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ファウスト(ガリレオ)〜自然主義軍師の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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1/8

第一幕:ガリレオ・ガリレイの誕生

 やあ、君。

今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。

彼の壊れた魂は、

次の誰かに受け継がれた。

もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。


ボクが誰かって?

語り部ファウストさ。

ヨハン・ゲオルク・ファウスト。

君と共に物語を見つめる者であり、

――君の友だ。


今度のファウストの魂を引き継ぐ者がわかった。

1564年2月15日。

イタリアのトスカーナ地方のフィレンツェ公国の都市ピサ。

カーサ・アマンティとよばれる家の二階の寝室。

彼は、ここで生まれた。

名はガリレオ・F・ガリレイ。

父はヴィンチェンツォ・ガリレイ。 貴族生まれの音楽家であり、数学者だ。

母、ジュリア・アンマナーティ。

ペーシャという町の商人の家の出身だ。

この二人から生まれたのが、彼だ。


彼の名前について教えよう。

トスカーナ地方の風習で長男の名に、父親の姓が使われた。

だからガリレイを崩してガリレオと名付けられた。

そして――ミドルネーム のFとはファウストを指す。

この秘密の名はボクらだけが、

知っている――。

ボクたちは彼を『ガリレオ』と呼ぼう。

 

 父ヴィンチェンツォは四十代で、母ジュリアは二十代の夫婦だ。

 年が離れすぎと思うけど、結婚してから二年後に長男のガリレオが生まれた。

後継者ができた事で、二人の未来は明るいはずだった。

だけどね、かつては名門と言われたガリレイ一族。

貧しさの影が冬の寒さと共に、家庭の中に入り込んでいた。


なぜかって?

誇り高き父の気性のせいさ。

既存の音楽理論に対して「理論よりも、実際に耳に届く響きが重要だぞ」と時の権威ジョゼッフォ・ザルリーノに噛みついた。

これは当時としても、まずいやり方だったさ。

『長いモノには巻かれろ』とよく言うだろ。

そんな事も分からないボンクラが父親だった。

世渡りというものを知らない男だった。

パトロンは離れ、音楽家たちから白い目で見られた。

そして音楽家の仕事なんてあっという間に遠ざけられ奪われて、彼は貧乏へと転がった。

家族もろとも、待ったなしだ。

近所にアパートを借りて、妻の実家から寄生虫のようにお金を借りていた。

妻からの莫大な持参金、

商人としての資産を吸い続けた。

リュートの弦を羽虫のように鳴らしながら。


 ヴィンチェンツォは貧困から、

それと周囲からの冷たい視線から目を背けたくて、

音楽に関する自理論を追求した。

賭けにのめり込むギャンブラーのようにね。

家族を顧みず、リュートをかき鳴らしては自分の正しさを形にしようとした。でも彼が耳にしたのは、現実的な妻の小言だった。

「うちの実家からの援助をあてにしないでほしいわ。永遠に続くわけがないのだから。」

その言葉は虚空へと飛んでいった。

ヴィンチェンツォには、まさに馬耳東風だった。言葉を受け止める気はなかった。

「いずれ、良くなっていく。

私の理論が、音楽の世界を変えていくんだ。

ヴィンチェンツォの名が、メロディと共に讃えられる。まさに栄光ある王のように――」と父は母に言い返していた。


 それから1572年頃だ。ガリレオが8歳の時だった。

とうとう妻の実家から愛想を尽かされて、

家族はフィレンツェへ引っ越した。

それからすぐにガリレオの弟や妹が生まれた。

父は、その頃は五十代。体力的にもキツイ。

母は三十代の女盛り。燃え盛る愛欲があれば、問題はない。

しかし二人の愛は経済的にも冷えてた。

ヴィンチェンツォの不安定な収入。

妻の実家から援助されない不安。

それなのに、子どもを増やした。

彼らは無計画だったのか?

