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盲目の元聖女と元護衛騎士  作者: 立花 みどり


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07.ひとりで揺れる


 アルが家を空ける日、いつも通り起こして見送る。


「シーラ、僕がいない間は約束を絶対に守ってください」

「はい。一人で家から出ないし、外へ出ても一人にならない」

「ええ、そうです。こればかりはすみません、お願いします」

「はい。……あの、抱きしめてくれますか」

「……! 喜んで」


 アルは珍しい私からの要求に目を輝かせ、私を抱きしめてくれた。昨日から普段言わないようなことを言っている。様子が変だと思われないかしら。寂しいだけだと思ってくれたらいいと思う。

 

「いってきます」

「はい、気をつけて」


 行ってしまった。

 ここからは一人の生活だ。ハンナがきてくれるから厳密には一人ではないけれど。


 アルについて考えていることはたくさんある。でもまだ私はアルのことを完全に疑うまでに至っていなかった。たまたま一週間不在の予定が前からあって、彼女はたまたまそれを知っていただけかもしれない。


 ……疑ったほうがいいんだろうか。


 だって私を騙したとしてもアルにとって良いことがない。

 ちょっと治癒が得意な孤児をわざわざ王都からここへ連れてきて、面倒を見て、恋人として暮らして、アルが得られるものがない。

 私は何も人にあげられるようなものは持っていなかった。シェーマスに来てからもそれは変わっていない。だから騙しても何にもならないと思う。体だって繋げていないのに。

 

 もしも本当に、別の人と結婚するということは一年前の求婚は嘘だったのだろうか。それとも気が変わったのだろうか。


 私の知っているアルならば、私以外の人と結婚しなければならなくなったなら、きちんと別れると思う。誠実な人のはずだ。誰かと同時に付き合っていたとしたらそれはアルじゃない。


 領主様や騎士の人たちもアルのことを真面目すぎるって言うくらいなのに。そんな人が結婚の事実を隠して恋人ごっこをするのだろうか。



 そんなはずないって思っているなら、アルに聞いたら早いはわかってる。

 でも一週間家を留守にするというのが本当だったから、もしも万が一愛人が事実だったらと怯えてしまっている。


 アルは私を愛人扱いするはずない、でも、もしもありえないことだけど、事実だったらどうしよう。


 そうやって二つの間で私は揺れていた。





「ハンナ、街に大きなお屋敷が作られたって聞いたんだけど知ってる?」


 考えすぎて疲れてしまったから、何も知らないふりをしてハンナに聞いてみることにした。まずは屋敷を建てている事実なのか確認してみようと思ったのだ。

 アルが建てているとは言わず、あの辺りに、とぼかして聞いてみた。


 でもどうやら悪手だったみたいだ。

 ハンナは目を逸らし、明らかに動揺していた。


「ええと、あの、その、」

「ハンナ?」

「すみません、ご主人様から口止めをされていて、詳しくは言えないのです」


 ハンナのいうご主人様というのはアルのことだ。

 どうしよう。

 まさかそんな訳ないよね、なんて思いながら軽く確認しようしたのにしっかり裏が取れてしまった。


 私はその建物がアルの建物だなんて言ってないのに。あのあたりで新しい屋敷はどうやらアルの家しかないらしい。いつも気を利かせてくれる、ハンナの察しの良さが見事に生かされてしまった。




 おかげさまでその日からさらに私は考え込むことになった。主に悪い方向に。


 そんなはずないという考えが優勢だったのに、気づけば本当に愛人だったらどうしようという考えの方に頭を支配されてしまったのだ。


 今までアルがしてくれたことや、アルがプレゼントしてくれたものを思い出して、一人で夜に泣く日が続いた。他の聖女たちにいじめられた時も、貴族たちから嫌がらせをされた時も、王太子から利用された時も、……視力を失った時ですら泣かなかったというのに。


 アルに捨てられてしまうんじゃないかと思うと、自分でもびっくりするくらい涙がぼろぼろと流れてきた。

 荷物まとめたほうがいいんだろうか。

 そういえば少し前に、いつか遠出しようって言って大きめのカバンを買ってもらったことを思い出した。それすらもなんだか私がいつかアルのそばを離れるために買ったんじゃないかって思えてきちゃって泣いた。


 カバンに試しに出ていくときに持っていきたいものを詰めていて、中身はアルにもらったものばかりになってさらに泣いてしまった。




 連日泣いていた上に、昨日は試しに荷物を詰めてさらに大泣きしたので目が腫れているかもしれない。

 どうやってハンナを誤魔化そうか、と思っていたらハンナから今日と明日休ませてくれないかと言われた。


 隣町に住む娘夫婦に子供が生まれたが、娘がしばらく入院することになったため、一日でいいから他の孫たちの面倒と娘の様子を見に行かせて欲しいと言われた。

 

 家にはハンナの作り置きがまだあるから数日来なくても大丈夫そうだ。私のことは心配いらないから行ってあげてと、少しだけお金を渡して見送った。もしも娘さんが深刻な状態なら相談してくれとも伝えた。


 ……大変な状況のハンナには申し訳ないけれど、ちょうど良いタイミングだと思った。


 だって明日は例の十日後だったから。

 ハンナがもし明日来ていたらどうにかして一人になるか、最悪正直に伝えて屋敷まで着いてきてもらうつもりだった。

 でもハンナがいないのなら一人で見に行ける。

 

 一人で出かけないという約束を破ることになるけれど。

 気持ちが落ち着かなくてダメだった。屋敷を見てどうするんだろう。建物を見たところで今の自分の気持ちが落ち着くとは思えなかったけど、とりあえず見に行こうと思った。



 そして私は真新しい大きな屋敷の中に、アルと女性が腕を組んで入っていくのを見て、見事絶望することになった。




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