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ファウスト(ガリレオ)〜自然主義軍師の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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第十六幕:裏切り

【第十六幕】

 やあ、君。人は成功者の苦しみを想像できない。むしろ、何か裏があると思う。汚れた部分がないと安心できない。

だからーーなんとか足を引っ張る。

それを正しいと思い込んでるんだ。

 どの時代でも、同じ事が繰り返された。聖書の中ですら、裏切りは行われている。まだ穢れが少ない時代の人ですらーー。

 さて、1616年のフィレンツェ公国のピサの彼の屋敷にて、ガリレオは教会から警告を受けた。死神が自ら郵便受けに投函するように、教会の赤き蝋印のついた手紙が彼の下に届いた。

 最近、彼はサロンで地動説を証明した。金星の満ち欠けから地球の動きを解説した。これは当時の考えでは教会を敵にまわす行為だった。

そこで誰かがーー通報したんだ。

『ガリレオ・ガリレイは地動説を支持している』とね。

だけど彼は気にしなかった。

枢機卿の友が味方だったからね。


 その日にガリレオはサロンへと姿を現した。

彼は再び自慢げに地動説の証明を唱え、マッフェオの名を出した。

「サロンの中に、臆病者がいるようだ。真実は証明できる。ボクを通報してもムダだ。マッフェオ枢機卿に聞いてみるがいい! 彼はボクの友人であり、ボクの観測を『真理の灯火』と呼んでくれた男だぞ!」

鬼の首を取ったように、サロンの参加者に言い切った。

彼らの中には十字を切って、ガリレオから視線を逸らした。

ローマの信心深き目を恐れたからだ。

「もう沢山だ!」

華やかな部屋の灯りのもとで、貴族が叫んだ。その声は恐怖と怒りで震えていた。

そのサロンのホストはガリレオの肩を掴んだ。

「ガリレオ卿。貴公の言いたいことはわかった。だが、もう帰ってくれ。

お願いだからーー」

ガリレオは言い返さなかった。

代わりに鼻を鳴らした。ブタのようにね。臆病者を辱めたかった。

だが他のサロンでも同じことの繰り返しだった。

マッフェオ枢機卿の名前をだして、

地動説を証明した。

ジョルダーノは証明できずに焼かれた。

だが、ガリレオは証明ができた。

しかし、君。全てはムダだよ。

ここでガリレオは、マッフェオ枢機卿の名は役に立たないと悟った。

 それからすぐに立場を変えた。

サロンのホストたちに謝罪し、また前の生活へと戻った。地動説の事は語らず、トスカーナ大公に星々の美しさを解説した。望遠鏡で発見できる事は尽きない。

空ばかりを覗き込んだ。

人は彼を頭がおかしくなったと言い始めた。

「天使は見たのか?」という宗教的な問いには、ガリレオはーーこう応えた。

「見ていません。

ですが、宇宙は広大です。

見てないからと言って存在は否定されません。」とね。

 色々な事が起こった。

 たとえば1620年8月にはガリレオの母が死んだ。82歳の大往生だった。

彼女が死んだ時には、ガリレオは悲しまなかった。彼女はフィレンツェのオルトラルノ地区にあるサンタ・マリア・デル・カルミネ教会に埋葬された。形式的な葬儀を終えた後、ガリレオは彼女を話題にすることはなかった。

二人の因縁の決着は、こうして終わった。

 それから1621年の頃。ガリレオは後からになって、ジョヴァンニ・デ・メディチが亡くなった事を知った。彼の死因は天然痘だった。パドヴァで感染し、7月19日にヴェネツィア近郊のムラーノで病死した。

その死を知った時、ガリレオは失意と共に、死を深く感じた。

「高貴な血を持ったとしても、死神の鎌は刈り取るーーこの世はなんと残酷だろうーー」と彼は嘆いた。

 ジョヴァンニ・デ・メディチは何も残せなかった。少なくとも、ガリレオのようにはね。

トスカーナ大公の私生児だった。

私生児として生まれて、私生児として死んだ。

それだけが彼の周りで覚えられていた。

ガリレオは震えた。自分は崇められたい。揺るぎない知性の代名詞となれたらーー。

 だが、名をどのようにして歴史に刻む事ができるのだろうか。

 そう簡単に歴史に名を残すことはできない。悪名の方が残りやすい。

でも、自尊心がバベルの塔よりも高いガリレオには悪評は耐えられない。

 状況が変わったのは1623年8月6日。

マッフェオ・バルベリーニ枢機卿が教皇ウルバヌス8世として選出された日だ。

ローマの煙突から白い煙が立ち上がった。新教皇ウルバヌス8世の誕生が告げられた。

 ピサの静かな書斎で、ガリレオはその報せを握りしめ、震えた。

 教会からの警告があった後、彼は死んだふりをしていた。

母の金切り声は聞き流した。

サロンでは『星は美しい』という毒にも薬にもならない言葉を吐き続けた。

修道院に送った娘たちからの手紙を読みながら、牙を研いでいた。


 1624年4月頃。ガリレオはウルバヌス8世に新教皇のお祝いを直接やった。

ローマにまでやってきたんだ。

教皇となれば、スケールが何もかもちがった。応接間すら、大学の公演並みに広く、石造りのテーブルでさえ歴史を語りかけた。貴族たちのような豪華ではない。

ガリレオは部屋にとまどった。

それから、今まで我慢してきた地動説の件を話した。

「サロンで、君の名前を出して地動説を証明したが、相手にされなかった。」とね。

教皇は苦笑いをした。

「平等に書いてくれるなら構わないよ。天動説を多くの者たちが信じてる。

彼らを刺激しない方が賢明だよ。友よ。」と彼は言ってた。

だけどね、長い間、黙っていた分、ガリレオは興奮していた。

書いていいだけが、頭に残った。

「これでもう、ボクを悪魔と呼ぶ連中も、地動説を禁じる古い教えも、すべてボクの味方になる!」というや否や、執筆活動を開始した。


地球は太陽の周りを周る。

他のクズ星と同じようにーー。


「マッフェオ・・・・・・いや、ウルバヌス8世聖下。

  ついに、ボクたちの時代が来たんだ!」

 彼は埃を被った古い羊皮紙を広げ、羽ペンをインクに浸した。

 もはや『美しさ』を語る必要はない。数学と観測によって、この大地を引き摺り回し、太陽を中心へと据え置く。

教会の凝り固まった教えを打ち砕くんだ。

 「他のクズ星と同じように、この地球も回してやるさ」

 その筆致には、科学者としての歓喜と、自分を抑圧してきた世界への復讐心が混じり合っていた。

 彼が書き始めたのは、『天文対話』。

教皇の主張をマヌケとした対話劇だった。シンプルにまとめておけば良かったのに、ガリレオは面白おかしく書き殴った。

 賢明なるサルヴィアティ。

中立のサグレード、そして――。

教皇マッフェオがかつて口にした「神の全能」という理屈を、マヌケな『シンプリチオ』という名の登場人物に語らせ、論破していく。

ガリレオは確信していた。

「これは友情の証だ。マッフェオ、君の言ったことを最高に面白い劇にしてあげたよ」


 歴史に名を刻む。あの神の家が秘密としたかったものを世間に引きずり出す。

そうなれば、ローマの連中は認めるだろう。

彼の名ーガリレオ・ガリレイを悪魔ではなく聖人として大切に読み上げるんだ。


 こうして第十六幕は、裏切りによって幕を閉じる。


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