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運命の日

如月トウマ

如月ハル:未来からやってきた妹

水野陽葵:彼女

 その日、俺はいつも通り目を覚ました


 どうにも変な夢を見てしまったようだ

【未来の妹が空から現れる夢】


 妹が元気になってほしい気持ちはよくわかるが突拍子がないにも程がある

 左手に女性的な柔らかさと、生き物の寝息を感じる


 うん、どうやら俺はまだ寝ぼけているらしい




 さて、気を取り直して、今日は入念に準備を重ねたデートの日だ

 ハル(いもうと)の監視というイレギュラーはあるが、それ以外は完璧だ

 俺はウキウキで駅へとへと向かった




 午前10時、待ち合わせの時間目指して駅のエスカレーターを登る


 近未来的な内装とクリスマスの飾り付けが、いつもの景色を新鮮なものにしている

 白と金のリース、ガラスに映るキラキラのツリー。

 どこもかしこも恋人仕様だ。


 待ち合わせ場所の真っ赤なパイプの下に陽葵(かのじょ)がいた

 真っ白のチェスターコートを身に纏い、フワッとした水色のマフラーに包まれている




「……寒い」

「ごめん、待たせた?」

「ちょっとだけ。でも、あんたなら10分まではセーフにしてあげる」

 開口一番ツン全開である

 なんて可愛いんだろうか



陽葵(ひまり)、今日なんか……かわいいね。いつも可愛いけど、今日は特に…。」

「……っば、バカ。調子乗ってると蹴るよ?」


 ツンツンしながらも、口元はちょっと緩んでいるのを、俺は見逃さなかった。

 お互い浮かれているらしい


「寒い。暖めて……。」

 陽葵が俺に向かって手を伸ばす。

 俺は何も言わずそっと手を重ねた。陽葵の手はとても暖かかった。




 少し歩くと目的の遊園地に到着した


 単券を購入し、すぐにアトラクションへと向かう

 冬だからかジェットコースターは意外と空いている


「きゃああああああっ!!!」


 風を切って走るレールの上で、陽葵の悲鳴が響いた。




「意外と叫ぶんだね」

「は!?こわかったんだから仕方ないでしょ!?だから手、離すなって言ったじゃん!」

「ちゃんと握ってたよ。すっごく、ぎゅって」


 顔を真っ赤にして、ぷいっと顔を背ける陽葵(ひまり)

 足早に次のアトラクションへと向かおうとする陽葵の手を、俺は言われた通り離さなかった




 お昼時、フードコートへと向かう

 クリスマスイブの遊園地、すごく混雑していたが、幸いすぐに席が見つかった。


「なんか、今日ちょっとだけ……あんた優しいね」

「クリスマスイブだし。()()()()の100%彼氏モードだから」

「……っもう、ほんとバカ。調子に乗ってるとチューするよ」

「えっ? それって罰ゲーム……?」

「ち、ちがっ……っ、そ、そういう意味じゃないし!!」



 慌てて顔を伏せる陽葵(ひまり)。そんな状態でも器用にクレープを食べている


 いや、案外そうでもない。ほっぺにクリームがついていた

 俺はそっと人差し指でクリームを掬い取り―――口へ運んだ。


 陽葵が驚いた顔をしている

「間接キスだね」

「……っ!……ほんと、バカ」


 消え入りそうなか細い声でツンツンしながらまた顔を伏せてしまった




 夕暮れ時、メリーゴーラウンドで、陽葵(ひまり)が子どもみたいに笑っている

「トウマも一緒に乗ろうよ!!」


 もうツンデレどころか、完全にデレしかない。

 名前の呼び方も『あんた』から『トウマ』に変わっている。


 しかも手だけは絶対に離す気はないらしい




「ありがと……トウマと一緒に遊ぶの、こんなに楽しいなんて知らなかった」


 デートプランは完璧だったらしい

 入念に準備した甲斐があったというものだ


「俺も。陽葵のこういう笑顔、もっと見たかった」

「……じゃあ、いっぱい見せてあげる……。今日だけは、特別だから」


 一通り遊び終えた時、陽葵が体を寄せる。

 俺は自然に、彼女の肩を抱いていた。




 日は沈み、閉館時間も迫る中、ライトアップされた観覧車に乗る


 野次馬の目が届かない二人だけの空間。

 ゆっくりと昇るゴンドラ。 


 外から見た観覧車も綺麗だったが、中から見る夜景は筆舌に尽くし難く……




 街が、海が、観覧車がクリスマスに染まっていく。

 二人の気分がクリスマスに染まっていく。



「ねぇ、トウマ」

「うん?」

「……今日ね、ほんとは……ちょっとだけ期待してたの」

「なにを?」

「……その。今日、あんたがチューしてくれないかなって。カンセツじゃなくて。」

「……言ったな?」

「……うん。」



 彼女の視線は、もう夜景じゃなく、俺の目を見ていた。

 それは、いつものツンツンした瞳じゃない。

 まっすぐで、少し震えて、そしてちゃんと『好き』と言っていた。


 俺はそっと彼女の頬に触れて、ゆっくりと顔を近づけた。

 陽葵(ひまり)は目を閉じて、唇がそっと、触れ合った。

 それはほんの数秒。でも、ふたりにとっては、一生ものの時間だった。


 彼女は夜景よりも、はるかに綺麗だった。




 観覧車を降りて、汽車道を歩く。

 手をつないで、肩を寄せて。陽葵はもう、ツンツンしていなかった。


「……ねぇ、トウマ」

「うん?」

「今日みたいなデート、またしたい」

「またすぐしよう。明日でも、来週でも。何回でも、何万回でも。付き合ってるんだからさ」

「……うん。たのしみ」



 陽葵は歩きながら俺の腕にそっと顔を預けて――

 ささやくように、つぶやいた。

「……チュー、またしてもいいよ? ……大好きだから。」



 気づいたら大きな交差点の信号機の前にいた

 ちょうど信号機の色が変わっている


 左手にはロープウェイ、右手にはランドマークのタワーが見える

 そして真っ正面に居眠り運転の大型トラックがいた



 ーー幸せすぎて忘れていた

 俺の命が一度消える時だ

 幸せな夢から一度目覚める時間だ


 彼女の逃げる姿が見えて安心する

 俺はゆっくりと目を閉じる

 大丈夫、この夢の続きは必ず観れるのだから



 突然、誰かに背中を押された


 ――!?


 足元がぐらついたその瞬間、世界がゆっくりと歪む。

 向かいから、大型トラックが突っ込んでくる。

 ブレーキ音が悲鳴のように響いた。


 でも・・・・俺にぶつかることはなかった。

 代わりに、彼女(ひまり)がそこに立っていた。


「……なんで……」


 俺の目の前で、彼女が微笑んでいた。

 まるで、これでよかったとでも言うように。



 次の瞬間、鉄と鉄がぶつかる音が、夜を引き裂いた

 彼女の小さな身体が宙に舞い、何かが大切なものが砕ける音がした



 世界が音を失った。

 世界が色を失った。

 俺が世界を失った。



 トラックが止まり、街の喧騒が戻っても、彼女はもう動かない。

 俺の手元には、彼女の紫色に染まるマフラーだけが残っていた。


 遠くで流れるクリスマスソングが、まるで別の世界の音に聞こえる。


 さっきまで見ていた夢は、もう二度と観ることは叶わない



ちょっと長くなってしまった

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