第9.5話:残された者たち
魔王討伐から三日後。
王都への帰路、三人は言葉少なだった。
ガウェインは何度も口を開きかけ、閉じる。
ルチアは、時折ぼんやりと遠くを見つめる。
野営地で、ルチアが耐えきれず口を開く。
「……私たち、セドリックを止めるべきだったんじゃ」
ガウェインの手が、剣の柄で止まる。
「止める、とは?」
「あの城に入る前に。もっと前に。もっと……」
声が震える。
「私、気づいてた。セドリックが無理してるって。でも、『大丈夫』って言われたら、信じるフリをしたの……」
ルチアの頬を、涙が伝う。
「私が楽だったから。それ以上、考えなくてよかったから」
ガウェインは目を閉じる。
「……私もだ」
重い沈黙。
「セドリックの前で、私は完璧な騎士でなくてもよかった。判断を誤った時、いつも彼は笑って私を許した」
二人は、それぞれの拳を握りしめる。
「私たちは、彼を——」
「利用していた」
イグニスが、焚き火の向こうから言う。
「自覚があるだけマシだ。世界中の人間は、もっと無自覚に利用してる」
ルチアが顔を上げる。
「イグニス、あなたなら……止められたんじゃないの?」
イグニスは、炎を見つめたまま答える。
「止めても無駄だ。あいつは別の場所で、同じことをする」
「じゃあ、どうすれば良かったの……!」
ルチアはイグニスを睨みつけた。
イグニスは表情を変えず、立ち上がる。
「お前たちがすべきことは一つだ」
二人を見下ろす。
「この平和を享受しろ。セドリックの犠牲を無駄にするな。そして——忘れるな」
ガウェインが、険しい顔で問う。
「あなたは、どうするんだ」
イグニスは、北を向く。
「決まってる。あいつの隣に座る」
翌朝、イグニスの姿は消えていた。
荷物も、杖も、すべて。
残されたのは、焚き火の跡と、地面に刻まれた、一つの言葉。
『生き延びろ』
燃えるような朝焼けの中、ルチアとガウェインは、その文字をじっと見つめた。




