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第8.5話:隣にいる理由(SIDE イグニス)
イグニスが、初めて魔力を発現させたのは、
「助けなければならない場面」だった。
村が燃えていた。
魔物が現れ、誰かが叫び、誰かが泣いていた。
そのとき、イグニスは思った。
――自分がやらなきゃ。
理由は、それだけだった。
結果、魔力は強かった。
才能と呼ばれ、期待され、役割が与えられた。
魔導士。
切り札。
勇者の補佐。
やめる理由はなかった。
やめたら、誰かが困るから。
「向いてるよ」
「才能がある」
「君がいなければ」
それは、鎖だった。
だからイグニスは、
「誰かを正しくしようとする人間」を信用しない。
壊れているなら、壊れたまま置いておけ。
役割があるなら、それを利用して生き延びろ。
それが、彼の選んだ生存だった。
セドリックと過ごすうちに、イグニスは思った。
――ああ、同じだ。
そして、気づいた。
――こいつは、俺より深く沈んでいる。
だから、隣にいると決めた。
引き上げるためじゃない。
正しくするためでもない。
一緒に、底に座るために。




