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2015年/短編まとめ

それは愛とは呼ばないわ

作者: 文崎 美生

「愛してる」


「それは、どうも」


彼の言葉に、私は顔を上げることなくそう言って、読みかけの本に視線を走らせる。

文章を暗記でもするのか、と言われるくらいに同じ本を何回も何十回も何百回も読む。

本を読んでいる時が一番幸せを感じるから。


「相変わらずつれないねぇ」


苦笑と溜息混じりにそう言った彼。

彼は私の幸せを奪う。

新しい幸せのようなものを目の前に吊るす。

私が掛かるのを待っている。


なんて悪趣味な男だろうか。

そっと本に栞を挟んでから彼を見た。

すると彼は、女の子顔負けの長いまつ毛を伏せて笑顔を見せる。

「やっと見てくれた」なんて言いながら。


目鼻立ちのハッキリとした顔に、170センチを越す高身長と、男らしく程よくついた筋肉、柔らかな物腰と言葉。

当然モテるけれど、私は彼に好きとも愛してるとも言ったことはなかった。


「俺、本気だよ?」


「胡散臭い」


彼の言葉をたったの一言で切り捨てる。

彼は眉を下げて笑うから、私が悪いことをしている気分にさせられて、正に気分が悪いというもの。


「そんなに本気なら、それ外してから言えば?」


本を鞄の中に入れながら、それ、と顎で彼の手を指し示せば、彼が笑う。

彼の右手薬指に付けられたシンプルな指輪。

キラリ、と光るそれを見た彼は愛おしそうにそれを見て撫でた。


あぁ、反吐が出る。

コポコポと胃液が湧き出てきそうな感覚に眉を顰めて、胃のある場所を緩く撫でた。

彼は相変わらず指輪を見つめている。


二番は要らない。

私以外は要らない。

私以外を見るなら要らない。

二番目に愛されるなんて嬉しくない。


「絶対に、答えてなんてやらない」


胃液を吐き出しそうになりながらも、代わりに言葉を吐き出して彼を睨んだ。

知ってる、知ってるんだよ。

同じ指輪を隣のクラスの、この学年で一番可愛いって言われてる子が持ってること。

その指輪を見る時と同じ顔でその子を見てること。


だから、私は彼の言葉に答えない。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  楽しかったです。 [一言] 一番に愛されたいですね。
2015/09/19 23:00 退会済み
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