一二話 三条制札事件
作者は英語がからきしのダメ人間です。(中学英語も怪しい)
英文などに多数の誤字があると思いますが、ご容赦ください。
慶応二年(一八六六年) 九月一二日 西本願寺。
長月の過ごしやすさが、心地よくなった。
龍久が新選組にやって来て、二年以上が過ぎた。組長の職にもだいぶ慣れアレから何度か不逞浪士を捕まえた。隊内でもかなり名前が知れ渡り、年上の隊士達から頭を下げられるのは、今だ慣れない事だった。
「お~~い龍久、葛餅持って来たぜ」
西本願寺にやって来たのは、葛葉だった。
相変わらず童水干に高下駄という格好だったが、もう見慣れてしまったせいか特に何も言わずにそれを受け入れてしまっている。
「おう、もう少し待ってくれコレが終わったら茶を淹れるから」
龍久は庭で素振りの練習をしていた。今は、新選組の天然理心流を学んでいる。
「しかし龍久も熱心だねぇ、このご時世の剣の稽古なんて、俺には出来ないよ、うん」
「馬鹿野郎、こんな時代だから剣の腕を少しでも上げようと努力してるんだ、武士として」
縁側に腰を掛けて、葛餅を頬張っている。『葛』同士なんだか面白かった。
葛葉は、何時もこうやって来ては世間話をしている。始めは龍久も警戒していたが、今では平助と同じぐらい仲が良くなった。
「お~~精が出るな龍久、それにまた来てたのか坊主」
そう言ってやってきたのは、まだ幼い子供を肩車している原田だった。
「こんにちは原田さん」
「よお死に損ない、また息子連れて来たんだな」
葛葉がそう言うが、流石の彼も自分の息子の前では怒る事はない様で、肩からおろした。
「うるせぇよ坊主、それよりお前副長に見つかるんじゃねぇぞ、此処は他所者厳禁だ」
「まあ鬼に見つからねぇように、せいぜい隠れるとしましょうかねぇ」
葛葉は何時も龍久が一人でいる時か、もしくは見つかってもとやかく言わない人がいる時でないとやって来ない。
「おっ左之助、なんだまた息子自慢か?」
そう言ってやって来たのは夜勤の新八。どうやら今起きた様で酷く寝むそうだった。
「おお、茂の竹刀の振りはすごいんだぞ、この歳だってのに立ち構えからすごいと来た、こいつは絶対に天才だ」
こうやって息子を連れて来た時は毎回の様に自慢をするので、皆耳にタコが出来ている。葛葉さえもその話をろくに聞かず子供に葛餅を分けてやっていた。
「そう言えば今日は左之助、お前が三条大橋だったよな」
「ああ、あと新井と大石もな、でも参っちまうよなあ、まさかたかが札の警備なんてよ」
三条大橋西詰の制札が、何者かに引き抜かれると言う事件が起きた。
この制札というのは、二年前の禁門の変、一年前の第二次長州征伐の失敗などですっかり権威を失くした幕府が、長州は朝敵(天皇の敵)である旨を書いた立て札の事だ。
雨風にすっかりさらされて、ボロボロになっていた制札だったが、これを引き抜くなど幕府に逆らうも同然である。
「しかも、立て直された札をどこの物好きか知らねぇが、二回も引き抜いて鴨川に捨てやがって、えれぇ迷惑だっての」
「たかが札の警備なんて、暇で暇でしょうがねぇ」
こういう大したことない物は、旗本で構成された京都見回り組でも京都守護職の会津藩でもなく、新選組に廻ってくるのだ。
「でも、幕府直々の任務なんてすごいですって」
「けっ、だったら長州征伐に俺達を加えろってんだ」
結果的に幕府は、長州というたった一藩に押されて、撤退を余儀なくされたのだ。長州の軍の大半は農民などろくに剣も振るった事のない物達だったと言うのに。
「俺達新選組を連れて行かなかったから、負けたんだよ幕府は」
そんなむちゃくちゃな事を言う原田だったが、龍久も心の隅の方でそう思っていた。新選組はこれほど幕府に尽くしているのに、どうしてそれを分かってくれないのだろうか、こんなに士道に溢れる者達は、他にはいないと言うのに。
