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第9話:器の継承

導かれるようにたどり着いた先には、錆びれた石造りの城があった。

黒い蔦が這う城内を進む、セドリックの足取りに迷いはない。

空気は重く、聖女はずっと口元を抑えている。


最奥の重厚な扉を開くと、玉座に黒い影が座っていた。


「待っていたぞ、勇者」


声は低く、乾いていた。

怒りも威圧もない。

その視線は、ただ聖痕を見ていた。


「俺の、次の器」


魔王の声と同時に、セドリックの首が微かに熱を帯びる。

震える声で、ルチアが尋ねる。


「……あなたを倒せば、終わるんじゃ、ないんですか」

「終わらない」


即答。


「倒せば、世界は新しい魔王を生むだろう。いずれにせよ、お前になるだろうな、勇者」


ルチアがその場に座り込んだ。


「人間は、感情を捨てられない。だから、押し付ける先が必要だ」

「それが魔王、君だね」

「そうだ。そしてお前だ、勇者」


魔王が、ゆっくりと立ち上がる。


「勇者とは、“世界が安心するために、壊れてもいい存在”だ」


その瞬間、前世がセドリックにはっきりと蘇った。

深夜のオフィス。

自分の机に山積みにされた、他人の名前が書かれた書類。

画面の光だけが青白く自分を照らしている。


――期待してるよ。

――はい、まかせてください!


「助かるよ」と背中を叩きながら、上司は自分より先に帰っていく。

功績は他人のものになり、ミスは自分の責任となる日々。


――失望したよ。君はもっと『思いやり』のある人間だと思っていたのに

――自分のことしか考えてないんだな。


断ろうとしたときには、息ができないほどの空気に包まれた。

そうして、断る選択肢をいつの間にかなくしていたのだった。


セドリックは聖痕を押さえ、困ったように微笑んだ。


「…ずっと前から、そうだったよ」


セドリックは視線を落とし、後ろを振り返る。


目に涙をため、口元を押さえるルチア。

唇を強く引き結び、剣を押さえこんだガウェイン。

手が白くなるほど杖を握りしめ、まっすぐに見るイグニス。

全員が口を開かず、セドリックの言葉を待っている。


「ありがとう。ごめん。でも」


瞬きをしたセドリックの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

そして、魔王に向き直る。


「僕が、すべて引き受けます」


その瞬間、魔王から闇が噴出し、セドリックへと向かう。


セドリックは世界中の、小さな感情が流れ込んでくるのが分かった。

誰かの怒り。

誰かの嫉妬。

誰かの「自分は悪くない」という安堵。


「……ああ。これ、知ってる」


闇の間から見える魔王は、薄くなっていく。


「……すまない。ありがとう」


小さな声に、セドリックは首の熱を感じながら、微笑んだ。


「大丈夫です。慣れていますから」


闇がすべてセドリックに収まった後、魔王の姿はなかった。

光のようだった髪も、青空のようだった瞳も、黒く染まっている。


重力に引き寄せられるように座り込み、セドリックは、ゆっくりと息を吐く。


「……うん」


振り返り、変わらない笑顔で微笑んだ。


「大丈夫」


それが、新たな魔王の誕生だった。

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