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Till you die.  作者: 一倉弓乃
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プロローグ

「なんとなく読んだけど興味とちがった。」「わけわからんくて感想かけないけど読んだ。」「なんでスバリをカットするかなあ、自信ないの?」などでもいいので、是非この長編にチャレンジした方は一言くださいませwこれはもう、読み切るだけでも相当のガッツが必要ですwあなたの挑戦をお待ちしています!

「…斎、おもしれえ話したろうか。」

 確かそのとき、陽介はロボットの改造に飽きて、猫には寝られて、ずいぶん退屈していたように思う。

 斎は追試対策勉強のイオンに振り回されて四苦八苦していたので、「ああ」と曖昧な…肯定ともツッコミともつかない返事をした。斎は元来数字や記号には強いほうなのだが、調整項目が多くなると、さすがにチンプンカンプンだ。「やれやれ、これが生物の電子伝達系とかの説明でなくてほんと助かったぜ」と傲慢にため息をつく陽介の嫌味に耐えつつ、ようやっと自分で計算式をいじり始めたところで、機嫌も悪かったし、注意は全てイオン記号に向いていた。

 今思えば、斎が聞いていないのは明らかだったのに、陽介はかまわずにしゃべりだしたのだった。…陽介は実質一人息子として大切に育てられていたから、勿論我侭だしプライドが高いし、しかも悪いことに癇癪持ちだ。だが、それだけに珍しい行動だった、と斎は思う。いつもの陽介なら「聞けよ!」と怒鳴り付けてくるか「聞く気がねーならしゃべってたまるか」とふてくされるかどちらかだったはずだ。だがそのときの陽介は…まるで小さな子供に寝物語でもきかせるかのような静かな声で、話しはじめたのである。…斎の都合も態度もそっちのけで。

「…昔まだドームが出来る前の時代の話だがよ、紫外線もあんまり強くなくて、普通に外で子供らが遊んでたころのことよ。ある男子小学生がな、放課後、ひとけのなくなったグラウンドで、一人で鉄棒していたら、手にできたマメがやぶれてよ、痛くてたまらねえから、校舎の近くの水道まで、手を洗いにいったのよ。」

「ふんふん」

 とりあえず、あいづちだけうった。

「…手を洗っていたらな、校舎の窓が開いてるのに気がついたわけよ。男子が見てみると、そこに、高学年の女子がいたのよ。中学生かもしれねえ、と思うような、大人っぽいカワイイ子だったんよ。髪はその当時は一般的だったおかっぱ頭ってやつな…まあ、春季みたいな。」

「ああ。」

「…その子が、水道んとこの男子に手招きすんのよ。ニコニコして。こう、ひじで窓にもたれてさ。いいかんじなわけよ。男子はちょっと『おおっ?!』てなもんでよ、のこのこ近付いたのよ。」

「…ふーん。」

「そんで少し話したのな。まあ、逆ナンみたいな。何年生、とかそういう話。」

「ふんふん」

「面白がって話しはじめたものの、男子はすぐ退屈になってよ、きれのいいところで、じゃーなって別れようとしたんよ。…手もいたかったし、鉄棒練習してたしな。忙しかったわけ。」

「ふんふん」

「そうしたらその女子の声がな、『あ、まって、まってえ』て、追いかけてきたのよ。」

「ふーん…あれ?女子は校舎の中にいたのとちがうの?」

「そーヨ。…そいつもあれっと思ったけどな、そのまま歩いたのよ、そしたらぱたぱたぱたぱたーっ!!」

「ぎゃ!!」

 陽介が突然大声を出したので、斎はびっくりして思わず顔をあげた。陽介はニヤリとした。

「…て、変なおとがすんのよ。」

「…つまんない手でおどすな。」

「…男子がふりかえったらな、そこには何もない。でも『まって、まってー』って女の声と、ぱたぱたいう変な音だけがすんのよ。」

「なんなのよ。」

「…音と声をたどって地面をみると、そこにいたのよ。」

「…」

「…その女、胸から下がなかったのヨ。」

「…」

「…両手つかって素早くぱたぱたと移動してたわけよ。」

「…」

「…もう、男子ギャーっつってナ。一目散ににげましたとさ。」

「…」

「男子、なんとか逃げ切ってよ、みんなにその話、したわけ。そしたらあるおじさんが…そのおじさん鉄道関係の工事とかしてるおじさんでな、こう言うわけよ。それを聞いて思い出したことがある、ナン丁目のふみきりのところで事故があってヨ、って。」

