02.元聖女と元護衛騎士
私とアルが一緒に暮らすようになった経緯は少々特殊だ。
私は王都の大神殿で暮らす聖女だった。『聖女』と言ってもこの国にはたくさんの聖女が暮らしているので、大した存在じゃない。
加えて私はもともと孤児だったので聖女の中でも扱いは下だった。崇められる対象というよりは頻繁にいろんなところに出向いて治癒して回る便利な人。
主に平民やそこまで位の高くない騎士達の治癒活動を担当していた。場合によっては戦場に派遣されることもあった。
仕事量は常に多かったけれどそれをこなせてしまうだけの神聖力があり、使い勝手のいい存在。それが私だった。
対して。
アルは王太子殿下の護衛騎士だった。アルフレッド・エリー。それがアルの名前。
エリー侯爵家の三男で生まれも育ちも職場も生粋の貴族だ。見た目も銀髪で紫の瞳に貴族らしい整った容姿をしている。
護衛騎士ということもあり、将来有望で聖女たちからも人気があった。神殿にいる貴族出身の聖女たちがアルのことを話しているのを何度も聞いたことがある。
孤児出身の下級聖女と王族の護衛騎士。本来なら会う機会すらない。
私たちは去年とある騒動に巻き込まれた。
かなりの紆余曲折があり、最終的に二人で王都から離れてこの辺境『シェーマス』で一緒に暮らすこととなったのだ。
そう、かなりの紆余曲折。
ある日突然王太子殿下に目をつけられ、王太子殿下の婚約者を政敵から守るための隠れ蓑として利用され、他の聖女をはじめとした貴族の女性たちに目の敵にされ、最終的に毒を盛られて死にかけ、命は助かったけれど視力を失った。
聖女は自身の傷は癒すことはできない。他の聖女が治癒に当たってくれたけれど視力を取り戻すことはできなかった。
貴族たちの騒動に巻き込まれて生活と視力を失い途方に暮れていたところ、アルから自身との結婚と王都からの移住を提案された。
細かいところを省略していえば、そういう経緯で私たちはこの地へ来た。
求婚された当時、アルのことは王太子殿下の使いとして何度か話したことがある貴族の人、くらいの認識だったので驚いた。私の立場と状況を考えるとあり得ないくらい破格の提案だったと思う。
でもその時の私は王太子殿下のいざこざのおかげで貴族という生き物に疲れ果てていて、即座に頷くことができなかった。
それでもアルは「それじゃあ友人から始めませんか」と言ってくれた。
私の様子を心から心配して、善意で提案してくれているのがわかるような声色に、友人からならばと首を縦に振った。
今思えば、下級聖女が何様のつもりなんだろう。
私が頷いた次の日にアルは護衛騎士を辞めて、共に王都を出た。
ここ、シェーマスの街までの旅路はすごく大変だった。
特に初日。
目が見えなくなったことに慣れず、あちこちに体をぶつけて転びかけた。転びそうになってはアルが引っ張ってくれた。ご飯を自分で食べるのも、着替えるのも、宿の狭い部屋の中でベッドに辿り着くのも、全てが大変だった。
二日目からは見兼ねたアルに抱えられて移動し、着替えも食事もすべて介護される形となった。宿を同室にして良いかと聞かれ、むしろお願いしますと言ってしまった。
目が見えない不便さを実感して、前途多難すぎて軽く絶望した。
そんな道中だったこともあり、アルから同居を提案された時には迷わず頷いた。
侯爵家の人に面倒を見させてしまうことに申し訳ないとは思ったけれど、どうしても一人で暮らせる未来が想像できなかった。
自分の世話をしてくれる人を雇うお金もないし、幼い頃から神殿暮らしだったために市井での生活も知らない。
同居させてもらうしかなかった。




