第10話:お前が戻るまで(SIDE:ガウェイン)
王都への帰路。
腰に下げた剣の重さを、これほど感じたことはなかった。
この剣で、俺は何を守ったのか。
いや——何を守れなかったのか。
‡ ‡ ‡
15歳で騎士に叙勲された頃、正義感に燃え、ただ「正しさ」を信じていた。
だが、現実は違った。
正しさだけでは、誰も守れなかった。
仲間が倒れる。
「まだ戦える」と言って、立ち上がる。
そして、二度と立ち上がれなくなる。
だから、誓った。
「規則を守る」と。
休息を必ず取らせる。
無理はさせない。
秩序を維持することで、人を守る。
それが、騎士の使命だと。
‡ ‡ ‡
セドリックと手合わせをした際、いつかこの少年は、壊れると思った。
訓練で肩が外れても、笑いながら戦い続ける。
「まだ使える」と言って、立ち上がる。
かつて見た光景だった。
だから、何度も言った。
「休め」と。
「無理をするな」と。
だが、セドリックの笑顔の前では、すべての言葉が無力だった。
「大丈夫だよ」
彼はそう言って、俺の差し出す手を取らない。
‡ ‡ ‡
魔王の城で、この時のために鍛錬したはずの剣を、抜けなかった。
セドリックが闇に呑まれていくのを、ただ見ることしかできなかった。
分かってしまったのだ。
俺が剣を抜いても、何も変わらないことが。
セドリックは、すでに決めていた。
世界も、すでに決めていた。
騎士の剣は、誰も守れなかった。
‡ ‡ ‡
王都に戻り、勲章を受け取った。
「魔王討伐、ご苦労だった」
国王の言葉に、頭を下げた。
耳を突き刺すような歓声の中。
勲章は、冷たく、重かった。
夜に、自室で剣を抜いて眺めた。
刃は曇りひとつなく、輝いている。
だが、その輝きは、もう何も映さない。
「……俺は、何も守れなかった」
剣を鞘に収め、目を閉じる。
「セドリック。お前が戻ってくる日まで、この剣は捨てない」
無力な騎士は、それでも剣を持ち続けよう。
そして王国の秩序を守り続ける。
それしか、できないから。
せめて、彼が守った平和を壊さないように。




