干物は、罪の味
現在、わたしは海賊退治の依頼で船に乗っています。
なんでも最近、向かいにある島の方たちが徒党を組んで、海賊となったそうな。
貨物船や貴族の船から金品を強奪するという、悪質な事件が後をたたないそうです。
「シスター・エンシェントねえ。オレもよく知らないんだ」
おやつにホッケの干物を食べながら、戦士のミュラーさんが答えました。ミュラーさんも、シスター・エンシェントのことは存じ上げないそうです。
「オレが現役になったときから、すでに冒険者を引退なさっていたとしか。けれど、伝説はたくさんあるぞ」
なんでも、魔族の大半を倒したとか。ひええ。わたしは一、二体を相手にして息を切らしていたのに。
「アタシが子どもの頃、おとぎ話に出たわ。世界の裏側まで万病に効く薬草を取りに行く旅の話なんだけれど」
ヘルトさんに至っては、この状態です。
想像も付きません。いったい、何が起きたというのでしょう?
「どうした嬢ちゃん、オレたちのことをじっと見つめて」
「は、はあ」
いけません。干物がおいしそうと思ってしまいました。
お昼が味の薄いお粥だったのが、災いしましたね。
「一つどうだい?」
「いえ、結構です。貴重なおやつを」
「こんなの余るくらいあるから、遠慮しなくていいぜ」
ミュラーさんが、ホッケを近づけます。
「うわあ」
香ばしい、干物独特の匂いが漂ってきます。
ああ、わたしってどうして誘惑に弱いのでしょう。
「そうですか。では、スモモと交換しましょう」
「OK。もらうぜ」
携帯食のスモモを干物と、ミュラーさんとシェアしました。
ちなみにこのスモモは、食べると半日は何も食べなくてもお腹がもちます。
ちょっとしたポーションの役割も、果たしてくれますよ。
「いただきます」
はあ。罪深い。
カリッと噛んだ瞬間、風味に脳が支配されます。サクッとして、歯ごたえもバッチリです。ずっと噛んでいたいですね。何も付けなくてもおいしいです。
「おいしそうに食べるわね」
そういえば、お二人の前で食べる姿なんて、酒場のときくらいでしたかねぇ。
お酒をいただけないので、一人で枝豆を処理するマシンになっています。
「酒は……苦手だったな」
教会の戒律うんぬん以前に、わたしはアルコール類が苦手なのでした。
一五を超えているので、元服はしているのですが、身体が受け付けません。
「じゃあ。アタシから。炭酸なんてどう?」
「すいません。ごちそうになります」
ノンシュガーの炭酸を、いただきました。
うわああ、合いますね。
よく冷えた炭酸水とホッケの干物が、笑ってしまうくらいナイスカップリングします。
「ですが、ごめんなさい。何もありません」
「いいわよ。今度、オタカフェについて来てちょうだいな。一度食べてみたかったのよ、あそこのオムライス」
興味はあったらしいのですが、一人で入る勇気がなかったそうで。
「お前にしては、珍しいな」
ミュラーさんが、ニヤつきます。
「だってあそこ、お師匠がいるんですもの」
頬を膨らませ、ヘルトさんがワインの瓶を傾けました。
「お師匠って?」
「これよ」
ヘルトさんは、ストロボカメラをバシャバシャと撮るジェスチャーをします。
「ああ、はいはい。あのカメラ小僧の子爵様か。たしか……カレーライス様、だったっけか?」
「カレーラス師匠よ。殺されるわよ、あんた。そりゃあ、あの方はスパイス農園を持ってるけれど」
カメラマンの子爵様とヘルトさんが、お知り合いだったとは。
あの人って、そんなおいしそうな名前だったんですね。
カレーが食べたくなってきます。
「苦手なのよ、あの人。アタシにドレスを着せたがるから」
「とても似合うと思いますが。そんなにおイヤですか?」
「スパンコールの大人向けなら、喜んで着るわよ。でもフリッフリのゴシックなんて!」
ワインをラッパ飲みしながら、ヘルトさんは愚痴をこぼしました。
「アタシにはゴシック調なんて、ガキの服にしか見えないわ。もっとアダルトな服が着たいのよ」




