩く気持ちがした。
「まだ酔っているの? 危ないよ!」
頼りない足取りの美奈を心配して、三浦が手を差し出す。酔いは醒めていたが、美奈は差し出された手をとった。
「初めて会った日から、好きだったの……」
「俺も!」
階段の踊り場で、素早く抱き寄せて、軽いキスをする。ドキドキが止まらない。
「おおぃ? 本多はもう帰った方が良いんじゃないか?」
真っ赤な顔を見とがめて、余計な事を言う校長に、大丈夫ですと言いきってタクシーに乗り込んだ。
タクシーで三次会の会場へ行くまで、隣の相手の体温を感じて、くらくらする二人だった。
『ええっと、パラスホテルはこの道を真っ直ぐに行って、3個目の信号を右に曲がると見えてきます』
大きなスーツケースを持った中国人観光客に、美奈は簡単な中国語で道案内をする。その様子を三浦は微笑んで眺めている。
「立派に警察官しているね!」
誉めてくれるのは嬉しいが、繁華街の警察署に赴任した美奈は、土日が休めない。警察学校の教官の三浦は、土日が休みなので、デートもおちおちできないのだ。
「もう、そんな所で何をしているのですか?」
膨れっ面も可愛いと、三浦は目を細める。
「卒業生がちゃんとしているか、巡回中なんだ」
微笑む三浦に、美奈は心を鷲掴みにされる。勤務中でなければ、抱きつきたい!
「もう! 逮捕しちゃいますよ!」
「何の罪で?」
制服姿の美奈は、とてもキュートだ! 耳元で囁く。
「決まってるでしょ! 私の心を盗んだ罪よ」
二人の恋は始まったばかり。でも、お互いが側に居たいと真剣に望んでいるので、エンゲージリングで逮捕されるのは時間の問題だ。
桜並木が風に揺れ、二人の間にピンクのハートが散った。
おしまい