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盲目の元聖女と元護衛騎士  作者: 立花 みどり


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10.元護衛騎士が元聖女を愛する理由


 アルの求婚を受け入れた日は久しぶりに二人きりで家の中で過ごした。


 ベッドの中でふたりでごろごろしている。

 ごろごろといっても私の体はがっちりと絡め取られていて、ごろりと転がることはできないけれど。


「ふふ」

「どうしました?」

「昨日まですごく気持ちが沈んでいたのに、勘違いだと分かったら急にご機嫌になったから変なのって思いまして」

「シーラ」

「はい?」


 名前を呼ばれたので見上げると、額にふに、と唇が当てられた。


「わ、わ、なぜですか」

「はは、顔が赤いです。僕の求婚でご機嫌になったのかなと思うと嬉しくて」


 今まで抱きしめるまでのことしかしなかったのに、びっくりして体が熱くなる。


「アルは、どうしてこんなに私を大事にしてくれるんですか? 王都にいた頃はあまり交流がなかったですよね?」

「僕がシーラを好きな理由が気になりますか?」

「正直あまり自分にそこまでの価値があるような気がしなくて。アルは素敵じゃないですか。貴族だし、優しくて、物知りで、強くて、きれいだけど、私は治癒が得意なだけです」

「シーラは自分を過小評価しすぎです。私はシーラほどきれいな人間を見たことがありませんよ」

「それは嘘です」

「嘘ではないですね」


 それこそアルは私を過大評価していると思う。

 

「実はシーラと僕が初めて出会ったのは王都ではないんです」

「え、え??」

「最初に会った時からシーラのことが気になっていました。でも出会った頃の思い出は、多分シーラにとってあまり良いものではないと思います。だから言わないままでいたんですが、……それでも聞きたいですか?」

「はい」


 だってアルは覚えていて私が覚えていないのは不誠実な気がするから。


「シーラと僕が一番最初に出会ったのは、このシェーマスの地なんです」

「え、」


 私はここに来たことがあるということ?

 自慢ではないけれど私は殆ど王都を出たことがない。出たことがあるとすればそれは……


「もしかしてここが戦場だった頃ですか?」

「ええ。十年前です。皇帝が功績を残したいという、ただそれだけの願いによっていくつかの場所で隣国に戦を仕掛けました。その一つがここでした」

「ごめんなさい。戦場に行く時はいつも行き先も聞かされずに飛ばされたから、ここが過去に派遣された戦場だったなんて気づきませんでした。正直まだどの戦の時かピンときていないかも。戦場には何度か行ったので」

「到着した初日に腕を無くして腹を切られた騎士を治療した記憶はありますか?」

「……あります」

「あれが僕だったんです」

「え……!?」


 彼のことはよく覚えている。

 生きている人の中でも重症だったから。本当に後少しでも遅れていたら死んでいただろうから。


 あれは三回目の戦場だった。

 他の戦地に比べて状況がよくなくて、騎士たちだけではなくて町で暮らす人たちもみんなボロボロだった。


 食料もギリギリで、薬草も何もなくて。


 ……そうだ、神殿も聖女も誰もいなかったからだ。戦争が始まる前に逃げ出してしまって、しかも逃げる最中に戦火が広がるのを防ぐために重要な橋を落としたのだと言っていた。


 ああ、そうか。だからこの街は神殿が出禁なんだわ。

 あの時のことを許していないから。


 他の戦場には私以外にも、元々その土地にいた神官たちや聖女がいた。だからシェーマスほどひどい状況ではなかった。

 けどこの街には誰もいなかった。戦場に聖女がいるかどうかは戦況に大きく影響するのに。


 私もあの時は自分を監視する神官がいなかったからなりふり構わずいろんなことをした気がする。


 死にかけの騎士たちもみんな治して。軽症の人も治療して、指揮をとっている人も怪我はしていないけど疲れているだろうから治癒をかけて。街の人が避難している場所を片っ端から回って治癒をかけて。


 他の戦場だと神官たちが治癒対象を細かく管理してくる。

 特に歩兵や平民たちは神聖力を温存するためだとか言って治癒させてもらえない。


 でも神官がいなかったから。


 食料がないと言われたから比較的安全な場所を借りて、芋と薬草を大量生産した。神聖力と魔法を使うと植物を無理やり成長させることができるから。

 土に栄養がなくても神聖力があればなんとかなる。


 これは孤児だった頃に私が使っていた技だ。一度神殿で使っているところを見られて、神殿の外では絶対に使うなと言われたもの。


 でも、あの時は本当に食料がなかったから。


 芋や薬草を大量に生産した。絶対に内緒にしてほしいってお願いして、とにかく作物を大量に生産した気がする。


 戦なんて短く終わった方がいいに決まっているから、前線に連れて行ってくれとお願いもした。ただし聖女は自分の怪我を癒すことができないから、なんとか守って欲しいってわがままをつけて。


