それは愛とは呼ばないわ
「愛してる」
「それは、どうも」
彼の言葉に、私は顔を上げることなくそう言って、読みかけの本に視線を走らせる。
文章を暗記でもするのか、と言われるくらいに同じ本を何回も何十回も何百回も読む。
本を読んでいる時が一番幸せを感じるから。
「相変わらずつれないねぇ」
苦笑と溜息混じりにそう言った彼。
彼は私の幸せを奪う。
新しい幸せのようなものを目の前に吊るす。
私が掛かるのを待っている。
なんて悪趣味な男だろうか。
そっと本に栞を挟んでから彼を見た。
すると彼は、女の子顔負けの長いまつ毛を伏せて笑顔を見せる。
「やっと見てくれた」なんて言いながら。
目鼻立ちのハッキリとした顔に、170センチを越す高身長と、男らしく程よくついた筋肉、柔らかな物腰と言葉。
当然モテるけれど、私は彼に好きとも愛してるとも言ったことはなかった。
「俺、本気だよ?」
「胡散臭い」
彼の言葉をたったの一言で切り捨てる。
彼は眉を下げて笑うから、私が悪いことをしている気分にさせられて、正に気分が悪いというもの。
「そんなに本気なら、それ外してから言えば?」
本を鞄の中に入れながら、それ、と顎で彼の手を指し示せば、彼が笑う。
彼の右手薬指に付けられたシンプルな指輪。
キラリ、と光るそれを見た彼は愛おしそうにそれを見て撫でた。
あぁ、反吐が出る。
コポコポと胃液が湧き出てきそうな感覚に眉を顰めて、胃のある場所を緩く撫でた。
彼は相変わらず指輪を見つめている。
二番は要らない。
私以外は要らない。
私以外を見るなら要らない。
二番目に愛されるなんて嬉しくない。
「絶対に、答えてなんてやらない」
胃液を吐き出しそうになりながらも、代わりに言葉を吐き出して彼を睨んだ。
知ってる、知ってるんだよ。
同じ指輪を隣のクラスの、この学年で一番可愛いって言われてる子が持ってること。
その指輪を見る時と同じ顔でその子を見てること。
だから、私は彼の言葉に答えない。