道具屋、勇者になるまで。
「はぁ、何も考えていなかったのね。リクって本当にお間抜けさんね。私がお教えしましょうかしら?」
アーネシアが子供を窘めるようにそう言った。
「クッ、おまえに聞くのは癪だがまあいい、どうすれば勇者に為れる? アーネシア」
「まず、町の掲示板に行きましょう。そこに勇者の招集紙がまだあるかもしれないし」
「ああ、わかったよ」
俺は渋々アーネシアについていき掲示板のある、町で一番盛り上がっている中央広場へと向かった。
「えーっと、勇者の招集っと……あ、あったわ」
アーネシアは掲示板の隅の方に貼ってあった招集の紙を取り嬉々とした顔で俺に見せびらかしてきた。
「取り敢えず一旦家に帰って必要事項を埋めましょう、リク」
「ああ、わかったからさっさと紙をよこせアーネシア」
俺はアーネシアから紙を奪い取った。
「ちょっと、リク、折角見つけてあげたのに奪い取ることないじゃない。礼ぐらい言ったらどうなの?」
「はいはい、ありがとうありがとう」
俺はアーネシアに適当に返事をし、さっさと家へ帰った。
家に帰った俺はアーネシアから奪った募集要項に目を通しながら書き込んでいく。
「さ~ってと、どれどれ年齢に職業、住所にそして魔物討伐経験か……まあ、適当に書いとけばいいだろう」
そんな時俺の部屋のドアが突然開きだした。
「リク~、もう紙の方はかけたかしら?」
アーネシアだった。
「部屋に入る時はノックをしろとあれ程言っといただろ!! そういうアーネシアはもう紙を書いたのか?」
アーネシアは俺のノックをしろ発言に少し呆れた後、自慢げに俺の質問に答える。
「リク、あんたは女子か?! それにちゃんと紙読んだ?勇者が仲間と認めたものは勇者同様の地位を持つって書いてるじゃない」
「俺は歴とした男だ。つまり、お前は書かなくていいのかよクソッ楽しやがって。それで、紙は書けた。これをどうすればいい?」
「はぁ、それを役所に持っていって、後は国からの返事を待つだけよ」
「そうか、じゃあ、役所まで持っていってくれないかアーネシア。一緒に旅がしたいのだろう?」
「それ以前に私がいなければあなたは勇者になれないわ、リク」
「クソっ、わかったよ。ちょっと行ってくる」
俺はアーネシアに不満を抱きつつ掲示板があった中央広場にある役所に紙を持って行った。
「ここが役所か」
俺は役所のドアの前に立ち気合いを入れた。
「よし」
力強く開けたドアの向こうから元気のいい女の子の声が響いてきた。
「いらっしゃいませ~」
俺はその女の子が座っているカウンターの前に立って紙を渡した。
「いらっしゃいませは店がする挨拶だろ」
「あら、そうでしたから。これはご迷惑をおかけしました」
「まあ、迷惑ってほどでもないからいいけど……それにしても、見かけない顔だな、新人か?」
女の子は待ってましたといった感じで俺の質問に答えた。
「ええ、今日からこの町でお世話になります。役所のセシリア・エマーソンです」
「そうか、俺はリィクレイン・ターナーだ。リクと呼んでくれ」
「よろしくです。リクさん」
「ああ、よろしく。セシリア」
と会話をしている中カウンターの後ろ方から役所の人間から注意を受ける。
「コラッ!! エマーソンさん、あまり相手方と話し込まないの!!」
それに対してセシリアは慌てた様子で答えた。
「あわわ、す、すみません」
俺はセシリアを宥めるために言葉を発した。
「いやいや、俺のことは大丈夫だから。じゃあ、この紙頼むよ」
俺はそういいながら紙を突き出した。
セシリアはその紙を見ながら俺に質問してきた。
「かしこまりました。……リクさんは勇者なられるのですか?」
「ああ、俺は勇者になりこの世界を変えるのさぁ」
その返事が何か可笑しかったのか、セシリアは笑いながらこう言った。
「それは頼もしいですね。頑張ってください」
俺はそれに対して、
「何も笑わんでもいいだろ」
「いえ、一緒にいると楽しい方だと思いまして」
「どっちも変わらんだろ」
とまた他愛ない会話をしていると役所の人がセシリアに対し注意してきた。
「エマーソンさん!!」
「す、すみません。それでは、ターナーさん紙はこちらで処理をしておきますんで、これ大丈夫ですよ」
「ああ、そうか。後は頼んだよセシリア」
そう告げた俺は役所を後にした。
後は、家で国からの連絡を待つだけ。
そう、俺は勇者になるのだ。