21 はじめてのお友達
『ノーラ・ラングフォード様
先日は、我が家のお茶会にお越しくださり、ありがとうございました。
その際に私の友人、レイチェルが失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。
あれには少しわけがあるのです。
レイチェルもあの後反省して、ノーラ様にどう謝ろうかと悩んでおります。
私はノーラ様ともっと仲良くなりたいし、レイチェルとも仲直りをしてほしいと思っています。
どうか、一度彼女の話を聞いてもらえませんか?
シェイラ・フィップス』
フィップス侯爵家のシェイラ様からの手紙には、真摯な思いが綴られていた。
あらまあ、私はもう気にしていなかったのだけれど、レイチェル様がそんなに気にされていただなんて。一度うちにお招きして、お話をしようかしら。
◇◇◇◇
あの手紙から数日後、フィップス侯爵家の家紋が付いた馬車が、ラングフォード侯爵家の玄関前に寄せられた。
「シェイラ様、レイチェル様、ようこそいらっしゃいました!」
「ノーラ様、お招きありがとうございます。レイチェル、ほら」
「あ、あの、先日は――」
「まあまあ、とりあえず中にお入りになって。お話はお茶を飲みながら、ね?」
先日の勢いとは打って変わって、レイチェル様はしゅんとされている。よっぽど反省されたのね。そんなに気にしなくていいのになぁ。
おふたりを応接室にお通しすると、すぐにお茶が準備された。
「どうぞ、召し上がってください。レモンのマーマレードを紅茶に入れても美味しいんですよ」
「まあ、本当だわ。レモンティーみたいだけれど、もっと味が濃いわ」
「……美味しい」
ふふっ。怒っていても、しゅんとされていても、ちゃんと『美味しい』って感想は言ってくれるのよね。レイチェル様、きっと素直な方なんだわ。
「あのっノーラ様、先日は初対面にもかかわらず、失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」
「大丈夫ですよ、気にしていませんわ」
「この子、昔からオスカー様に憧れていたから、あんな突っかかるようなことを言ってしまったんです」
「憧れかぁ……オスカー様が好きなら、結婚したいとか思わなかったのですか?」
「えぇっ!?」
あら、意外な反応。てっきりライバル視されているのかと思ったのに、違うのかしら。レイチェル様はびっくりされている。
「いえいえ、そんなんじゃないんです。どちらかというと、目の保養?」
「あぁ〜なるほど、推し活かな?」
「「オシカツ?」」
「ええ。憧れの人や好きなものを応援したり、見るだけで幸せな気分になったり。グッズ……はさすがにないか。その人のことを考えるだけで、日々の活力になりますよね。そういう活動を楽しむことを『推し活』と言います」
「ああ〜それです! 恋人になりたいとか結婚したいのとは違うんです。『推し活』ね、なんだかストンと腑に落ちたわ」
たしかに、オスカー様はイケメンだものね。アイドルみたいに推したい気持ちは、わからんでもない。
「推しのオスカー様には幸せになってもらいたくて。お嫁さんがどんな人なのか、探りをいれてしまったんです。本当にごめんなさい」
「こちらこそ、推しの妻がこんな地味子で……なんかごめんなさい」
しかもお飾りの妻だし、好かれていないし、オスカー様を幸せにするには程遠いわ……
「なにを仰っているんですか! ノーラ様は想像以上のお嫁さんでしたわ! かわいらしくて、領地の特産を活かせる才覚もおありで、しかも失礼なことを言った私を笑って許してくださるほど器が大きい! むしろ、ノーラ様を推したくなりましたわ」
んん? なんで今度は私が推されるのかな?
「ノーラ様、私とお友達になってください!」
「ええレイチェル様、私でよろしければ喜んで」
「ずるいわ! ノーラ様、私もお友達になりたいです」
「シェイラ様、私からもお願いしますわ」
実は私、同年代の貴族のお友達がいないの。ずーっと領地にいて、王都の学園にも通わなかったし。それというのも、前世では大卒社会人だったおかげで、家庭教師から『王都に行く必要がないくらいの成績です』って言われちゃったのよね。
私も田舎暮らしが気に入っていたから、あえて王都に出て行かなくてもいいかなと思ってしまったの。おかげで、同年代の貴族と知り合う機会がなかった。何度か行った夜会でも壁の花だったし。
「私、ずっと田舎にいたの……王都にはあまり知り合いがいないから、おふたりとお友達になれて嬉しいです」
「本当に!? わあ、じゃあ私がお友達第一号ね!」
「はいはい、じゃあ私が二号ね。レイチェルは極端すぎるのよ」
「う、そこは反省してる。でもノーラ様のことを知れば知るほど、好きになっちゃうわ」
「たしかに。もっと色々聞いてもいいかしら?」
「ええ、私もおふたりのことを知りたいわ」
おふたりは同級生の十九歳。私のひとつ年下ね。それにシェイラ様は、オスカー様の王城での同僚であるジェレミー・ハワード公爵子息と婚約しているんですって! 意外なところで繋がっていたわ。
「ノーラ様と仲良くなったと言ったら、きっとジェレミー様が羨ましがるわ。オスカー様の奥さんが面白そうだって、前に言っていたもの」
「んん? なんでハワード公爵子息が私のことなどご存知なのかしら?」
「オスカー様から聞いているみたいよ」
「オスカー様が? えぇ……」
そんなに話すことがあるかな? ただのお飾りの妻なのに。それとも、グチでも言っているのかしら。それならわかる。
「なにかノロケとかないんですか? 推し夫妻の話も聞きたいです」
「ん〜ない!」
「うふふ、もうノーラ様ったら本当に面白いんだから!」
本当にないんだけど、なぜかウケているわ。
◇◇◇◇
オスカーが王城の仕事から帰ると、奥から賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「やけに賑やかだな。母上、客でも来ているのですか?」
「ええ、ノーラちゃんにね」
「えっ、ノーラに? いったい誰ですか!」
「あら、心配なの?」
「い、いや、そんなわけじゃ……」
「ふふ〜ん、女の子よ。フィップス家のシェイラさんと、アスター家のレイチェルさん」
「なんだ、あのふたりか。なら俺も一緒に――」
「やめときなさ〜い。女の子同士のお茶会に乱入するなんて、空気が読めない男だと思われるわよ」
「ぐぬ」
「男がいたら、夫や婚約者の悪口も言いにくいじゃないの」
「俺の悪口を言われているのか!?」
「知らないけど」
「どっちだよ! よけいに気になるじゃないか!」
「まあまあ、せっかくノーラちゃんにお友達ができたんだから、ゆっくりさせてあげなさい」
「うぅ、わかった」
何を話しているのか気になりすぎて、無駄に部屋をウロウロするオスカーであった。




