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ファウスト(ガリレオ)〜自然主義軍師の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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第五幕:凱旋と孤立

【第五幕】

やあ、君。

人は人生が好転していくと雰囲気が変わるものだ。周りは気づく。

そして幸せな人を見ると、あやかろうとしたり、大した事がないと喚きたてたりする。やがては幸運を努力もせずに手に入れた狡い人間だと囁きだすんだ。

そうさ。

幸せは伝染する。悪い意味でね。

 貴族の後ろ盾を手に入れたことで、ガリレオの家での立場は変わった。

「アンタは、ちゃんとやれる子だって分かっていたよ。アタシらの応援が、アンタをここまで幸せにしたんだ。」と母は、その夜の食卓でガリレオに向かって言った。

 父は草を頬張る牛のように、食べものを口にしていた。ガリレオとは目を合わさなかった。父は内心、失敗すればいいのにと考えていたのかもしれない。

息子の光が強まるほどに、彼は影へとなった。

 弟と妹たちは母と兄を見ては、尊敬の眼差しを兄に向けた。

うだつの上がらない人間が、勝利者のように帰ってきたのだから。

「さあ、アンタたち。お兄さんのおかげでアタシらは生きていけるんだよ。」

とーーこんな風にガリレオは長男として王のように敬われていた。

彼も気分が良くなって、自己肯定感を高めていった。

 当初は、それで良かった。だけど物事には結果が必要なんだ。能力を持っているとしても、形にしておかないと手のひら返しが始まる。

 何かをやらなきゃいけない事は分かっているのに、モチベーションがわかなかった。

なぜかって?

ガリレオも人間なんだから。

追い込まなきゃやる気なんて、起きやしない。皮肉にも、貧乏と周囲からの軽蔑は力を与えてた。

このままだと、数学への愛すら失ってしまう。彼は環境を変える事にした。

ハングリー精神に追い込む事にしたんだ。

 ガリレオの思いつきは、すぐさま形になった。まずはパトロンのグイドバルドの屋敷へと向かって、彼に援助を求めたんだ。金銭以外のね。

「閣下。大変身勝手かと思いますが、私はピサ大学で数学の教鞭をふるいたいと考えています。」とガリレオは単刀直入に話を切り出した。

グイドバルドの顔が歪んだ。白い指がプルプルと震えていた。

「ピサ大学で教えるだと?」

「ええ。閣下。私は数学の素晴らしさをピサの若者に学ばせてやりたいのです。絵空事の理論ではなく、実際に役立つ数学を得させたいのです。」

「ガリレオ。勘違いをしてるようだな。お前の知財は全て吾輩のものなのだ。

誰かれに学ばせて、お前の才を凡庸にするようなマネーー許可するとでも?」

ガリレオの自尊心はくすぐられた。しかし、彼は安楽椅子に腰掛ける男ではなかった。

「ピサ大学には、正規の数学者はいません。私が常駐する事は可能なはず。

それにグイドバルド閣下が、ピサの若者にお抱えの数学者を公共の役に立てようとする姿勢は気高いものです。

閣下の名を高めることがあっても、貶めることはございません。」

ガリレオは、このように半ば強引に言い切った。グイドバルドは悔しそうに下唇を噛んでこう言った。

「基礎だけ教えるんだ。わかったな?

吾輩の名に泥を塗るんではないぞーー」

この言葉は虚空へと消えた。全ては馬耳東風。ガリレオは先を見ていたんだ。

彼の不敵な笑いが、もう自分のことしか考えてなかった。彼を止められる者はいないんだ。

 

 彼は再び母の親戚のムツィオ・テダルディの家に居候することにした。

彼の生活は贅沢とは縁遠いものにするためにさ。

 しかし、実家を出ようとするガリレオに対して母と弟と妹たちの態度はつめたいものだった。

「ガリレオ。よりにもよって数学教師になるのかい? アンタ、授業費用をグイドバルド様にお借りして、医者にでもなりゃいいんだよ!なんでまあ、数字遊びなんかするんだい?」と母は非難した。

「これがボクの生き方なんだ。母さん。数学でも、充分に医者のように稼げるようになるから。邪魔しないでくれよ。」とガリレオは言ったんだ。

その言葉を聞くや、母は他の家族を呼び寄せて言った。

「このマヌケ!せっかくのチャンスを、またムダにするんだね!大バカもんだよ!」そうして、母の罵倒が始まった。

「稼ぎの悪い数学教師! どうせ、うまくいかない! アタシらを捨てて一人だけ幸運を味わうんだろ! 苦労は全部、全部アタシら家族に押し付けて!

この恩知らず!恩知らずのマヌケ!」

ガリレオは母をジッと見つめた後、静かに家を出た。この母の言葉がガリレオを突き動かすんだ。歯止めの効かない歯車のようにーー他人と噛み合うことが難しい男にね。


 母はーーしばらく扉を睨みつけたままだった。

「アタシの思った通りだよ。やっぱり、あの男の性分が、あの子を狂わせたんだ。アンタたち! アレがいつ一文なしになるか分からないよ。

もらえる時に、しっかりと取り立ててやるんだーーあの寄生虫めーー」と母は呪いの言葉を世に出した。

「アレの今の幸福は、運が良かっただけなのだから。たいした苦労なんてしていないーー」

彼女の子どもたちは、それぞれ頷いた。

リュートの音楽家として。

結婚の持参金を支払わせようとして。

ガリレオの今の幸福を取り立てる借金とりのように振る舞った。

きっと、終わりの時が来るまで。

 

 家の北側の窓の側で、父ヴィンチェンツォはリュートを静かに抱きしめた。

彼の頭の中には、美しい世界しかなかった。


 こうして第五幕は寄生虫により幕を閉じる。

 

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