05.街へ出かける
「うん、魔力の調節もいい感じだね。アルフレッド以外とは街を歩いた?」
「いえ」
「本当に過保護だねぇ。でも過保護故の補助しすぎも良くないから。僕からアルフレッドに話を通しておくから、あいつ以外の人と街に出かけて練習をしてくれる?」
「わかりました」
「できれば小物を売っている店とかに入って。ごちゃごちゃしたところはすごく練習になるから」
「はい」
アロン先生は週に二回ほど家に魔法を教えに来る。少し前に街へ出かける許可が降りたので、何度かアルと一緒に街へ出かけた。
先生の言うとおりアルは過保護だ。
私が少しでも疲れたそぶりを見せるとすぐに抱えてしまう。下ろしてと言っても頑なに聞いてくれず、一度抱えたら家に帰るまでそのままだ。
最初は驚いて見られたけど、何度かそんなことをしているのでもはや街の人も慣れてきている。こんなことに慣れないで欲しい。
アロン先生もアルと付き合いが長いらしい。そういう過保護な性質を理解しているみたい。
抱えられては練習にならないからアル以外と出かけるよう促されてしまった。
少しだけ残念だ。確かに練習にはならないけれどアルに抱えられるのは嫌いじゃないから。むしろ好きだから。
「ハンナと出かけてもいいです、が、絶対に一人にならないと誓ってくれますか」
その日の夜、ベッドの上でひどく深刻そうにそう言われた。深刻な雰囲気と話した内容が釣り合わないような気がして冗談かと思ったけれどアルは至って真剣だ。
「わかりました」
あえて一人になる理由もないので素直に要求を飲むと、アルはため息を吐く。
「シーラは僕が何かをお願いすると全て聞き入れてくれますが、窮屈に感じてないですか?」
「きゅうくつ?」
今、窮屈と言われたんだろうか。
アルは私に何かを要求するとき、それが不快ではないか、窮屈ではないかと気にしてくれるけど私が彼の要求をそう感じたことは一度もない。
アルのお願いはいつも私のことを心配してくれていると知っているから。
王都にいた頃、私を心配してくれる人はほとんどいなかった。
疲れていても、具合が悪くても、やりたくなくても「治癒せよ」ただそれのみ。名前すら呼ばれることもなく、言われたことをただこなすだけの毎日だった。
衣食住は保証されていたけれど、それだけ。
私の意思も事情も何もなかった。
その頃に比べれば、私は今確かにシーラとして生きて、一人の人間として扱ってもらえる。窮屈なことなんて一つもない。むしろ自由すぎてどう選んだらいいかわからないくらいなのに。
何もない、という意思表示をすべくアルに抱きつく。
アルは一瞬体をこわばらせ、そのあと優しく抱きしめてくれた。
一日の中で、この腕の中で眠る瞬間が一番幸せだ。
あれから何度かハンナと街へ出かけた。ハンナと二人だけ出かけるにあたってアルといくつか約束した。
一人にならないこと。
アルが決めた行動範囲から出ないこと。
街では何があっても治癒は使わないこと。
守りの魔法が込められたアクセサリーを外さないこと。
困ったら周りに助けを求めること。
だけど助けを求める相手はアルが前もって指定したお店や家の人にすること。など。
数にしたら多いけれど一つ一つは厳しくなかった。すこし、場所と人を覚えるのが大変だったけれど。
何度かハンナの買い出しに付き添って、食材の買い方を教えてもらって家に帰ると言うことを繰り返した。
街中で騎士の奥様に出会って料理をもらうこともあった。
奥様たちと直接顔を合わせるのは初めてで、なんだか少し照れ臭かったけど、いつも贈り物をくれる彼女たちに直接お礼をいうことができて嬉しかった。
どうやら私とアルが一緒にいるところを何度か見かけていたけれど、アルに気後れして声をかけられなかったらしい。確かに、夫の職場の上司、と思うと気軽に話しかけづらいかもしれない。




