再訪
三題噺もどき―ななひゃくごじゅういち。
歩を進めていくと、少し冷たい風が吹く。
頭上には美しい三日月が浮かんでおり、少し前まで糸のように細いものだったのに、気づけばあんなに肥えている。
たったひと月の間に満ちたり欠けたり、考えてみれば忙しないものだ。
「……」
所々に分厚い雲があり、星は見えたり見えなかったりする。
それでも昨日に比べれば天気のいい方だろう。
体調も元に戻ってきたし、いい散歩日和だ。
「……」
今日はまた公園にでも行ってみよう。
そうと決め、足を進めていた。
時折冷たい風が吹き、秋の訪れを実感する。
「……」
昼間はどうか知らないが、この時間は薄手の上着でも羽織っていないと、少々寒いくらいになってきた。まぁ、まだ薄手のもので事足りるから、そこまで寒くはないのかもしれないが。
しかし、秋の訪れを感じるのが、こう夜ばかりだと、あまり気づけないものだな。
昼間はきっとまだ暑いだろうし。
「……」
せめて、紅葉でもすれば視覚的に感じられそうなものだが。
このへんは、紅葉とか銀杏とかはないようだからなぁ。
まぁ、あの色々と植わっている家にはあるかもしれないが、どうだろう。これに関しては樹木だから、そう簡単に植えることもできないだろう。
「……」
あの公園にあるのは、桜の木だからなぁ。まぁ、紅葉はするが。
あぁでも、花壇があるから、そこにきっと季節の花がそのうち咲くだろう。
あそこの管理はどうやら慈善団体が行っているらしい。あまり詳しいことは知らないが。
「……」
そうこう考えているうちに、公園にたどり着いた。
桜の木の端の方は、少しずつ燃えている。
気付けばあっという間に枯れて居そうで少々惜しい。
「……、」
相変わらずというか、なんというか。
公園の入り口には当然のように、あの犬がいる。
元気でよろしいが、そろそろ満足しないモノだろうか。
「……」
その犬が足元に転がしておいたボールを拾いながら、公園の中に入っていく。
音もせずについてくるその犬を足元に感じながら、ブランコへと向かう。
相変わらず犬との相性が悪いらしいこの子は、何やら言っているがまぁ、とりあえず座らせてもらうとしよう。
「……、」
チャリ―という、ブランコのチェーンがこすれる音がする。
それと同時に。
足元にいた犬が、こちらではなく別の方向を向いているのに気づいた。
それも、警戒したような様子で。気づけば遊具たちがやけに静かだった。
「……?」
何かと思い、犬の見ている方を見る。
そこには、片方が浮いて、もう片方が沈んだままのシーソーがある。
―ここには似つかわしくない、薔薇の匂いが鼻をついた。
『……』
「……」
シーソーの浮いた方の、その先。
足元はついていないから、どうせ飛んでいるのだろう。
隠れもせずに、相変わらず時代錯誤な格好で、そこにソレはいた。
『やぁやぁ、元気にしてたかい?』
「……お前は暇なのか?」
思わずついたその言葉は、割と本心だったりする。
コレは、大抵何かを集めるのにご執心していることが常なので、こんなところに来る時間なんてないはずなのだ。この間の接触は、収集のついでだと思っていたのだが。
またこうしてわざわざ姿を見せる必要性が、ない。
『暇だなんて、僕はいつも忙しいさ』
―それよりも君は、ずいぶんと腑抜けたね。
「……」
それはそうだろう。
人間に紛れて生きているようなものだ。
他の吸血鬼が見たら、腑抜けたとでも思うだろうさ。
だから、勘違いした若い奴らが訳も分からないちょっかいを掛けてくるのだ。
―しかし、コレに言われると少々腹に据えかねるのはなんなのだろう。
「……彼らが怯えているから、さっさと消えろ」
『相変わらず、つれないねぇ』
唇を尖らせて、拗ねた子供のような仕草でそんな事を言う。
コレがやっても一ミリも可愛げもないな。
「……」
『今日のところはお暇するさ』
引き際が早いのか、逃げ足が速いのか、その両方なのか。
あっさりと、夜の闇に消えていく。
「……すまなかったね」
すっかり怯えてしまった彼らに申し訳なさを覚えつつ、気を取り直した犬を軽くなでる。
いつまでこの辺りに居座るつもりなのかも分からないし。
あまりここにも来れなくなるなぁ。
「ただいま」
「おかえ……また会ったんですか?」
「ん?……あぁ、来たよ」
「はぁ、何のつもりなんですかねぇ」
「アレの考えていることは分からん」
お題:紅葉・シーソー・薔薇