 前線で戦う騎士たちを、ギリギリ届く範囲から治癒をかけた。

 その中には初日に癒した騎士、アルもいたのを覚えている。あんなに重症だったのに、私が治療してしまったばかりに戦場に戻らせてしまったな、と思った。


 だから二度とあんな怪我をしなくてもいいようにと願いながら、たくさんの神聖力を使って、気づけば戦いは終わった気がする。あの時初めて神聖力が足りなくなるかもと思った。


 勝利を確認したら限界が来て気を失って、起きた時には王都に連れ戻されていた。


 騎士たちに守ってくれてありがとうとも言えず。帰ってきた神殿では労いなどもなく「汚いから早く風呂に入れ」と言われただけだった。



「思い出しました。アル、最後まで無事でしたか?」

「シーラが守ってくれたから最後の戦いでは誰も死にませんでした。……この街の人はあの時のことを覚えています。そしてあの時必死に駆け回って自分たちを助けてくれた少女がシーラだということも気づいています」

「えっ」

「だからね、元聖女だからこの街に受け入れられないなんてことは、シーラに限ってはありえないんです。あなたは救世主ですから。この街の人はあなたのことが大好きですよ。もちろん、僕が一番大好きですが」


 この家も、私が住むと言ったから無料で譲ってくれたのだと言われた。かつて戦場で私に息子を助けてもらったからだと。


「あの時、僕は十五歳でした。戦場にいきなり飛ばされてきたのに文句一つも言わずに四六時中人を助けて回る年下の女の子に、僕は心を打たれたんです」

「……あんな小汚い姿に?」 

「戦場ではみな小汚いですよ。そんなこと言いながら風呂に入れない人のために浄化魔法をかけて回ってくれたじゃないですか。あれだってどれだけ救われたか」


 そう言えばそんなこともあった。

 だって、自分だけ浄化魔法でさっぱりするのも悪い気がしたんだもの。


「終戦後は王家とエリー家で揉めました。王家は戦になにも手を貸しませんでしたから。エリー家が怒って王家を支持しないと言って、王家は焦って。支持はしないけどあからさまに仲違いするとそれはそれで良くありません。王家は度重なる戦ですでに多くの反感を買っていましたから。

 そこで今後エリー家は支持を止める代わりに、僕が王太子の護衛騎士となり、対外的に仲違いしていないように見せかけました。僕が王族の護衛につくことで、王家を支援していると偽装したんです。

 もちろん、僕が護衛騎士につくことは王家の願いだったので、その代わりにシェーマスの復興に支援させました。だから戦からの復興も早かったんです」

「そうだったんですね……」


 何も知らなかった。

 アルがあの時の騎士だということにも気づいていなかったし、てっきり王太子と仲が良くて護衛騎士をしているのだと思っていた。

 だからあんなに護衛騎士に未練がなかったんだ。


「王都に着いてすぐにシーラを探しました。見つけて、シーラの扱いにショックを受けました。あなたはあんな風に扱われていい人ではないから。ずっと攫うことを夢見ていました。父にも何度も相談しましたよ」

「全然気づきませんでした」

「僕は、自分で言うのは恥ずかしいんですが、顔がちょっと人より綺麗なので、なんの準備もなくシーラに近づけば迷惑をかけると思って。裏では色々計画していたんですが、接触できませんでしたね。

 そしたらあのボンクラ王太子が余計なことをして、結局シーラは大変な目に遭って。……もっと早くに助けられなくてすみませんでした」

「いえ、随分と助けてもらったと思います」

「視力を失ってしまいました」

「確かに、最初は少し落ち込んだけど、今はむしろよかったと思います。目が見えていたらきっと神殿に戻って今まで通り聖女として働いていたでしょうから。アルと一緒にこの地で一緒に暮らすなんてできなかったと思いますよ」

「ですが、」

「アル、私はこの一年でいろんなことを初めて経験しました。どれも楽しくて、私は今までで一番幸せでしたよ。だからアルも後悔しないでください」


 ね、と笑えばアルも微笑んで再び額に口付けてくれた。


「これからもっといろんなことを一緒にしましょう。もっと幸せにしてみせますから」

「ふふ、楽しみです」



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