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ファウスト(ガリレオ)〜自然主義軍師の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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6/6

第六幕:侮蔑の数学

【第六幕】

やあ、君。

世の中は実力がいくら高くても、

コミュケーションという目に見えないものを重視するもんさ。

 才能も目に見えないはずなのに、

こいつは実際に形にしなきゃ、

世の中で認められない。不公平なもんさ。

 さてーー時代は1589年の頃だ。イタリアのトスカーナ地方のフィレンツェ公国の都市ピサ。ここでは人中心を謳っていた芸術のルネサンス時代が終わりを迎えようとしていた。

 代わりに神の教えを武器とした聖職者が、自分たちの庭を猟犬のように徘徊しだした。聖なる松明を掲げながら、目をギラつかせてね。

 ボクらのガリレオ・F・ガリレイは、ピサ大学で名誉数学講師として迎えられた。

 医学ではなく、数学を仕事にしてガリレオの自尊心は満足した。

 ほんの少しばかり、給料が少なくてもーーと思ったのは他の講師の給料を知るまでだった。

 学びに情熱を傾けず、古い教えばかりを読み上げる連中。新しいことを邪道として、同じ教え方を繰り返す教師陣。

よりにもよって彼らが、自分よりも金をもらっている事実は、ガリレオの神経を昂らせた。

 それだけじゃない。実家の妹ヴィルジニアに結婚の話まで出てきた。

数学講師の不遇と妹の結婚の話、この二つがガリレオの前にあった。

「もっとお金が欲しい。」

ガリレオは居候させてもらっている部屋

でつぶやいた。

妹の結婚で彼が神経質になっているのには理由があった。トスカーナ地方では、女には二つの道しかない。

結婚するか、神に召されるか、だ。

君は自由な恋愛を想像していたかもしれない。こんな時代には、個人よりも家が重要視されていたんだ。

家柄が高い者に嫁ぐ時には、莫大な持参金が必要になる。

ガリレオの父ヴィンチェンツォも、この持参金のおかげで生きてこられた。

ガリレイ家が貧しいからと免除されるわけにはいかない。

問題は父が、娘ヴィルジニアの持参金をいくら払うかーーどう決めるかだった。

金のことを考えてこなかった音楽家が、とてもじゃないが好条件で持参金を決められるわけがない。

あちらの家の都合のいい額を受け入れるかもしれない。

こんな風に考えると、やはり金は必要になる。

金を得るには、目立つしかない。

ガリレオは数学を商売だけの道具にしない方法を考えていった。


 ガリレオは、あらゆる事を考えた。

結果、一番手っ取り早く確実なのはピサ大学の生徒を奪うことだ。

古臭い教えを伝えるだけなら、講師なんて不要だ。若者たちの好奇心を刺激して、ピサ大学の講師たちの権威に揺さぶりをかける。

 興味をもった若者たちが家庭教師として自分を雇ってくれたら、金になる。

数学の価値もあがるし、良いことしかなかった。

まあーーその時は、それしかなかった。

「マヌケたちがいくら集まっても、ボクに勝てるわけがない。古い本を語り継ぐだけの、頭が飾りの連中に負ける気なんてしない。」

 彼はピサ大学のあらゆる権威を批判することにした。まずは、大学の歴史となる制服についてイチャモンをつけた。

こんな風にさ。

――――――――――

そこいく皆さま

ごらんあれ

道化のピエロを見たくはないか

サーカスで飛び交うピエロも

笑いを奪われ職なくす

ピサの教授のお通りだ

街中を大学と

勘違いして歩き出し

部屋着と変わらぬ

使い方

昔からやってると

古い伝統カチコチと

凝り固まった歩き方

ピエロよ笑え

マネをしろ

今からマネたら

100年先には

伝統になるのさ

――――――――――

このような詩を学生たちに読ませた。

どこで? 数学の授業中とかにさ。

他の講師たちを面白おかしくこけ下ろした。

 もともとガリレオもピサ大学の生徒だった。講師たちに不満はあった。

何をバカにすればいいかなんて、簡単だった。


 とある講義の時だった。

講義ホールに、本来なら講義時間ではないはずのガリレオがいた。

 その時の講師は不愉快そうに彼を見た。

「ガリレオ先生。あなたの時間ではないはずだ。」と声を荒げて、その講師はガリレオにいった。

「机上の空論という言葉をご存知かな?」と何でもないかのように、ガリレオは逆に質問した。

「アリストテレスの理論を、

教授は実際に試してみたことは?」とね。

その講師は顔を赤らめた。怒りでね。

彼は何も言えなかった。

罵詈雑言を叫ぶ教職者なんて恥ずかしいからさ。

面白そうにガリレオは余裕ある笑みを返した。

「実験をやるんだ。人に教える知識に責任を持てよ。でなきゃ、君はウソツキか無責任な男と評価される。」

そういうとガリレオは、学生たちを見渡して講義ホールから去るんだ。

しばらく学生たちは考えた。

「彼がガリレオ・ガリレイなんだーー」と学生の一人が叫んだ。

このようにしてピサ大学で、ガリレオ・ガリレイーー彼の名は学生たちの魂に刻まれた。

 個人授業を求める学生の声が強まる一方で、講師たちの目は険しくなっていった。


それでどうなったか?

講師たちの話を積極的に聞く者は、どんどん減っていった。

「本に書かれている事を読むだけ!

こんなのウチのママにだってできらぁ!」という罵声が講義ホールに何度も響き渡った。

学生の中には、公然と講師を非難して退学する者まで出てきた。

ガリレオ先生という革命児の教えこそが、これからの未来だった。

 だけど、全ての理論を実験で見直すことは可能だったのか?

ガリレオ一人で、実験場を組み立てたら莫大な金になる。彼には新たなパトロンができた。

トスカーナ大公国の公子であるジョヴァンニ・デ・メディチだ。彼の支えにより、実験を満足にできたし小遣いも得られた。

彼はガリレオの熱心な信者だ。

他の学生にはできない事をやってのける財力まであった。

しかし彼には、不満があった。

その日も、ガリレオの個人授業を受けていたジョヴァンニは、ノートに数式を書き込んでいた。そこはジョヴァンニの個人的な質素な私室だった。ベッドに本棚に勉強机とかしかない。トスカーナ大公の息子の部屋にしては質素すぎた。

これはジョヴァンニがトスカーナ大公の私生児であるのにも関係してた。

結果を見せなきゃ、彼もまた切り捨てられる道具なんだ。

 彼は、ぶつぶつと考えているガリレオに声をかけた。

「ガリレオ先生。ピサ大学には、あなたを評価できない。」とね。

ガリレオは静かになった。ジョヴァンニへと顔をむけた。

「父が働きかけたとしても、この教師陣はあなたを敵としか考えない。」とジョヴァンニはガリレオに言った。

「目立てば目立つだけ、私たち若者はあなたを支持する。だけど、老人たちはーーあなたの命すら奪おうとするんだーー」と若者は下唇を噛んだ。

「でも、あなたがピサを離れることはできない。理由がなく離れたら、父があなたを始末する。厄介な状況ですよ。」

「ジョヴァンニ。君、何か考えがあるのかい?」とガリレオは優しく彼に聞いた。親しみを込めてね。

若者は、ニヤッと微笑んだ。

「あなたがピサを離れる理由を作ります。私がーー」

その言葉は虚空へと飲み込まれていった。


 こうして第六幕は、芝居によって幕を閉じる。

 

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