「…」

「女がひかれてまっぷたつ、ごとんと落ちてきたのを助けに行ったら、胸から上しかなかったわけよ。」

「…」

「でも女はまだ生きててナ、『ごめんなさい、こんなことになって、すみません』とやたらに恐縮してあやまるんだと。」

「…その人死んだの?」

「…昔の話だからな。」

「…。じゃ学校の女子は、その事故死した人の幽霊だったの?」

「…そう思う?」

「…ウン、まあ、話しの流れから言って。」

「…俺もさ、ずっとそう思ってたのヨ。」

 陽介はそう言うと、猫が眠って手持ち無沙汰になった猫じゃらしで、自分の肩をぽんぽん、とたたいた。

「…でも最近はさ、こう思ったりするわけ。実はその地区は医療開発の特別行政区だったんじゃないかって。そのあたりではさ、研究がすすんでて…。その学校は、放課後の校舎民間利用で、リハビリ施設だったんじゃないかって。」

「…じゃ、幽霊じゃなくて、生きてたって言いたいの?」

「そう。」

「…だとしたら、すっげえ可哀想な女の子のお話なんじゃん。」

「そう。…男って残酷よね、こんな話おもしろがって、まるで自分が被害者みたいに、とまあそんな話。」

「いやそこまでは言ってないけど…。むしろ解釈に無理があるってことを言いたいんだけど。」

 陽介は批判されているわりに機嫌のいい顔で言った。

「じゃ、どう思う?やっぱり幽霊か?」

「…そおね、幽霊が妥当なんじゃない。」

「おめえ幽霊みたことある?」

「ないけど。」

「…なんで、踏み切り事故の年齢不詳女が、中学生になって小学校に出たのヨ。」

「えー…そんなこと言われても。だってだいいち、あんたが踏み切り事故の人死んだっていったんじゃん!」

「じゃ俺の医療特別区解釈けっこう妥当だってことか。」

「…待ってよ。なんなのその話。なんかの懸賞つきホラーミステリー作品?」

 斎が尋ると、陽介は機嫌よく笑った。 

「…実はこの話はさ、昔日本州に流布してたいわゆるデマってーかさ、…都市部の民間伝承がモトになった怪談話なんだよ。後世にいろいろ付け足しやら削除もあったみたいなんだけど。」

 斎はああ、と納得した。

「そうなんだ、なるほど。それで辻褄があわなかったり、いろいろ無茶なんだ。」

「そゆこと。…だから多分、ふみきり事故と放課後の謎の少女がどこかで混同しちまっただけのでまかせな可能性がたかいわけ。」

「…で、その話はどこが面白いの?」

 斎が不愉快の色を顔に出して尋ねると、陽介は言った。

「…どんな解釈であれ、ごく自然に共通に解釈されている空白部分がある。」

「?」

「…幽霊であれ、気の毒なけが人であれ…彼女は退屈だったか、寂しかったかしたから、その子に声をかけたんじゃないか?」

「…」斎は少し考えた。「そうだろうね。…去ろうとしたら追いかけてきたんだもの、余程だね。」

「…んじゃその女の人格ってあるってことだよな。退屈だったり寂しかったり、そういうことに俺達は共感できる。」

「…まあ、そうなるね。」

「ところが全身が見えたとたん、子供はもう、その女の人格を認めていない。化け物扱いだ。」

「…そうね。」

「お前はそこが彼女に対して残酷だといい、物語はそれが子供に対して残酷だという。」

「…そうね。」

「…人間の人格って、人体のどこにあるんだ?」

 …斎は考えた。

「うーん、それはさ、つまり…体のどこかに人格があるわけじゃなくて、…人格なんてそもそも便宜上の抽象概念にすぎないってことなのよ。だから、胸から下がないっていう驚きの衝撃のまえに、こなごなにふっとんじゃって、抽象概念以前の動物的認識で対応した、ってことなのよ。」

