エピローグ
水野陽葵:お兄ちゃんの彼女
〜如月ハルの物語〜
15年前のクリスマスイブから帰還した
私のせいで陽葵お姉ちゃんが死んだ
過去へと足を踏み入れたせいで死んだ
そしておそらく、お兄ちゃんも死ぬ
まだ涙は止まってくれない
タイムマシンはお兄ちゃんの部屋に忘れてきてしまった
タイムトラベルすると近い血縁の誰かの近くに出現するプロトタイプ
あの機械は、時間の強制力の干渉を受けない鉱物が使用されている
その鉱石の力を、使用者の生物に拡張することで24時間、時間の強制力を受け付けない仕組みになっている
ゆえに、あのタイムマシンだけは未来に戻ってこなかった
私が持っていれば、持って帰ることもできたのだろうが……いやむしろ、これも時間の強制力の影響かもしれない
いや定義と少しずれている。時間不変の法則?なにか新しい名前を考えないと…………。
閑話休題
状況証拠を考えれば、この後何が起こり、なぜ私が生きていたのか予想を立てることはできる
きっと、お兄ちゃんは私のために死ぬのだ
時間軸Bのお兄ちゃんが
少し真面目な報告が必要だ
あの日、私がタイムスリップした影響で未来(過去)が変わった
陽葵お姉ちゃんがクリスマスイブに死ぬという未来に
これが、今私がいる時間軸とは異なるパラレルワールドの発生である。
このパラレルワールドを時間軸Bとおき、現在私が生きている時間軸をAとする
時間軸Bでは陽葵お姉ちゃんは死んで、おそらく私も死ぬのだろう
もしかしたら陽葵お姉ちゃんの心臓が適合するかもしれないが、望みは薄い
そうなると時間軸Bのお兄ちゃんは生きる気力を失う
そこにタイムマシンがあればそれに縋らないわけがない
そしてタイムスリップした結果、生まれるのが今、私たちが生きている時間軸Aである
その時間軸Aでは時間軸Bの未来が反映されているから、私が未来からやってくることはない。多分。
そこで時間軸Bから時間軸Aへやってきたお兄ちゃんが死んだ場合、時間の強制力を受けない可能性が高い
時間の強制力は自然な状態に戻そうとする力であり、死者を蘇らせる力ではない
時間軸Bのお兄ちゃんの死は『元の時間軸で生活している状態が自然である』という時間の強制力の法則からあまりに逸脱している
結果、世界から生物ではなく物と認定された『お兄ちゃんの死体』はこの時間軸Aに残り続けた可能性が高いと推察される
このことから考えられる結論としては過去に戻って世界を変えたとしても、最低ひとつ、場合によっては複数のパラレルワールドが生まれるだけで、最終的には元の時間軸に帰着する
変えることができる未来は、新たに生まれたパラレルワールドの未来だけということになる。
以上の内容で本調査の結論とする
あの日の出来事を正確に知るものは、もう私しかいない
皆が私に隠していることを知りたくて渡航した、タイムスリップ実験の結果わかったことは、私の命はもう一人のお兄ちゃんによって生かされていたということである
そして、こちらの時間軸のお兄ちゃんは陽葵お姉ちゃんと幸せな家庭を築いた
最近お腹には第三子が宿ったらしい
ラブラブだ
おめでたい
さすがはおっぱい大好き星人である
ただ時々、妹の胸すらチラ見するのはどうかと思うぞ
そんなところも大好きだけどね
でも、陽葵お姉ちゃんは嫉妬の目を向けてくる
まったく、お姉ちゃんの方が大きでしょうに
私が知りたいと願った真実は知れた。
誰も嘘なんてついていなかった。隠し事なんて何もなかった。
そこには愛があった。
時間軸Bを生贄に時間軸Aがハッピーエンドになりました
めでたし