「ほら原田、おめぇはとっとと息子を置いて来て、仕事に行け」
「あ~分かったよ、ほら茂、お前はこんな奴に成るんじゃねぇぞ」
「うるせぇ! とっとといけぇ」
良い大人が何をしているのかとため息をついたが、ああやって家庭を築いている所を見せつけられると、少しだけうらやましく思う事もある。
「龍久おめぇは所帯を持とうとかおもわねぇのか?」
「ちょっ、永倉さん、俺が嫁を貰うなんて無理に決まってるでしょう」
「なんだもったいねぇな、なんなら俺が協力してやっても良いぞ」
「もう、良いからとっと着替えに行け!」
からかう新八を追い払って、龍久はようやく竹刀の素振りを止めて葛葉の隣に腰掛けた。
「全く、永倉さんめぇ」
そう愚痴りながら葛餅を口にする。上質な滑らかさと黒蜜の甘さが口の中に広がり、最後にきな粉の香ばしさが抜けて行った。
「龍久、お前今日非番だよな」
「ああそうだけど……それがどうかしたか葛葉」
葛葉は何時になく真剣な面持ちでこちらを向いていた。なんだ彼まで嫁を貰えとでも言うのだろうか。
「なら夜、三条大橋に行くぞ」
「ええ! なんでだよあそこは原田さん達がいるだろう、遊びに行くんなら祇園だろ」
そんな非番の日にわざわざ仕事をしなくてもと愚痴るが、葛葉の表情はやはり真剣そのものだった。
「良いから行くぞ、行かないとお前は一生後悔するからな」
「はあ? 何言ってんだよお前」
なんだかあの池田屋の夜の事を思い出した。彼はあの日に状況を言い当てていた、だから断るに断り切れなかった。
「今夜は、『超』忙しくなりそうだ」
葛葉はそう言って、葛餅を口に放り込んだ。
三条大橋は、鴨川にかかる三条通りの橋で有る。
大きいうえに、この橋は多くの晒し首が行われた場所としても有名である。龍久自身は、晒し首は見た事無かったが、あまり来る場所でもなかった。
おまけによると言う事もあってか、龍久は本当に乗り気しなかった。
「おいおい龍久暗いぞ、もっとテンション上げて行こうぜ」
そんな葛葉の言葉では到底明るくなどなれなかった。
とりあえず原田達に差し入れという事で、適当な菓子折を持って来たのだが怪しい人物などいなかった。
「龍久じゃねぇか、お前どうしたんだ?」
三条大橋西詰のすぐ側にある、三条会所に原田達は居た。大石と新井は別の場所にいるらしい。普段は人通りがある大橋だが、流石に夜にもなると誰もいなかった。
「もう子の刻も過ぎた頃だからな、やっこさんらが集まるかどうか」
原田はそう言いながら、鋭い視線を大橋の方に送っていた。
巡察時の浅葱色の羽織ではなく、黒いデイダラ型の染め抜きの夜間襲撃用の羽織を着ていて、他の隊士達もこの姿だったので、私服の自分と童水干の葛葉がなんだか場違いだ。
「まて、誰か来たぞ」
原田が言うと、月明かりの三条通りへと向かう数人の人影が有った。どうやら酔っている様で、馬鹿みたいに大きな笑い声と千鳥足が目立った。
「何人いたか分かったか?」
「八人ぐらいじゃねーの?」
そう一度も奴らを見ていない葛葉が答えた。眼を凝らして見ると、確かに彼の言うとおり八人ほどいた。
「よし、新田隊に伝えろ、他の奴らは俺について来い」
原田達はその八人の後を慎重に追った。龍久は本来非番で有るからそんな事しなくとも良かったのだが、ついその場の空気を読んで続いてしまった。
そうこうしている内に、八人の男達は笑いながらなんの躊躇いもなく制札を引き抜いた。
「あっ!」
すぐ様出て行こうとする龍久を、原田が抑えた。
「あいつらが鴨川に制札を捨ててから出るぞ、そん時が最後、俺の槍の餌食にしてやる」
彼の槍を持つ右手に力が入る。槍の名手である原田は免許皆伝まで持っている腕前だ。
龍久は焦る気持ちを抑えながら、彼らが大橋へ向かうのを待った。
そうして居ると、男達は鴨川へと制札を投げ捨てた。その瞬間をねらって原田は動いた。