「ふんふん、そうか。…便宜的な抽象概念、ということは、現実には人格というものは存在しないってわけだ。」

「そういうこと。人権とか平等とかと一緒さね。」

「…じゃあどうして俺達は、その女が退屈だなんて思うんだろう。」

「…」

「…どうしてお前は、その女が可哀想だなんて思うんだろう?」

 斎はじっと陽介の顔を見た。陽介は尋ねた。

「…可哀想とか退屈してそうとか漠然と理屈なしにただよわす…その主体だか対象だかが人格…抽象概念でないとしたら、それを何とよべばいいんだ?」

 斎はんー、と考えて、それから人さし指を立てて言った。

「…魂。」

「魂かよ!」

 陽介は笑った。

「…さすが巫女さんは言うことが違う。」

「デショ。」

 斎は肩をすくめると、再びイオン式に戻った。

 すると陽介はまたしつこく言った。

「…相手の肉体が半分になったとき、人間の抽象概念辞書そのものかもしくはそのプラグインかが破壊されて、人格という概念が機能しなくなることがある、けれども…そういうときでも魂という概念なら機能する。魂には共感性があり、尊厳もある。そういうことを言ってるように聞こえるが。間違いないか?」

 仕方なく斎はもう一度顔をあげた。

「…正しいかどうかはしらないよ。でもそういう可能性はあるね。わたしの感覚はその理屈で説明できるな、とは思うよ。」

「つまり魂について記述されている辞書は、抽象概念辞書ではなく、いわば経験辞書のようなものだと。」

「そうよ。…むしろ実感が優先してると思うね。」

「…じゃあ彼には魂という経験がなかったんだろうか?」

「そうとは限らないさ。慣れもあるしね。」

「…慣れてたら、彼はその女から逃げなかったと思うか?」

 斎はいい加減うんざりして言った。

「経験から何か学んでいればね。…そうじゃん、例えばその子がしょっちゅう、あんたが想定したリハビリ施設でボランティアしてたら、女の体がないくらいのことでビビりゃしないわ。実際ふみきり事故のときのおじさんはビビらなかったじゃないの。…その踏切事故の付け足し部分さ、『その女には何ら悪気はなく、むしろただ苦しみだけがある』とか『大人だったらこう対処すべき』って御教訓なんだと思うよ。誰か気のきくお姉さんが倫理感から付け加えて広めたんだわさ。」

「…なるほどねえ、やっぱ場数かねえ。」

「何事も場数よ。…だからこそこうやってあたしゃイオン式の問題集解いてるんじゃない。」

「ははは、ちげえねえ。」

 陽介は共感性の欠如した虚ろな笑い声をたててから、言った。

「…俺がこの話を初めて何かで知ったときゃちょうど小学校の3~4年でよ、怖くて怖くて一週間うなされたぜ。俺は今の医療ならこのくらいの怪我なら助かる見込みもまれにあるこた知ってたし、この話をうっかり耳にしちまった体のない人がどれほど傷付くか、ガキなりに想像できなかったわけじゃない。…なのにどうして怖さに…体勢立て直すことができなかったんだろうな?」

「…」

 斎は得たり、とばかりに問題集を完全にわきにのけた。

「…そりゃね、あんたにぱたぱたぱたー!をやったやつが、巧かったのよ。」

「…いや、本で読んだんだ。」

 斎は少し考えた。

「…じゃあ、あんた、そゆの、あったのと違うの?」

「…?」

「だから、あんたの何らかの体験とリンクしているのと違うの?」

「…女にふらふらよってって悪戯でもされたってか。」

「そりゃしらないけどさ。…あとはほら、足がない犬だとたかくくって石ぶつけたら追いかけられたとか。…あとはあわや踏切事故になりかけたことがあるとか。」

「どれもありえない。俺ガキんときから女苦手で動物大好きだし。ご覧のとおりこのあたりに踏切はない。」

「あたしライオンに石ぶつけて死にかけたことあるよ。」

「動物虐待すな!!」

「けけけ。…じゃあさ、陽介の『女コワイ回路』にびびっとひびいちゃったんだわさ、きっと。その窓辺の美女はまちがいなく、性的な魅力で男の子を呼び寄せてるからね。あんたの語りもそこんとこ熱入ってたし。」

