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盲目の元聖女と元護衛騎士  作者: 立花 みどり


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03.元聖女のお仕事


 朝は外が明るくなり始める頃に目が覚める。聖女だった頃の習慣。今はもう外の明るさはわからないけれど気温でなんとなくわかる。

 私の起きる時間は早すぎるようで、隣ではまだアルが眠っている気配がする。起こさないようにそっと抜け出した。


 長く伸びた髪を編む。もともと見ずにやっていたことだから、これだけは唯一見えなくなっても出来た。一晩眠って魔力が回復したので魔力視を発動する。魔力視を使っている間は階段も転ばない。

 お湯を沸かして、家にあったパンとスープを温める。今まで料理を作ったことがないので、温めることしかできない。もう少し魔法が上達したらハンナに料理を習おうと思っている。

 パンとスープを器に盛り、コーヒーを淹れているとアルが起きてくる。


「おはよう、ございます」

「おはよう。もうすぐコーヒー淹れ終わるので座って待っていてください」

「うん」


 アルは朝にすこぶる弱い。

 座って待っていて、と言っても寝ぼけて私の方に頭を預けてくる。んーとかうーとか言いながらもぞもぞと動いていて可愛い。朝だけは子供みたいだ。


 くっついたまま朝ごはんの準備を終えて一緒に食べる。夜は食べさせてもらうことが多いけれど朝は逆に食べさせている。


「アル、ほら、食べてください」


 気を抜くと船を漕いでしまうので一口サイズにしたパンを口元に持っていけば目を瞑ったまま食べる。

 

「おいしい、ありがとう」


 寝ぼけていても感謝を忘れないところが、アルらしい。


「今日は私も領主様のところへ治癒に行きます」

「……討伐隊がかえってくる日でしたね、いっしょに行きましょう」

「ええ。あとで服を選んでください」

「よろこんで」


 魔力視は少しずつ上達していてある程度先まで見えるようにはなったけれど、まだ色を識別できない。

 だから服選びはアルやハンナにお願いしている。服を買ってくれるアル曰く、どの組み合わせでもかわいいらしいのだけれど、聖女だった頃から同じ服を着ていたので本当に何を選んでどう着こなしたらいいのかがわからない。


 今日選ばれたのはロング丈のワンピースにローブだった。冬が終わったとはいえ、まだ寒いからとローブの内側にマフラーも巻かれた。道中も職場もそんなに寒くないのに。



***



 シェーマスの討伐隊は怪我人が少ない。


 よっぽど強い個体が現れない限りは大きな怪我をしない。

 アル曰く、個人が強いことに加えて、絆が固くお互いを補い合うように戦っているかららしい。かつて戦に参加していた騎士たちが多く残っており、辛い時代を乗り越えた絆があるみたい。


 元気そうな隊員たちだけれど、討伐から帰ってきたら全員必須で治癒を受けてもらっている。

 本人も気づいていないような怪我がないか確認しながら、ひとりひとり癒していく。


「シーラさんが来てくださったおかげでうちの妻も討伐のたびにピリピリすることがなくなりました」

「お役に立てているならいいのですが」

「当然です!北部の魔物たちは毒を持っていることも多いので。軽症に見えても実は毒が入り込んで気付いた時には命の危機、なんてことが以前は多かったんですよ。医者のロイも怪我は見えても毒は見えないから。今まで苦労をたくさんかけてしまって」

「私はロイ先生の仕事を奪っていないか心配です」

「あの先生は仕事が多すぎたから、奪ってちょうどいいくらいだと思いますよ」

「ふふ、それはそうですね」


 騎士たちは気安く話しかけてくれる。おかげで治癒を初めて一年も経たないのにすっかり馴染めたように思う。


 治療は昼過ぎごろに終わりが見えた。


 王都の討伐体の治療は夜までかかっていたのに。

 彼らはいつも満身創痍で帰ってきた。死者もいたし重症者もいた。治療にかなり神聖力と時間を使っていた。治療が終わらず日を跨ぐ時もあったくらいだ。


 今あの大量の怪我人たちを誰が治癒しているんだろう。神聖力の多い私でも大変だと感じるくらいだったから、せめて今では複数人体制になっているといいな。


 治療を終えると何人かの騎士たちから贈り物を渡される。

 食べものだったり、刺繍入りのハンカチだったり、手編みのマフラーだったり。今日私が巻いていたのもいただいたものだ。


 騎士たちから受け取ってはいるけれど、送り主は彼らの恋人や奥様たちだ。

 騎士団に顔を出し始めた頃に、過去に大きな傷を受けて引退した人や、毒で体が不自由になった人たちを集めて治療したことがあるから、そのお礼にいまだに贈り物をしてくれるのだ。

 

 腕や足など、体の一部を失った人の治療は難しい。


 神殿にいた頃は、体の一部を戻す治療を受けられるのは、多額の寄付金を払える貴族だけだった。

 そしてその治療を担当していたのが私だった。普段貴族の治療は他の聖女たちが担当していたけれど重症者の場合は一番神聖力のある私に任されていた。


 ずっと貴族しか治療を受けられない状況にもやもやしていた。

 正直、貴族よりも騎士や平民たちの方が大怪我を負いやすい。けれど寄付のないものに神聖力を大量に使うことは禁じられていた。


 だからシェーマスで神殿に属さずに治癒をして欲しいと言われた時、まず彼らを癒そうと決めたのだ。


 怪我故に引退した騎士や職人たちを集めてもらった。騎士団の医師であるロイ先生と話し合いながら順番に失った部位を復元した。

 神聖力がとても必要な作業なので、全員を治し切るまでに一ヶ月ほどかかってしまったけれど。


 あれ以来、騎士たちを通して贈り物を貰うようになった。

 街についてあまり知らない私のために、名物の食べ物だったり、季節の美味しい果物だったり、冬に必要なものをくれる。

 領主だけでなく領民たちも神殿に対していい感情を持っていないと聞いていたから、元聖女の私がどう扱われるか不安だった。だから彼らの贈り物はすごく嬉しかった。


「次回の討伐の時にまた来ますね。その間に何かあればアルを通じて呼んでください」

「わかりました。今日もありがとうございました。あ、そういえば治療が終わったら領主様が会いたいとおっしゃってました」

「領主様が?」

「はい」

「アル、何か聞いてますか?」

「特に聞いてませんが、だいたい予想はつきます。わかりました。シーラ、行きましょう」


 アルは私の手を取り立たせると、騎士団を抜けて領主様のいる建物へ向かってゆっくりと歩き出した。



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