「おらぁ不心得者共、新選組十番隊だぁ! 神妙にお縄につけぇ!」
原田の怒号により、八人の男達は自分達が付けられていた事を察した様だが、既に時遅し、十番隊の面々に囲まれている。
「しもうた、囲まれた」
この訛りと男達が下げていた長刀を見るに、こいつらは土佐の人間らしい。
敵の正体が分かった、後は捕まえるだけと原田は槍を振るった。
すぐに乱闘となり斬り結ぶ。だが数では数人有利だった十番組だったのだが、正に窮鼠猫を噛むと言った所で、土佐の男達も長刀を振るった。
「おるあっ!」
怒号と共に男を吹っ飛ばした原田。悶える男をすぐに隊士が確保していくのだが、だんだんと包囲網が崩れていた。
「くそう、新田と大石はどうした! 伝令はまだか!」
西詰の酒屋で待機している新田と、橋向かいの東側に待機している大石の組の応援がなかなか来ない。既に伝令は伝わっているはずなのだった。
「早く逃げるぞ!」
包囲が崩れた西側へと土佐藩の連中は逃げて行く。逃がすものかとその後を追う龍久。
「くそっ、新田さん何やってやがんだ! お~~~い敵だ~~~捕まえてくれぇぇぇ!」
大声で叫ぶと、酒屋から数人の隊士達が出て来た。これでようやくと思ったのだが、こちらも随分と呑んでいる様で、捕獲どころではなかった。
(新田さんってそういやあ無類の酒好きだったっけ……)
どうしてそんな奴を酒屋なんかに配置したのだと恨みながらも、龍久は抜刀して土佐浪士に斬りかかる。
「くっ、うおりゃああ」
男の右手を切りつけて、蹴り飛ばしてやった。男は酔っているのも有って派手に転んだ。
「良くやった龍久、このまま一気にとっ捕まえてやらぁ」
追って来た原田と数名の隊士達によって再び包囲網が出来た。残り五人どうにか捕まえようと距離を詰めていた時だった。
「貴様何者だ!」
新田隊の隊士数人が、不審な人影を取り囲んでいた。どうやらすぐ傍に有る宿屋から逃げ出して来た様で、やけに背の高い大男だった。
「その笠取らぬか!」
無理矢理笠を奪い取ると、その男の顔が見えた。
月明かりに映える金色の髪と白い肌、そしてまるで魚の様な青い眼――。
それは異人だった。
なぜこの京都に異人がいるのか、全く分からない、龍久にとってはコレが初めてみる異国の人間だった。
「なんでこんなところに異人がいるんだよ……」
「どうでもいい、おいそいつもとっ捕まえろ!」
原田の命令でその異人に刀が向けられる。それに驚いたのか酷く興奮した様子で叫んだ。
「Oh no! Help me, please」
異国の言葉なので、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
だから後は彼らに任せて、自分は目の前の土佐藩に集中しようとした時だった。
「龍久、上だ!」
会所に居た葛葉が、通りからそう叫んだ。
龍久は言われた通り上を見てしまった――。
宿屋の一階の屋根に人影が合った。
月明かりで照らされるその人物は、黒い洋装を着て仮面を付けていたのだが、そんなものどうでもいいと思わせるほど白い髪だった。
短く切り揃えられた白髪は、根元の方がうっすらと灰色を残していて異質な雰囲気を出していた。だが、その姿は月明かりに照らされて、とても美しかった。
「なっ何者だ!」
原田がそう叫ぶが、少年はそれを返さずに屋根から飛び降りた。
まるで天狗の様に軽やかな動きで三条通りに降り立つと、異人を囲んでいる新田隊に向かって突撃する。それを迎撃しようと刀を抜く彼らだったが――。
瞬間、新田隊が宙を舞っていた。
どういう訳か、彼らが飛んでいた。
それが投げ飛ばされた物だと認識するのに時間がかかった。
その少年は小柄で、投げ飛ばされた隊士は体格の良い男共だ、到底投げ飛ばされるとは考えられなかった。
少年は異人を庇う様にその前に立ち塞がった。
