第6話:効率の代償
勇者パーティーの進行は、予定より早かった。
理由は単純だ。
依頼が、勝手に集まってくる。
「この村にも、魔物が」
「隣国との交渉に、勇者の名を」
「治安維持の象徴として、少し立ち寄ってほしい」
本来、勇者庁を通すはずの要請が直接、村から、領主から、司祭から届く。
「勇者って、忙しいね」
そう笑いながら、セドリックは断らない。
「困ってるなら、行こう」
それが、彼の基準だった。
‡ ‡ ‡
ある街。
魔物討伐を終えた後、セドリックは住民に囲まれていた。
「勇者様が来てくれてよかった」
「もう、魔物の心配をしなくていいんですね」
「はい。もう大丈夫ですよ」
セドリックは笑顔で答える。
すると、人々はほっと息をついた。
――安心を、預けるように。
次の街へ移動中。
ガウェインが、低い声で言う。
「次の依頼だが……一件、断ってもいいのではないか」
「え?」
「優先度が低い。しかも、本来はその土地の兵で対処すべきだ」
セドリックは少し目を伏せる。
「もし、僕が断って…もし誰かが死んだら。僕は、自分を許せないから」
そして、セドリックは、いつも通り穏やかに笑った。
首元の聖痕は、キラキラと清浄な輝きを放っている。
「だから、行くよ。それに、僕が行ったほうが早いよ」
剣の柄を握るガウェインの手に、力が籠った。
顔を歪め、何度か口を開いては閉じる。
「……それは、そうだが」
「通り道だし、大丈夫だよ」
ガウェインの足が止まった。
歩き続けるセドリックの背中を見つめ、ガウェインは立ち尽くす。
「…私は、正しさを信じている。規則を守り、秩序を守ることが、世界のためだと」
ガウェインは俯き、己の手を見つめ呟く。
「お前の言うことは正しい。確実に、早く人々は救われる。だが」
ガウェインは両手を握りしめた。
「…俺は、何を守っている…?」
勇者一行のもとを、爽やかな風が通り抜けた。
夜。
焚き火の前で、セドリックは剣を磨いていた。
手慣れた動きは、無駄がない。
その様子を見ながら、ルチアがぽつりと言う。
「最近……セドリック、迷わなくなったね」
「え?」
「前はね、もっと……迷ったり、困ったりしてたでしょ?」
「そうかな」
セドリックは少し考えて、笑った。
「そうだね、迷う時間が減ったかも」
磨かれた剣に、セドリックの笑顔が映る。
「正解はいつも決まってるって、気づいたんだ」
剣の裏側に映るルチアは、視線を落としたままだった。
‡ ‡ ‡
その夜も、闇は来た。
『随分、背負うようになったな』
「みんな、楽になってる?」
『そうだな。お前は?』
少し、間が空く。
「……みんなの役にたつなら、いいんだ」
『そうか』
魔王の声は、穏やかだ。
『お前が来るのを、待っている』
セドリックの首の聖痕が、じわりと熱を持った。