ガリレオには新しい家族が増えていった――まあいいさ。

探りすぎるのは野暮だろう。

話を進めよう。


 1575年頃だ。ガリレオは11歳から三年間ほど、フィレンツェ近郊のバロンブローザ修道院に寄宿生として預けられた。

 当時の修道院は学校のようなもので、上質な教育を受けることができた。

無料で子どもを預けられて、しかも教育まで受けさせられる。

両親はガリレオをサッサと厄介払いをした。

 しかし、予想外だったことがあった。

ガリレオは意外と優秀だった。

『人文科学』と『論理』を深く学び、

その学びを修道士たちに見せつけた。

 修道士たちは、彼の才能を高く買った。

すぐにでも世俗の縁を切ってもらい、

見習い修道士ーノヴィスにさせようとした。ガリレオも認められて満更でもなかった。

 ノヴィスになれるほどの才覚をもつ息子を手放すのが惜しくなったヴィンチェンツォは、激しく取り乱した。

息子を取り戻さなきゃならない。

だけど理由もなしに、修道院から連れ出せなかった。

でも、彼にとって運がいいことが起こった。ガリレオは一時的な眼炎にかかった。その治療のために、修道院から取り戻すことができたんだ。

強制的に世俗に連れ戻されたガリレオは、失意の中にいた。その彼を更に揺さぶることがあったんだ。

 ガリレオには本当なら六人の妹や弟たちがいた。

だけど、三人しか幼児期を生き延びられなかった。父は研究に没頭し、家族のことを顧みない。

この時の悲しみは全部、貧乏が招いていた。子どものガリレオにはどうする事もできなかった。

その細い腕で、幼い弟や妹を抱きしめてた。その温かさが失われていくのを見送るしかできないんだ。

三たびも神に祈ったけど、

神は応えてくださらなかった。

ガリレオは――、

その時にある種の悟りを得たんだ。

『貧しき者の前に甘い幻想は訪れない』ってね。

当時のイタリアにとっては、このような死は当たり前だった。

だけど、まだ幼さにしがみついていた彼には理解なんてできなかった。


こんな悲しみが繰り返されると、

夫婦の愛は亀裂と衝突が繰り返されるんだ。

どんなに愛する夫婦でも、互いをイヤになる時がある。

冷めきった関係の夫婦なら、

言わなくても分かるよね。

「せめて、祈りを込めて子どもらを送ってやりたい。」と何かあれば音楽家の腕前を見せたがるヴィンチェンツォは妻に提案した。

「リュートに私たちの想いを込めてさ。どうかな?」と彼は微笑んだ。

その表情をみて妻は金切り声をあげた。

「祈りより、パンの代金が先よ。

そうじゃなきゃ、私たちのどちらも天国行きだわ!」

家中に失意の色がぶちまけられた。

 

これによりガリレオは、男女間の……敬意の交わし方を知らぬまま生きる宿命を背負った。彼には、夫婦の愛し方の手本がなかったんだ。

敬愛の精神が欠けた。

ガリレオに……彼にとって妻ー女とは、

子どもを産み落とすだけの存在としか思わなくなった。

 

「あの人の稼ぎをあてにしないで。」と母が露骨な非難を始めた。

なんと、子どもたちの前でね。

食卓でも、寝床でも、顔を合わしてもさ。

その度に、父は顔を歪めていた。

それは美味しそうなクッキーの中に、アリが巣を作ってたようなものさ。

気づかずに食べた時、

口の中に広がる臭みと刺激で、顔は歪むんだ。

そして心も折られるんだ。

ガリレオが17歳の頃だ。

父ヴィンチェンツォは、ガリレオの両肩を強く掴んだ。

「金になる事をやれ! ガリレイ。

金にならないことは、全部クソだ。

音の研究?

バカらしい――!

金になる研究をしろ!

そうだーー医者になれ!

お前は医者になって、稼ぐんだ!」

父の目は血走ってた。

母の嫌がらせは毎日続くし、

また子どもたちからの視線も冷たくなったからだ。

若きガリレオは、静かにうなずいた。

父から掴まれた肩は痛くなかった。

父ヴィンチェンツォ自身が弱りきっていたんだ。

何もかもに。

何もかもにね。

 

こうして夢破れた父により、

第一幕は幕を閉じる。


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