「Bring a horse!」
また異国の言葉だった。着ているものや肌の色が白いので彼は異人で有るのだろう。
少年に何かを指示された異人は、すぐに細い路地へと入って行く。それを追おうとするが、彼が完全に道を塞いでいて追う事は出来ない。
「てめぇ、なにもんだ」
様子を見ていただけだった原田が、槍を構えて少年と向き合う。原田がテダレだと分かるのか、少年は腰に下げていた日本刀を、左手で引き抜いた。
「斎藤さんと同じ、左利き!」
「はっ確かに珍しいが、知ってるのか? 刀が槍に勝つには三倍の強さが必要なんだぜ」
原田がそう言うが、少年はやはり返答しない。言葉が分からないのか、それとも答えようとしていないのか、だが原田の勘に触ったのは事実だった。
「なんとか言いやがれ!」
原田の鋭い槍の一閃が、少年に向けて繰り出される。
今にも少年を貫こうとしたその時だった――――彼はそれを避けた。
体を捻るという最小限の動きで避けて見せたので、龍久も原田も驚いた。
宙を突き刺した槍、少年はその上に飛び乗って、立って見せた。
「なあ!」
西洋の仮面が不気味に原田を見下ろす、それがまるで物の怪の様に思えた。
原田は槍を思い切り振りあげて少年を吹き飛ばすが、少年はくるんと一回転して、猫の様に身軽に降り立った。
「おんしか……助けてくれるかえ?」
ちょうど隣にいた土佐藩士がそう言うと、頷いて見せた。どうやら彼らは知り合いらしい。何がなんだか分からない内に、土佐藩士達は逃げて行く。
「まっ待て!」
龍久は藩士達を追おうとしたが、やはり少年が立ち塞がった。その異質な風貌に少なからず足が竦む。
「この野郎が!」
龍久の横から原田が出て来て、槍を振るう。しかしそれもほんの少し横にずれただけで避けられてしまう。まるで動きが全て分かっているかの様に。
(あっ……)
その少年の白髪が幻想的に揺れていた。それは本当に美しかった。
「何をしているんだ、土佐藩を追え!」
新田の声がして、何人かが追おうと少年の脇をすり抜け、走って行く。
それに気がついた少年は右手を後ろに伸ばした。
「止めろ龍久!」
またも葛葉の声がした、考える暇などなくその少年に飛びかかる。少年の右手を少しばかし押した――その瞬間。
京の都に轟音が鳴り響いた。
初めて聞くその音。
飛びかかった龍久の耳をつんざくそれは――――銃声だった。
少年の右手にしっかりに構えられたそれは、生まれて初めてみる短銃は白い煙を上げる。
「あああっ」
悲鳴と共に隊士が一人肩を抑えて苦しんでいるのが見えた、もしも自分が押さなければ彼は今頃頭を撃たれて死んでいただろう。
この短銃の登場によって現場は一気に騒然となった。左手で日本刀を持ち、右手で銃を構えるその光景は例え様のない異質な物だった。
「糞が、銃なんて使いやがって」
刀で槍を勝つのに三倍の力が必要ならば、槍で銃に勝つには三倍以上の力が必要になるだろう。だがこの目の前にいる少年は、原田以上に強い、龍久はそう直感で分かった。
(一体、なんなんだよこいつは)
突然現れ、圧倒的な力を見せつける仮面の少年。
このどこから現れたかも分からない少年に、新選組は完全に手玉に取られていた。
その時この緊張を馬の嘶きが破った。
新田隊を蹴散らしながら、現れたのは先ほど逃げた異人だった。逃げたのではなく馬を取りに行っていたのだと今分かった。
「アル!」
少年が大橋を指差しながら叫んだ。異国の言葉は全く分からないがあの異人の名前なのだと思う。異人は大橋に向けて馬を駆ると少年も刀を納めて走り出した。
どうやら馬で逃げる様で、瞬時に原田が動いた。
「逃がすかああ!」
槍を少年に向けて投げ飛ばす、豪快な技だが槍は正確に少年を捉えていた。
今まさに槍が突き刺さる瞬間――。
「Watch out! ――ユキ!」
ユ キ ?