「…そうか?」

「ウンウン。…なんであんたそんなに女怖いのよ。」

 斎はなるべく軽い調子で尋ねた。

 陽介はさほど考えずにすらすら答えた。

「うーん…どうなんかな。多分お袋が若くて色っぽいからとか、そういう理由かな?」

 斎は一本釘をさした。

「そんなフロイトから切り貼りしたような返事であたしを騙そうとするなよ。」

 陽介は肩をすくめた。

「…さもなきゃガキのころに女にいびられたんだろうよ。うちの親父に色目使ったとか言われて。なんかシャクみたいなもんでべしべしはたかれたりとかさ。」

「なんじゃあそりゃあ。」

「…俺知らないおじさんにはついていかなかったけど、知ってるおじさんにはよく懐く子だったからな。なまじの女の子より可愛かったしさ。安西や橘にもよくどつかれたぜ、うちの親父に甘えるなって。」

 斎は思わず「がー」の形に口を開けたまま、固まった。

「…ん?どした?」

「…だから自分を美形だと思ってる男ぁ嫌いなんだよ。」

「ははは。思ってねーよ別に。でも昔はかわいかったっつー話。」

 陽介は楽しそうに笑った。

 …斎はもっとそのシャクの件をつっこんで聞いておくべきだったのだ。しかし聞きそびれた。それは陽介がこんなことを続けて言いだしたからだ。

「…なあ、お前の国ではさ、人間は死んだらどうなんの。やっぱし幽霊とかもあるんだろう?」

「…不思議なことに幽霊っていうのは世界中にいるよね。神殿にもドームにもそういう話あったよ。」

「そうなんだ?」

「うん。…死ぬ巫女さんもいるから、やっぱり。」

「そうだよな、巫女さんでも、死ぬときゃ死ぬ。」

 斎は少し考えて、陽介に言った。

「あたしたちの世界ではね、まず、肉体が死ぬと、処理はふた通りあったの。一つはね、魔法樹の根っこに埋めて、こやしにする。もう一つはね、砂漠に持ち出して、風葬にする。」

「…それは、やっぱり、税金払ってると、魔法樹の下?」

「関係ない。まずドームの中で死んだら、根っこに埋められるんだけど、たまーに、魔法樹が拒否することがあって、死体がでてきちゃうの。そおなると、仕方ないから砂漠に出す。そしたらハイエナとかが食べてくれる。」

「…拒否?」

「うん。埋めた死体がでてきちゃうのね。…なんだかわかんないけど、そりがあわないんでしょきっと。」

「…ふーん。悲しいな、死んでまでそれは。」

「そうね。でも魔法樹の餌になりゃ偉いってもんでもないしね。神殿ではむしろ、ハイエナの餌のほうが尊敬されたね。」

「なんで。」

「ハイエナは砂漠を掃除してくれる。いい獣だ。」

「…そうなんだ。」

「そうよ。あれや禿鷲がいなかったら、あたしたち一日中兵隊さんの遺体を埋めてすごさなくちゃならないもの。」

「…そうか。なるほど。」

「ドームの外で死んだら、形見だけ回収してそのまま風葬。…それってあたしたちの仕事だったのよ。」

「え、風葬が?」

「そうよ。形見を回収して、山裾まで遺体を運ぶの。回収した形見は軍か城に返すわけ。山裾の風葬場では、たまに食べられ損ねたものがちらばってたりするから、埋めたり掃除したり、…傷みの少ない頭蓋骨は回収するの。」

