表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/15

第11話:平和の礎

魔王が討たれたという報せは、静かに広がった。


セドリックは深く息を吸い込み、虚空にゆっくりと手を差し伸べる。


「……いいよ。僕が、すべて引き受ける」


子供たちが広場で笑いながら駆け回る。

親たちは肩の荷を下ろし、久しぶりに深く息をついた。

そのころ、城の玉座では、セドリックの手のひらに鋭い痛みが走った。


ある村では、小さな宴が開かれ、村人たちは疲れた体を休め、互いに笑顔を交わす。

「ああ、やっと安心できる…」と誰もが胸をなでおろしている。

セドリックは背中の骨が軋み、息を整えていた。


市場では、声を荒げそうになった商人たちが目を合わせ、ぎこちなく笑った。

「…まあ、今日はやめておこう」

玉座を掴むセドリックの指先は白く、小さく震えている。


辺境の王国の谷間では、戦端を開こうとしていた兵士と王が立ち止まる。

険しかった目が緩み、目を合わせてうなずく。戦争の火花が、静かに消えた。

セドリックの額には髪が張り付き、冷や汗が頬を滴る。


どれも痛みは鋭いが、セドリックに恐怖はなかった。

誰に聞かせるでもなく、セドリックは微笑みながら呟く。


「……大丈夫。まだ、大丈夫…」


城の静寂と、街の光景が、交互に脳裏を駆け巡る。


玉座の間は静寂に包まれ、世界は今日も少しずつ、平和を続けていく。

そしてセドリックの胸の奥で、世界中の怒りも嫉妬も、不安も、静かに脈打ち続けていた。



世界から、犯罪が減った。

争いは起きにくくなった。

人々は以前より、少しだけ優しくなった。

理由を考える者はいない。


勇者パーティは、解散した。

聖騎士は勲章を受け取り、王国の秩序を守り続けた。

癒し手は故郷に戻り、名のある治療院を開いた。


「勇者セドリック」について、人々はこう語る。


――優しい勇者だった。

――自分を顧みない、立派な英雄だった。

――世界を救い、姿を消した。


しかし、記録も、記憶も曖昧だ。


夜になると、人々は安心して眠る。

誰かが怒りを覚えたとき。

嫉妬に胸を焦がしたとき。

「自分だけが損をしている」と思ったとき。

負の感情は、どこかへ、静かに流れていく。


遠い場所の玉座に一人の青年がいる。

耳鳴りが鳴りやまず、心臓が締め付けられ、喉が灼く痛みを抱えながら。


「……大丈夫」


青年は何度も、小さくそう呟く。

それは、自分自身に、言い聞かせる癖だった。


世界が平和だからこそ、誰も振り返らない。

誰かが犠牲になっていることで、 世界は平和に続いていく。


これは、どこにでもある物語だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