それは聞き覚えがある物、その言葉の響きで龍久の思考は止まった――。
「――――っっ」
少年は、異人の言葉によってどうにかそれを避けた。
そして馬を駆る異人の手を掴み取って、そのまま止まる事無く馬へと跨った。
少年は振り返ると右手の短銃を構える。撃たれると思い皆その場に伏せると、二発の銃声が響きわたったがどれも当たらなかった。
「くそっ、威嚇か!」
原田がそう言って悔しがったが、二人の異人は三条大橋の渡り夜の町へと消えて行った。
ただ一つ―――龍久に衝撃を与えて。
(ユキ、聞き間違えなんかじゃなかった、あの異人は間違えなくそう呼んだ……)
あの仮面の少年は、龍久の心に大きな棘を突き刺した。
引き抜きたくとも引き抜けない大きな謎を残し、まるで嵐の様に何もかもを乱して去って行った。
「一体……何者なんだあいつは」
そんな彼の言葉も、京都の闇に呑まれて消えて行った――。
屯所に帰ると、すぐに幹部らの話し合いが行われた。
原田は、土佐藩の浪士を一人捕まえ、一人を切り捨て、一人を重体で逃がし、残り5人を、あの仮面の少年のせいで取り逃がした旨を報告した。
謎の西洋人の少年、それには幹部らも驚きを隠せない様子だった。
「原田さんでも手も足が出なんて、そいつどんだけ強いんだよ」
「兎に角動きが読めなくて、どんな攻撃も避けちまう……それに左手で日本刀を扱っていたぜ」
左手と聞いて斎藤に視線が集まった。同じ左利き同士何か分かる事はないだろうか。
「そいつは銃も扱っていたのだろう、本来は右利で銃が主体の戦い方をするゆえに、刀を左で握ったのではないだろうか?」
確かに完全に銃を使いこなしていたので、その可能性も捨てきれなかった。
「でもちょっと興味ありますね、その日本刀を扱う異人剣士……斬ってみたいなぁ」
沖田が相変わらずの笑顔でそう言うと、一人の男が口をはさんだ。
「それよりもそんな不穏分子を取り逃がした事を心配するべきでは?」
この男は、新選組参謀伊東甲子太郎。
禁門の変以降に新選組に入隊した人だ。平助と同じ剣の流派を学んでいた事もあり、近藤と意気投合してこの新選組にやって来た。
「伊東さん、話の腰を折らないで下さいよぉ、ねぇ龍久君?」
沖田はそうなんとも言えない笑顔で同意を促してくるのだが、同意は出来なかった。
「沖田君、貴方は少し過激すぎます、もう少し物事を良く見つめてから行動するべきだ」
「伊東さんは少し甘いんじゃないんですか、そんなんじゃ何時不逞浪士に後ろから切り捨てられるか分かったもんじゃないですよ」
少し険悪な雰囲気になると、近藤が咳払いをすると一時的に治まった。
「今日はこれくらいにして置こう、原田君達が見たその謎の少年についていは、またおいおいと究明行こう」
こうして会議はお開きになり、近藤は伊東を連れて外へと出た。すると皆の視線は土方へと集まった。
「土方さん、やっぱりあの人新選組にはあわねぇよ」
「俺もそう思う、居られても逆に困る」
「そう言うな永倉に原田、あの人は近藤さんのお気に入りなんだ」
正直新選組の中でも伊東の評判は良くなかった。しかし一度組に入れてしまったからにはそう簡単に出て行ってくれという訳にも行かなかった。
「でも、止めて貰いたいですよね……なんなら僕、あの人の事斬っちゃいましょうか?」
沖田が相変わらず楽しそうにそう言っている所を見て、土方はため息をついた。だが確かに伊東の存在は龍久自身も煙たく思っている所が合った。
「…………」
そんな話し合いの中、平助は一人気まずそうに部屋を出て行った。龍久はしまったと思いすぐ様後を追った。
「平助、伊東さんの事気にしてるのか?」
伊東と平助は同じ道場出身で、新選組に入るきっかけを作ったのは彼の様な物だった。だからああやって皆が伊東の悪口を言うのは聞くに堪えないのだろう。
「俺や伊東さんは近藤さん達とは違って、幕府に使えるっていうのはあんまり気が進まないんだ」
平助と伊東はどちらかというと『尊王攘夷』の思想を持っていた。
これは『天皇』を敬い、朝廷を政治の中心として外国人を排除するという思想と動きである。今政治を行っている幕府を良く思ってない連中と言う事だ。
一方近藤は『尊王佐幕』という思想を持っていた。
これは『天皇』を敬い、幕府が天皇と国を守ろうという思想と動きだった。
あくまでも幕府に使える事を選ぶ佐幕派は攘夷派とはそりがあわなかったのだった。
どちらかといえば、龍久は『尊王佐幕派』だったので、慰める言葉が浮かばない。
「あっわりぃ、例え思想が違くても、俺と龍久は無二の親友だぜ、な?」
「あぁ……そうだな平助」
そう言って二人は笑いあった。
だが、龍久はどうしても心の底から笑う事は出来なかった。
あの仮面の少年の事が頭から離れなかったのだった――。
前回までの話での葛葉の言動で、気分を害された読者の方々にここで謝罪を入れさせていただきます。
あくまでの作品上の演出ですので、どうかご理解ください。
気分を悪くされた読者の方に、この場を借りてお詫び申し上げます。




