04.買い物
「おー、きたきた。シーラお疲れ」
「お久しぶりです、わ!」
長い廊下を歩いていると正面からシェーマス領の領主である、バレル様がやってきた。挨拶を返した瞬間、いきなりアルから抱えられて驚いて声が出る。ついでに驚いて思わず肩にしがみついてしまう。
「アルフレッド、お前ね、いきなり抱えたらシーラがびっくりするでしょうが」
「すみません、シーラ」
「大丈夫です」
そのまま何事もなかったかのように二人は歩き出す。いつも領主様の前では問答無用で抱えられる。
私に合わせて歩いていたら領主様を待たせることになってしまうので、これがいいということはわかるのだけれど。急に抱えられるとびっくりする。
二人は幼い頃から面識があるらしい。なんというかお互いのことをよくわかっているような雰囲気がある。
そもそもこのシェーマス領自体が、アルの生家であるエリー家の領地の一部で、バレル様とアルは親戚なんだとか。二人で会話している時の雰囲気はかなり気安い。アルの砕けた様子がすごく珍しくて、だから領主様に会うのは割と好きだ。
「なんで呼んだんですか」
「マリアと街歩きするために商人を呼んでるんだよね。で、お前もシーラに服買いたいかなーと思って。ここで買えたほうが何かと便利だろ」
「ああ、なるほど。ありがとうございます。買います」
「え、」
アルは私に何かを買い与えるのが好きだ。
仕事帰りに美味しそうなものがあれば買ってくるし、他の人の贈り物を私が「初めてもらった」と言うと張り合うように同じものを買ったり、出かけるたびに服を買ったり、髪飾りを買ったり。服ならそれほど余るほど家にあるけどこれ以上買うつもりだろうか。
ぺちぺちと肩を叩いて「間に合っています」とアルにだけサインを送る。
「丁度もう少し上品なものが欲しかったんだ」
「だと思ったよ」
アルに送った物理的なサインは残念ながら正しく受け取られなかった。ぺちぺちと叩いた分だけ、抱き抱えた腕にぎゅっと力が入って終わってしまった。そうじゃないんです。
今でも着ていない服があるのに。こんなに服を買ってどうするのか。以前服が多すぎないかと問えばアルとハンナ二人からむしろ少なすぎると言われてしまった。
今まで二着しか持っていなかったので何着持っているのが普通なのかわからない。でも着ていない服がある状態で新しく買うのも普通なんだろうか。
バレル様に案内され、部屋に入ると商人の男性とその娘がいた。
私たちが部屋に入ると彼らはわかりやすくアルに目を奪われた。
その気持ちはわかる。
アルの顔は、なんというか神々しい。私よりアルの方がずっと神に使える神職のような神秘的な顔立ちをしている。銀色の髪に紫色の瞳。それが似合うだけの整った容姿。
人によっては冷たくすら見える綺麗な顔。
王都にいた頃、神官でさえも思わず目を奪われる姿を目にしていた。
街の人はもうすっかりこの顔に慣れたようだから、ここまで固まるほど目を奪われているのは久しぶりに見る気がする。
この二人の親子はこの街の人ではないのかもしれない。
「マリアの分はもう選んでるから、お前たち好きに選びな。俺はここでお茶でもしてるから」
「仕事に戻っていいですよ」
「やだよ。今日はここでちょっとサボるって決めてるんだから」
バレル様は勢いよくソファに座り使用人にお茶とお菓子を持ってくるよう頼んだ。
私もソファの上に下ろされる。
「シーラ、何か欲しいものはありますか?」
「大丈夫です。足りています」
「お前ね、このシーラがそれで選べるわけないでしょう。こういう時はお前の好きな二つを持ってきてどっちがいいか聞くんだよ」
「……なんでそんなに詳しいんですか」
「睨むなよめんどくさいな、マリアも物欲なかったからだよ!」
目の前でテンポよく繰り広げられる会話に、くすくすと笑ってしまう。いつも紳士的で丁寧なアルはバレル様を前にした時だけ少しだけ子どもぽくなる。
それが貴重で、幼くて、可愛くて、いつも笑ってしまうのだ。
「ふふ」
「……」
「……」
私が笑うと二人は黙ってしまった。
「ん、ごめんなさい。続けてください」
わかりやすく二人は肩から力を抜いて、気まずそうにするからまた笑ってしまった。
***
アルからの質問にいくつか答えて服が決まっていく。
そんなに買うの?ってくらいに。
「フレッド、お前シーラが見えてないからってそんなあからさまな……」
「シーラはこれが一番似合うはずです」
今はドレスを選んでいる。そんなもの着る機会がないと言ったのだけれど、バレル様からそのうち城のパーティに呼ぶ予定だぞと言われてしまった。
流石にドレスは選んだことも着たこともないので、こればかりはアルにお任せすることにした。
領主様はアルの選んだドレスを見て少し呆れているようだけれど、何に呆れているのかわからない。アルの手にあるドレスはどれも素敵に見える。
「シーラはあれでいいの?」
「あのドレスは何か変なところがありますか?」
「色がアルの色だけど」
「? 綺麗だと思います」
そう答えればバレル様はため息をつき、アルは満足そうに笑う。
「シーラはいつか色も見えるようになるんだっけ?」
「はい、このまま上達すればいずれは」
アロン先生曰く、ここからはひたすら魔法を使い続けて体で覚えるしかないらしい。特に私は今までほとんど魔法を使っていなかったから、魔法を使い続けることに体が慣れていない。
とにかく魔法を発動し続けて、感覚を掴んで上達していくしかないようだ。
最終的には魔力の消費も今よりは少なくなるし、最低限でも目で見えていたのと同じくらいには見えるようになるらしい。
望むならそれ以上に見えるようにもなるそうな。アロン先生は目で見ていた時よりも見えるようになったと言っていた。何が見えているんだろうか。
「色が見えるようになったらまずはクローゼットを見てごらん」
「クローゼットですか?」
そこには服しかないけれど。
「あいつがどれだけシーラに執着しているか、クローゼットを見ればわかるよ」
バレル様はやれやれとため息をついた。




