~B・R~ Prophet 江戸川編
ボートレース予想のヒーロー出現!?
この季節――
寒暖の変化が激しいが、日差しに春の気配を感じている。
日中は手袋がいらないほどだ。
―― ここは江戸川競艇場 ――
目の前で行われているのは江戸川10R。
出走表――
10R 体重 平均ST モーター勝率
① A2 54 0.21 32
② B1 50 0.19 48
③ B1 52 0.19 35
④ A2 52 0.20 28
⑤ A1 53 0.18 36
⑥ A2 55 0.21 40
地元選手は②④
水温13度
向かい風4m
波 10cm
②の選手はよく知っている選手だ。
俺は舟券を確認した。
1=2-4.5
各5000円の4点買い。
10Rが始まった――
①が半挺身出遅れ、地元の②がトップスタート。
③もスタートを決めてきたので、まくりに出る。
④は冷静に差し。
⑤は、まくりに行ったが③に進路を阻まれ立ち遅れ。
⑥は、テンポ遅れの差しを選択。
スタートが決まった②の差しが決まると、風にあおられた③が失速――
④は引き波に乗り、その間に①が逃げた。
結果――
若干人気薄の②の頭で決着。
2-1-4 2130円
「はァ……」
隣りのじいさんが、ため息とともに崩れ落ちた――。
じいさんはNYヤンキースのキャップをとると、顔を隠して沈黙した。
手には、すでにクシャクシャの舟券があった。
俺は舟券をポケットにしまうと換金しにいった。
11Rは見送り。
今日の勝負は8・12Rと決めている。
売店で席に着き、コーヒータイム――。
11Rが終わると、最終12Rの展示を見に行く。
この時間は風が強まって、波も高い。
12R――
枠番勝率 平均ST モーター勝率
① A2 72 0.20 26
② B1 48 0.21 36
③ A2 52 0.17 31
④ A2 46 0.18 28
⑤ B1 31 0.21 36
⑥ A1 48 0.19 40
地元選手は②
水温10度
向かい風6m
波 14cm
安定板使用
この状況なら狙える――
と、隣にあのじいさんがきた。
じいさんは眉間にしわを寄せ、展示に集中している。
だが、展示は強風で安定板がつき――、内容もバラバラだった。
すると、じいさんはへたり込んだ。
「難しいですね、一本どうですか?」
俺はタバコを差し出した。
「え、ああ……。すまんね」
じいさんは口にくわえると「ん?」俺の顔を見た。
「こいつは懐かしい」言いながら笑みがあふれた。
俺は、タバコは吸わない――
じいさんは、そのお菓子をポリポリ食べると呟いた。
「昔は勝てたのだけどね……」
――話を聞いてみると、先月、務めていた会社が倒産し、わずかな退職金を手に勝負しに来たのだという。
―― 12Rの販売終了まで、残り5分のアナウンスが流れた ――
じいさんは残金を確認すると、ため息を吐いた。
「今日でギャンブルとは、おさらばよ……」
消えそうな声で呟くと、重い腰をあげた。
俺も立ち上がると「では、またどこかの競艇場で」
「ああ、またな」
互いに軽く会釈をすると、じいさんは舟券を買いにいった。
強風で煽られた多くのハズレ舟券が、じいさんを囲うように舞った……。
「これ、落としましたよ」
俺は、じいさんにクシャクシャのハズレ舟券を渡す――
じいさんは、何の舟券か分からなかったらしいが、とりあえず受け取ると「すまんの……」と券売機に向かった。
12Rが始まった――
この荒天でも、やはり地元勢は強い。
③がトップスタートを決め、続いて14256の順。
1コーナーに飛び込んだ③を抑えようと①が張るが、強風で失速。
そのまま③の引き波に乗ってしまった。
そこに②が差し、後続の④が引き波に乗り、⑤⑥がまくり差してきた。
2コーナーを抜けると3-2-5.6の体制だが、内枠の5が先にコーナーを回った――
結果は3-2-5での決着だった。
――俺は自転車に跨ると、電光掲示板で確認した。
12R 3-2-5 23500円
自転車を漕ぎだすと、遠くで叫んでいる人がいた。
それを回りの人達が笑いながら見ている――
「じいさん、あんたの勝ちだよ」
じいさんは、必死に手を振りながら頭を下げていた。
その手にはクシャクシャの舟券――
裏に3-2-5と書かれていた。
俺はキャップを被り直した。
~B・R~ Prophet
全24話・24競艇場での伝説をお楽しみに!