鍵に夢見る少女
その鍵は世界にひとつしかない。
封じるのは人の心。その心。
呼ぶのは風、嵐の雨、災い。
閉ざすのは巫女、踊り、いなす。哀れみの巫女。
悲しみも哀れみも懺悔も一人で背負って、いつしか倒れた。
巫女は踊らなくなった。
ただの少女になった。
封じるのは誰の心?
名も知らぬ神の少年。研ぎ澄まされた白さにただ人ひれ伏すばかり。
捧げものだと少女を渡す。もう少女は反論しない。
神はその人間達に試練を与えた。少女を笑わせなさいと。
人は神の言葉を敬い、手段を尽くすが少女は笑わない。
人は笑わせようと必死になるが少女は笑わない。
少女は泣く、心で泣く、淋しいと虚しいと。
その鍵で私の心を封じてくれと、動かぬ心で懇願する。
神は笑って断った。人は試練を超えるかと。
やがて人はあきらめた。脅しにもかけることも無くなった。
神を信じる掟は消えて、少女の価値は無くなった。
結局私は私のままね、と少女は皮肉に笑った。
そんな少女を神は気に入り、鍵をかけようかと笑った。
そうすればもうこんな醜いものはみえなくなるよと。
少女はあなたの心を封じたいと願った。
そうすればあなたは傍に居るだろうと。
あなたは羽をもいでまで鳥と傍にいたいのかい?
いいえ。それでも淋しいのよ。あなたはどこまでも自由。私を置いてどこまでもいってしまうのだから。
少女は神に恋をした。
あなたを留めていくのも叶わぬのならば、この恋心に鍵をかけようと。
もう逃がさないように、ずっと残しておくために。
神は笑ってうなずいた。「きみは変わり者だね」と。
恋心に鍵をして、少女は忘れ孤独になった。
だれも信じられずに、動かない体で。
首に鍵がついた輪を通し永遠の恋の続きを夢見る。
後味が悪かったらごめんなさい。
読んで下さってありがとうございました。