道具屋、勇者になろうとする。
「クソ、武器屋め! さっき買ったこの武器町の近くの洞窟に普通に落ちてるじゃねーか返品しやがれ!」
ともやし体型の男性が怒鳴り付けてきた。
「当店ではお客様の都合による商品の返品・交換は一切お受け出来ません」
俺は店の規則に従い砦を守る番人のように返事を返した。
「何、門番みてぇーに言ってんだよ。俺は勇者だぞテメェーら武器屋風情は黙って武器を売っとけばいいんだよ」
「ええ、なので返品は一切お受けできません」
「あぁー、クソ二度と来るかこんな店、俺が魔王を倒し、真の勇者になった暁にはこの店を真っ先にぶっ壊してやるからな」
「頼もしい勇者様なこと、旅路はお気をつけて……」
男は俺の言葉を聞くなりさっさと店から離れていった。
その男の後姿が消えるまで見届けていると後ろから図太い声で呼ばれる。
「こらこら、リィクレインお客様は神様じゃぞ、あまり怒らせる出ない」
「大丈夫ですよ、お父様。神様はあの程度にはお怒りになられませんよ。なんせ神様は寛大ですから」
「そうでもじゃ、お客がいなければわしらは食っていけん。次から気を付けてくれ……」
「わかりました。お父様」
この長い白鬚な偉そうなじじいは俺の父『セグウェイ・ターナー』だ。
武器・防具屋を代々営んでおり、現当主である。
「そもそも、誰かさんが魔王『サーミチュア』を復活させるから国が自称勇者様を招集するはめになり、その勇者の為に低額で武器を売れなんてお国も都合がよすぎるぜ」
「しょうがないだろリィクレイン、国があるから我々が生きてられるんだ。その恩を今返さなくていつ返すと言うのだ」
「庶民は生まれながらにして国にご恩があるのかよやってられんぜ……ったくよ」
そのとき、俺はある事を思いついたのだった。
「父さん、俺、勇者になるわ」
「何を言っているリィクレイン、店もあるっていうのにどういうつもりだ」
「そうよ、お爺様の言う通りよ、リク」
と、突然よく聞く女の声が聞こえた。
「ま~た、来たのか。アーネシア。一応言っておくが幾ら幼馴染だからと言ってもこっちは敵なんだぞ?」
アーネシアは魔道書を販売する店の現当主で俺の幼馴染の女である。
「敵って言っているのはあんただけよ、リク。それより、あんた勇者になるって本気?」
「ああ、俺はいつだって本気さ、魔王を倒し俺はこの腐れ切った世界を変えてみせる」
アーネシアは一瞬思いつめた顔をしたが、すぐにいつも以上に明るい表情に変化した。
「世界は変えれるとは思わないけど、リクが本気なら私手伝おうかしら」
「アーネシア嬢まで、何を言ってるのです。店の方はどうするのです? 」
「私、名案があるの。私たちが旅をしている間、魔法屋と道具屋を合体させるのよ。そうすれば私のとこの店員も使えるから店は人員は大丈夫でしょう」
「しかし……」
アーネシアは有無を言わぬ勢いでセグウェイをにらみつけた。
「わかりましたよ、お嬢……」
「何勝手に決めてんだよ、アーネシア。誰がお前なんかを連れていくと言った。足手まといだ。去れ。シッシッ」
「何もそんなに邪見にしなくもいいじゃないリク。私がいなければあなたは勇者にすら為れないのよ?」
「クソッ、勝手にしやがれ」
「いいお返事ね、リク。それで、これからどうするの?」
「え、どうすれば勇者になれるんだ?」
これは迂闊だった唐突に思いついた故に何も考えていなかったのだ。
この先、心配だがまあどうにかなるだろう。
俺はそう思うことにし勇者になるべく行動に移すのだった。