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古書店「怪奇庫」の奇怪な日常  作者: 暇崎ルア
第2章 ウイジャボードの狂宴

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非日常への移行は、合図の言葉を必要とする

第21話更新です。

降霊会のはじまり、はじまり。

 今ここで一番聞きたくない名前であった。

「これでもかつては陸軍にいましてね。私より少し下の部下の一人に貴方のお父様がいたんですよ。一等兵からあれよあれよと言う間に出世して、最終的には中将まで上り詰められたとか。私が引退するまでに何度か話をしたことがありますが、『息子にも同じ道を進ませたい』と息巻いておられたのをよく覚えています」

「……そうだったんですね。父は本当に高名な軍人だったんだ」

 そう答えるのがやっとだった。

「どうやら、この話題はしない方が貴方にとっては良かったようですね」

 大変失礼致しましたと頭を下げられ、慌てる。知らず知らずのうちに、葛藤が西宮の顔に出ていたのだろう。

「そんな、お顔を上げてください」

「とにかくこの話はこれ以上なしにしましょう」

 二人の間に気まずい一瞬が走ったときであった。

「兄さま! 細川様!」

 佳代の甲高い声が、西宮の意識につき刺さる。

「そろそろ始まるようですわ」

 彼女の言う通り、ウイジャボードの周りに集まった参加者たちが静かにこちらの様子を伺っていた。

 謝罪を口にしながら、二人はそれぞれ空いている場所に移動する。

 部屋の最奥部の窓辺を背後に立っている麗子は、全員集まったことを確認するとおもむろに口を開いた。

「これから降霊会を始めることに致します。まずは、テーブルを囲むように……って、もう集まっていますわね」

 くすりと噴き出した麗子につられ、参加者たちも笑う。

 麗子からテーブルを時計回りに細川、薫子、誠治、すみれ、房江、康久、佳代、西宮、宮子と続いている。

「まことに勝手ながら、ミスタア・アミュレットにお話を聞く順番は私から細川様、続いて薫子様という順番にさせていただきます。よろしいでしょうか?」

 誰からも異論は出なかった。また、最初は緊張していたようだった麗子も、慣れたのか凛とした声に変わっていた。

「私たちの運命を教えてくださるミスタア・アミュレット様を今から呼び出しますが、その前に一つ二つ注意点がございます」

 よくお聞きください。

 忠告するような一言に、ごくりと喉を鳴らす音がいくつか聞こえた。

「一つ。ミスタア・アミュレット様をお迎えしている間は、何があろうとも指示器から絶対に手を離してはいけません」

「……手を離したらどうなりますの?」

 そう漏らした薫子の顔には明らかな怯えがあった。薫子の問いに、麗子がすぐさま鋭い視線を向ける。

「簡単に言えば、良くないことがございます。ミスタア・アミュレット様が手を離した者に憑りついたり、恐ろしい祟りがあるとか……」

 そこで麗子はふふふ、と意味深に笑った。薫子やすみれが、薄青い顔色となって下を向く。

 西宮も右隣の妹の顔色をちらりと見たが、無表情で硬直しているのが見てとれた。

「でも、本当にそんなことあるんですかねえ」

 明るい声で異を唱えたのは、有馬誠治だ。

「僕には、本当にその守護霊様がいるのか疑い深いものだ」

「ちょっと、誠治さん。今更何を言い出すのよ」

 隣の薫子が苦々し気に誠治を小突く。

「言っただろ? 僕は君が行くというから一緒に来ただけさ。何も占いとかいうのを信じているわけじゃあない」

 にやにやと笑う誠治は、ふっと鼻で笑って自分の主張を締めくくった。

 ——気持ちはわかるけど。

「ミスタア・アミュレット」なるものが本当に存在するのか疑わしいことには西宮も同意だ。だが、何もこの場で言う必要はないように思う。

「有馬様。お言葉を返すようですが、そういった発言も謹んで頂きたいですわ」

 有馬の方を鋭く見据えながら、麗子がひんやりとした声で告げる。

「注意点、二つ。ミスタア・アミュレット様を軽んじるような発言をなさってはならない」

「それを破ったら、憑りつかれてしまうってわけですか」

「その通りでございます。ご自身の身に災いが降りかかっても構わないとおっしゃいますなら、どうぞ私の忠告は無視なさってください」

 有馬は今度も笑い飛ばすかと思われたが、肩をすくめただけであった。

「……いえいえ、そこまで言われては無視などできませんよ。とんだ戯言でしたね。失礼しました」

 謝罪を口にしながらも、有馬の口元には歪んだ笑みが残っていた。西宮の真向かいに立つ、気障な青年はとことんまで底意地が悪いらしい。

「私からは以上となります。それでは皆さま、ボード上の指示器にお手を……」

「ちょ、ちょっとお待ちください」

 麗子の言葉を遮って声を上げたのは、佳代の隣の森青年であった。

「そのう、上着を脱ぐお時間をいただいてもいいでしょうか? お話を聞いていたら、暑くなってしまいまして」

 その言葉は嘘ではないようで、森の顔はほてったように真赤だった。

「え、ええ。構いませんが」

 きょとんとした麗子がうなずくなり、森はいそいそと上着を脱ぎ始めた。

「確かにこの部屋、少し暑いかしら」

 森を皮切りに、薫子や房江たちも着ていた上着を脱ぎ始める。

「窓をお開けしますわね」

 様子を見ていた宮子が気を利かせ、姉の背後の外開きの窓を開け放つ。

「あら、すみれさん。そのネックレス素敵じゃない」

 脱いだカーディガンを畳んでいた房江が、すみれに声をかける。

 ボレロを脱いだすみれの首元には、小さいながらも高貴な紫色を放つアメジストらしきネックレスが照明の光を受けて輝いていた。

「……ああ、これ。ありがとうございます」

「いただきもの?」

「そうです」

 あまり話したくないのか、すみれはそっと目を伏せた。

「皆さま、ご支度はよろしいでしょうか?」

 そう言った麗子の声には、「これ以上邪魔が入らないでほしい」という焦燥感といら立ちが混ざっていた。

「ごめんなさい、邪魔をしてしまって。始めましょう」

「ありがとう、房江さん。……改めまして、ウイジャボードの指示器にお手を」

 気を取り直した麗子が、皆に告げる。

 テーブル中央の奇妙な形をした指示器に、十人分の片手が伸びた。

「ミスタア・アミュレット様をお呼びする言葉はこうです、よくお聞きください」

 調子を整えるように、麗子が息を継ぐ。

 

「Please coming for us, Mr.Amulet.」


 さすがは帰国子女というべきなのだろう。麗子の口からは、西洋人顔負けの流暢な英語が流れ出た。

 あまり自信はなかったが、西宮の耳には「プリーズカミンフォーアズ、ミスタアアミュレッ」と聞こえた。意味はおそらく「ミスタア・アミュレット、私たちのところに来てください」だろう。

「参加者の皆様。今の言葉を全員合わせて、指示器が動きだすまで続けてくださいね。よろしいですか?」

 麗子以外の全員がこくりと頷いた。

「いちにのさん、でいきましょう。いち、に、の」

「さん」の後、部屋中はミスタア・アミュレットを呼ぶ英語のコーラスで埋め尽くされた。

 ひたすら同じ言葉だけが聞こえ続ける中、西宮はぐわんと部屋が歪んでいくように感じられた。現実ではないどこか異界に移行しているように。

 皆の声に聴き飽き始めたそのときだった。

 カタカタと指示器が動き始めた。

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