表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の元聖女と元護衛騎士  作者: 立花 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/13

元聖女と元護衛騎士 02


 同居生活は想像していたよりもずっと穏やかで平和だった。

 

 シェーマスに着くなりアルは小さな家を買った。

 お金を払わせて欲しいと言ったら、ほぼ譲ってもらったようなものだから気にしないで欲しいと言われてしまった。

 そして家中の角を丸く削り、家中の床には柔らかい絨毯を敷いてくれた。絨毯も貰い物だから、と言っていたけれどそれにしてはふわふわだった。本当に貰い物だろうかと思ったけれど、怖くて聞けなかった。


 最初の数日で家の中を整えると通いの使用人を雇い、アルは領主様の元で働くようになった。

 

 私は家でお留守番。

 本当は何か家のことを手伝いたかったけれど、なにぶんできることが何もない。

 仕方がないので使用人の邪魔にならない程度に家の中を歩き回って、ものの配置を覚えたり、食事や着替えの練習をした。


 でもそんな生活は精神的に一ヶ月も持たなかった。


 孤児院にいた頃も神殿にいた頃もずっと何かをしていた。休むことなんてほとんどなかった。

 だから何もない日々をどう過ごしたらいいかわからない。


 毎日優しくしてもらったことも初めてのことで落ち着かなかった。アルは眠る前に何か大変なことはなかったか、と毎日確認してくれる。

 こんな箱庭みたいな場所で大変なことなんて一つもないのに。

 

『孤児の癖に』


 これは長い神殿生活でよく言われていた言葉だ。王都の神殿では孤児と言うだけで立場が低かった。丁寧に扱われることもなかった。

 なのにこの街に来てからはアルも使用人のハンナもみんな親切にしてくれる。


 治癒もしていないのに。なんの役にも立っていないのに家まで用意してもらって生活の面倒までみてもらって。このままでいいのだろうかと思った。


 何もできないのに与えられることに罪悪感が膨れ上がって、耐えきれなくなって、とにかく恩返ししなきゃって思った。


 だから使用人がお休みの日にこっそり働きに出ようとして、……街に出る前に捕まって家に連れ戻された。

 敷地から出て数メートル歩いただけだったと思うのだけど、アルはどこからともなく現れて、私を抱えて家の中に戻った。

 ものすごくびっくりした。



 すごく焦った様子でどうして家を出たのかと問われ、自分の心情を素直に伝えた。


 休むことが落ち着かなくて、貰い続けることが申し訳なくて、何もできることがないけど、治癒だけはできるから。街に出て以前のように治癒活動でもしようかと思ったと。

 それくらいはさせて欲しい。治癒活動でもらえるお金は微々たるものだけど、世話になりっぱなしだと逆に気持ちがもたないと伝えた。

 

「わかりました。いずれは治癒をお願いしたいです。でもシーラには先にやって欲しいことがあります」


 彼はそう言った。

 だからお願いだから、黙っていなくなるようなことはしないで欲しいと約束もした。


 アルのやって欲しいこととはなんだろう。

 治癒や雑用以外にお願いをされたことがない。何がくるだろうかとどきどきしていたら、彼のお願いは「魔法の勉強をして欲しい」だった。


 なんでも、私と似た境遇の魔法使いを見つけたらしい。

 魔法実験で永久に視力を失った魔法使い。彼は魔力を使って視界を確保する『魔力視』の魔法を作り、今では普通に生活しているとか。そんなすごい魔法使いを先生として雇ったと言われた。私の視界を取り戻すために。


「魔法使いを探すのに少々時間がかかってしまってすみません。

 見えないままで外に出るのは危ないですし僕も不安なので。魔法の先生から許可が降りるくらいまで周りを把握できるようになったら治癒をお願いしてもいいですか?」


 そう言われて、なんだか泣きそうになってしまった。

 

 王都にいた頃は治癒しか求められたことがなかったから。

 例えばこのとき目の前にいるのがアルではなく王都の神官だったならば、目は見えなくとも治癒ができるのならやれと言われたことだろう。

 私の視界を取り戻すなんて誰も考えなかったはずだ。


 今まではそういうものなんだと受け入れてきたけれど、その時初めて泣きそうになってしまった。本当は便利な孤児という扱いが辛かったのだろうか。


 ……その時くらいから、アルを少しずつ心から信頼するようになった。


 魔法の先生ーーアロン先生はその次の週から来た。

 男の先生と部屋に二人きりになるのだけは申し訳ないけど許せないと言われて、先生に教えてもらっている間は同じ部屋でハンナが家事をしている。


 先生は初心者の私に魔力の正しい使い方から教えてくれた。

 魔法は便利そうなものを適当に習得した程度だったので正しい使い方を教えてもらえたのはありがたかった。


 先生曰く、運良く私の持つ魔力量は平均よりもずっと多いらしい。使ってこなかったので全く気づいていなかった。私の持つ魔力量なら、最終的には視界を常に確保していても大丈夫だろうと言われた。魔法ってすごい。


 一日中家にいるのでとにかく魔法の練習をした。最初の頃は成功するかどうかも半々くらいだった。今は成功はするけれど魔力の消費が大きくて一日もたない。この辺は慣れるしかないらしいけれど。


 だから夜には魔法を使う元気がなくて、毎日のように階段を踏み外してしまう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