 陽介はさすがにしまった、という顔になった。だが斎は続けた。

「…回収した頭蓋骨はきれいに磨いて若い巫女さんが彫刻をするのよ。盃や皿にして売るの。魔よけのお守りとして、すごく高値でとりひきされるの。…中には自分の家族の頭持ち込んできて、盃をつくってくれっていう人もいるのよ。形見として大切にするからって。」

 陽介は絶句している。

「…まあ陽介はここいらのことはあんまりキョーミないよね。…問題は魂でしょ?」

「…え、いや、貴重なオハナシ有り難いとは思ってるけど、なんてあいづちうったものかわからなくて…」

 陽介は慌ててしどろもどろになって言った。

 斎は首を振った。

「…そうね、生々しくてびっくりしたでしょう。でも慣れればどうってことないわよ。まあ死体は臭いし重いしたまに腐りきってるし運ぶのは大変だけどさ、でも人間死んだらみんなそうなるんだから…そう嫌うもんじゃないよ。風葬場…そうね、ここいらの言葉に訳すなら、食事台、かな。食事台に来るハイエナや禿鷲はあたしたちには慣れていて、おそってきたりはしないし、…まあ、何でも慣れよ。バラバラ死体も腐乱死体も、もとは人間だったんだもの。慣れ。場数よ。死体を食べやすく刻むのだって、普段自分の食べ物はみんなそうしているんだから、ハイエナの御飯きざむのだってあたりまえ。…ガスなんかが出がちで危険なところとかはさすがに場数ふんだババアたちがやってくれるしさ。」

 陽介は思わず口をおさえた。

「…チ、チベットでも鳥葬っていうのが昔あったらしいよ。…それは禿鷹に食わせるんだけど、くだいて、ミンチにして、だんごにして。日本でも昔は野ざらしにしてたらしい。」

「そうね、じゃウチらんとこは、獣葬とでもいったほうがいいのかな。…ほら、岩場って照り返しも強いからさ、あっという間に乾燥しちゃうっていうのもあるんだけどね。風も洗うし。」

「…」

「あ、ごめん。眠れなくなりそう?」

「…い、いや、それは大丈夫。…でもやっぱり、最初は、怖かった…よな?」

「…コワイつーのとはちがうね。気持ち悪いってのが正しい。」

「ああ。」

「でも魚さばくのとにたようなもんよ。」

「…そ、そうか?」

「うん。…そうそう、魂の話だったね。」

 斎は存分にハコイリの陽介をいたぶって満足したので、本題に入ってやることにした。

「…魔法樹の根に埋められた場合は、神様にとけこんで一体化するって考えられてた。んでいつか神様が元気になって目をさましたとき、神様と一緒に神様の国へ行くって。」

「なるほど、ストレートだな。」

「で、食事台の場合は、まず動物たちとそこいらを駆け回る。」

「…」

「それからしばらくすると、動物の耳の間で、目がさめる。」

「あ、そう。」

「うん。あれっ、おかしいな、とか思いつつ、そのまま暮らしたり、漂ったりする。」

「漂うと幽霊?」

「そう。…で、なんかの拍子に、ふわふわっと浮かびあがる。そいで、食事台の岩山をふわふわ登って行く。その山はあのヨに通じている。」

「あのヨは…どんなとこ?」

「…薄明るくて、眠いとこらしい。…ちなみにこれだけのこと説明するために、伝承民話、ええと…3つかかってる。」

「…ソレ今度ヒマなとき録音さしてヨ。」

「やなこった。わすれちまったもん、くわしいとこ。」

「おぼえてるとこだけでいいよ。」

「…あんたねーっ、夏休みに春季ちゃんと田舎いくんでしょ。そしてウンじゃか極東のオハナシ集めて、資料整理でてんてこまいするんでしょーっ。…あたしの話はまたこんどね。…それにあたし、化学の次は数学やらなくちゃ。そもそも追試とおらなきゃ、夏休みどころじゃないのよ。」

 斎がそう言うと、陽介は残念そうだった。

「…そうだったな。」

 斎は今度こそ問題集に戻った。

 陽介が、

「…それで結局人間は死ぬとどこいくのかねー…」

と呟いたが、無視した。

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