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27 秘密のドレス大作戦

「皆に集まってもらったのは、ほかでもない。ノーラのドレスを注文するのに、相談に乗ってもらいたかったのだ」

「は〜、やっとですね」


そう呟いたのは、ノーラの専属侍女であるエイダだ。


「ご結婚から数か月が経ちましたが、まだ一度も若奥様の服を(あつら)えていませんもの」

「そうねぇ。いくら若奥様が節約家でも、若旦那様から贈り物くらいはするべきですわ」

「あれがあったじゃない。ほら、中庭の苗木?」

「たしかに若奥様も喜んでいらしたけれど、それとこれとは話が別よ!」


他のメイド達も加わって、議論が始まってしまった。こうなるともうオスカーでも止められない! あーだこーだと女性陣の議論は続いた。


「あの、ちょっと、話が逸れてる……」

「ああ若旦那様、申し訳ございません。それで、ドレスでしたね?」


やっと話が元に戻った。ノーラに関しては、邸の主人としての威厳はゼロだ。オスカーのやらかしのせいで、いまだ本当の意味での夫婦になれていないことは使用人達にもバレている。特に女性使用人は皆、ノーラの味方についていた。

しかしながら、使用人達もこの若夫婦が上手く行くよう願っているので、喜んで協力したいと思っていた。


「ああ、いくつか彼女を伴って夜会に行かなければならない。だからドレスが必要だろうと思って」

「若奥様はご実家からの嫁入り道具として、いくつかドレスをお持ちになっておられます。おそらく、それを使うと言われるでしょう。なんせ節約家ですから」


エイダが答えると、メイド達も揃ってウンウンと頷いた。


「しかし、ドレスくらいは俺からも贈りたい……」

「では、王城での夜会用に一着だけ誂えませんか? 何着も誂えたら若奥様も遠慮されるでしょうが、一着だけなら受け取ってもらえると思うんです」

「なるほど、それは一理あるな」

「それと、人気の仕立て屋はお値段もお高うございます。それは若奥様が好まれないでしょう」

「じゃあ、どうすればいい?」


そこで手を挙げたのは、若いメイド達だ。


「最近、店を開いたばかりの若い仕立て屋がおります」

「経験は少ないですが、お値段もそこそこ。だけどデザインは最高に素敵です!」

「若い職人を応援するという意味でも、若奥様は喜ばれるんじゃないでしょうか」

「それだ! さっそく手配を頼まれてくれるか?」

「「「お任せください!」」」


若いメイド達は、若奥様のドレスが作れるとワクワクした顔をしている。



「坊っちゃんが女性に贈り物を考える日が来るなんて……」

「あんなに小さかった坊っちゃんが……」

「ついこの間までおねしょ――」

「おいっ、いつの話だ!」


ベテランメイド達の方はしみじみしていたが、昔話が始まったところでオスカーに止められてしまった。



◇◇◇◇


「ノーラ、ちょっといいか」

「はい旦那様、なんでしょうか?」


朝食の席で、オスカー様に話しかけられた。今朝も一緒に裏庭の水やりを済ませ、ちょうど席についたところだった。


「侯爵家として、いくつか夜会に招かれているんだ。もちろんすべてに出席するつもりはないが、付き合いで顔を出さないといけないものもある」

「そうなのですね」


侯爵家の社交は、王都にいるオスカー様に任されているとお義母様も言われていた。高位貴族ともなれば、招待状の数も半端なく多いんだろうな。


「その、結婚したから君にも一緒に行ってもらわなくてはならないんだ」

「はい、わかりました」

「いいのか?」

「ええ、私でよろしいのなら」


社交も貴族の仕事のひとつだもの、こんな地味子でもよければ妻役をやりましょう! 本当はもっと美しい女性を伴いたいでしょうけど、新婚で愛人同伴はさすがに外聞が悪い。


「ん? 君以外、誰がいると言うんだ?」


えっ、いないの? その顔なら愛人のひとりやふたり、三人や四人は……


「なにか変なことを考えていないか?」

「えっ、別になにも? ホホホ」


オスカー様の疑り深い目線が突き刺さる。だってねぇ、白い結婚宣言をするくらいだもの、愛人か好きな人がいるんだと思うじゃない。


「まあいい。君のドレスだが――」

「それならご心配なく! いくつか手持ちがございますので」

「ハァ……やっぱりそう言うか」

「えっ、なにか?」


私のドレスにお金を使わせるわけにはいかない。だってすでに持っているのに、もったいないじゃない!


「若奥様、あのドレスは嫁いで来られてから一度も袖を通していらっしゃいませんよね? あとで入るか試着してみましょう。ついでにお体の採寸もさせていただいて、お直しの必要があるか確認しますわ」

「そうね、そうしてもらおうかしら」


ここの料理人の料理は美味しくて、毎日残さず食べちゃってるもの。もしかしたら太っているかもしれないし。よかった、エイダに言われなかったら気付かなかったかも。


「エイダ、ありがとう」

「いいえ、侍女として当然ですわ」


私が抜けている分、できる侍女がいてくれてよかったわ〜。



◇◇◇◇


「お前の嫁、凄いな。あんな手で採寸までしてしまうなんて」

「当たり前でしょう。エイダは美人な上できる侍女ですから」

「お、おう」


スコットはヌケヌケと嫁自慢をした。相手が主人とはいえ、幼馴染だからこその発言だ。


「生地やデザインは、女性陣と仕立て屋に任せて大丈夫ですね?」

「ああ、そのほうがいいものができるだろう。男の俺では最近の流行などわからないから」

「なにかご希望は?」

「そうだな……どこかに、お、俺の色を入れてくれたら」


少し言いにくそうに希望を伝えたオスカーに、スコットはニヤリと笑った。


「なんだ、若旦那様にもそういうところがあったんだ」

「どういう意味だよ」

「若奥様が自分のものだと見せつけたいのかなぁって」

「ち、ちがっ」

「若奥様、かわいいですもんねぇ。着飾って夜会に行けば、ダンスのお誘いも……」

「俺と何曲も踊るから! 他の男と踊る暇などない!」

「わあ〜もう大好きじゃん」

「う、うるさい! 妻を好きで悪いか!」


スコットにからかわれてるのにも気付かず、オスカーは真っ赤になって妻を好きになったことを白状していた。


「なーんも悪くないです。それが幸せな夫婦ってもんです」

「そうだよな!」

「ただねぇ――」

「なにか問題があるのか!?」

「若奥様は、まだ若旦那様を男として好きになっていないと思います」

「うっ、やっぱり。距離を縮める努力はしているが、俺はもっと仲良くなりたい」

「最初でやっちまってるからなぁ……まあ、頑張れ」

「お前、冷たくないか?」

「まあ、なるようにしかならないのでね。頑張れ」

「わかってるよ。もっとふたりの時間を取れるようにする」


幼馴染から適当な応援をされながらも、オスカーははっきり妻への想いを自覚したのだった。


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