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第3話:四人の旅立ち

朝日が村の広場を黄金色に染め上げる。

セドリックは、新品の革の匂いがする装備に身を包み、ルチアとガウェインの前に立った。

首筋の聖痕が宝石のようにきらめく。


「いよいよだね! 魔王を倒して、世界を平和にしよう!」


混じりけのない決意。

聖騎士ガウェインは、その眩しさに目を細め、重苦しく頷く。


「……ああ、行こう」


癒し手のルチアが、セドリックの腕にそっと手を添える。


「セドリック、無理はしないで。私たちを、頼ってね」

「ありがとう、ルチア!」


セドリックは満面の笑みで応える。


「やっと、僕の役割が果たせる…!」


そわそわと落ち着かないセドリックを、聖女と騎士は微笑ましく見つめる。

三人の背後から差し込む朝日は、石畳の上に長く、あまりに長い影を伸ばしていた。


村を出ようとしたところで、門に寄りかかる人影があった。


「…イグニス?」


黒いローブに身を包み、足元にトランクが一つ。


「俺も連れていけ。俺は魔導士だ。今のパーティーは、バランスが悪いだろう」

「えぇ…?」


セドリックはルチアとガヴェインを振り返る。

口元に手を添え、目を瞬くルチア。

ガウェインが一方踏み出し、イグニスを見下ろした。


「確かに、魔導士がいればパーティのバランスは良くなる。だが、余分な荷物を持つ余裕はない」

「自分の身ぐらい自分で守る。要らないなら、勝手に近くで旅をするだけだ」


ふんぞり返るイグニスに、ルチアが噴出した。


「いいんじゃないですか? 近くを旅するなら、一緒で」

「…聖女様と勇者様がいいなら」


ガヴェインが一歩下がり、三人の視線がセドリックに集まる。

セドリックは眉を下げ、へらりと笑った。


「これからもよろしく、イグニス」


こうして、勇者一行は4人での旅立ちとなった。


‡ ‡ ‡


勇者一行は、セドリックが感じる魔王の方角を目指す。

旅の道中、ある村で魔物を討伐した際のことだった。


「勇者様、ありがとうございます! おかげで助かりました!」


村人たちの歓声と、差し出される感謝の手。

セドリックはその一つ一つを丁寧に握り返し嬉しそうに笑っていた。


村人へ別れを告げ、次の村へと踏み出そうとしたセドリックの足が止まった。

セドリックの脳裏に、ノイズ混じりの声が響く。


『――悪いけど、これもついでに頼んでいい? お前ならすぐできるだろ? 助かるよ』


ざらりとしたものが、セドリックの胸をなでた。

聖痕が灼けるような熱を発する。


「どうした、セドリック。休むか?」


聖痕を抑え動かないセドリックを、ガウェインが心配そうに覗き込む。

セドリックは軽く頭を振り、三人へ笑顔を向けた――つもりだった。


「…ううん、大丈夫! 次の村へ行こう」


慌ててルチアが癒しをかける。

ガウェインが肩を掴み、声を荒らげた。


「調子が悪い時は、休まないとだめだ!」

「今日は休みましょう、セドリック」

「僕は大丈夫だよ、どうしたの2人とも…」


ルチアはセドリックの冷え切った手を包み込み、必死に訴える。

しかし、セドリックは血の気の引いた顔に笑顔を浮かべ、何でもないと口にする。


「本当に大丈夫だよ。はやく、次の村に行かなくちゃ」


セドリックは血の気の引いた顔に、いつもの「完璧な笑顔」を貼り付けた。

聖痕を抑える指の小さな震えを見ていたイグニスが、口を開いた。


「今日はもう十分役に立っただろう。無理をして倒れたら、迷惑だ」

「そんな言い方しなくても……!」


ルチアが弾かれたようにイグニスへ怒りを向けた、その時だった。


「……そっか。じゃあ、少し、休もうかな」


セドリックの表情から、ふっと力が抜けた。

ルチアがどれほど真心を持って「休んで」と請い願っても、頑なに拒絶し続けていたセドリックは。

イグニスの『役に立った(ノルマ達成)』と『迷惑(損害)』という無機質な言葉に、安堵の息を漏らした。


「…え……」


ルチアの手から力抜け、セドリックの手が離れる。


「……セドリック、さん?」


ルチアが震える声で呼ぶ。

穏やかな表情で眠りに落ちたセドリックの横顔を見たルチアは、口を押さえ顔を背ける。

わずかに肩が揺れ、吐き気をこらえているのがイグニスには見て取れた。


その日、勇者一行はその村で夜を明かした。

眠るセドリックを囲む静寂の中で、ルチアは口を引き結んだ。


翌日、川辺を歩いているとき、ルチアがセドリックに顔を寄せた。


「セドリック……髪に、何か…」


セドリックの透き通るようなブロンドの中に、一筋だけ、墨を落としたような「黒」が混じっている。


「戦いの汚れかな」

「…汚れではなさそうよ。昔から、あった?」

「どうだろう? 気にしたことなかったな」


セドリックは髪をつまみ上げ、毛先を見つめた。


毛先を放したセドリックの指は、聖痕へと移動する。

目を伏せて、セドリックは小さく息を吐いた。


「……君のしわざ…?」


小さな呟きは、誰の耳にも届かなった。

しかし、セドリックの様子を、離れたところからイグニスがじっと見つめていた。

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