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古書店「怪奇庫」の奇怪な日常  作者: 暇崎ルア
第2章 ウイジャボードの狂宴
18/67

売られた喧嘩は賢く買うべし

第18話更新です。

少女二人のバチバチ回です。

「お会いできてうれしいわ~」

応接室入口向かって奥にあったベランダから、三人の男女が部屋へと入ってくる。

 三人組の中央、真赤なワンピースに「紅」と言う言葉がふさわしいほどの真赤な口紅をつけた「赤の化身」のよう少女とその隣、白いブラウスに紫のスカートとボレロを身に着けた少女が上品に手を振っていた。

「あら、お二人ともごきげんよう。——同じ学校の同級生よ。赤い人が松本薫子さんで、紫の方が大浦すみれさん」

 挨拶以降は佳代がこそっと西宮に耳打ちしたものだ。

「二人とも、大人びてるなあ」

「お化粧が上手なのよね」

 大人びた顔だちをした薫子とすみれは、濃い化粧も相まってとても佳代や宮子と同年代とは思えなかった。

「もしかして、そちらの方って薫子さんの……?」

 佳代の視線の先、薫子の左隣には、ストライプジャケットを着た青年が立っている。髪をオールバックに固めた、気障な印象の青年だ。

「そう、お付き合いしている有馬誠治さんよ」

「よろしくお願いします」

 有馬は前髪に手を当てながら、気障っぽいお辞儀をする。

「誠治さん、占いがお好きなの。だから、今日の会のことを教えたら『僕も一緒に行きたい』とついてきてくださったの。そうよね?」

「違うよ。僕は、君がいるからついてきたんだよ」

「まあ、誠治さんったら!」

 はにかむように笑った薫子が、じゃれつくように誠治の腕を叩く。そして、きゃぴきゃぴと笑い始めた。

「佳代さんのお隣の方はお兄さま?」

 いちゃついている薫子たちの隣で、すみれが西宮に視線を向ける。

「あ、はい。西宮龍之介といいます」

「やっぱり、そうですのね! とても似ていらっしゃるもの」

 うふふ、と笑うすみれ。

「そんなこと初めて言われたわ。……ねえ、兄さま?」

「ああ、うん」

 同意を求めてきた佳代の顔が嫌そうだったのは、西宮の気のせいだろう。

「お二人ともそっくりですわ。素朴なお顔とか、特に」

 そう告げるすみれの視線は、値踏みをするようなじっとりとしたものであった。

 ——何だか、感じが悪いな。

 心の中で顔をしかめる西宮。

「ねえ、ところで佳代さん。今日のお洋服とっても素敵ね」

 すみれの興味は兄妹の顔だちから、佳代の服装に変わったようだ。

「本当? ありがとう!」

「どこでお買いになったの?」

「銀座の三越よ。お気に召したなら、売り場とか詳しく教えるわ」

「あら、ごめんなさい、そういうことをお聞きしたかったわけじゃないの。私のおばあ様が若い頃来ていた服にそっくりだったものだから、年代もののお洋服じゃないかしらと思ったのよ」

 眼張りを入れられた、すみれのまつ毛が意地悪そうに細められた。気がつけば横でいちゃついていた薫子と誠治も、佳代の方を見ながらにやにや笑っている。

 要は「佳代の服が時代遅れだ」と馬鹿にしたいのだろう。

「……そう」

 その途端、佳代から殺気のようなものが放たれ、隣にいた西宮の腕全体に鳥肌が立つ。

 ——まずい。

 西宮の額を嫌な汗が伝う。

 妹は気が強い。馬鹿にされたことが悔しくて、強く言い返すのではないか?

「佳代、お手柔らかに……」と西宮が言いかけたとき、佳代はすみれたちに向かって爽やかな笑顔を見せた。

「このお洋服、私には似合っているのは間違いではないわよね?」

「え? そ、そうだけど」

 佳代の反応が予想外だったのか、目を丸くするすみれ。

「私ね、自分に一番似合うお洋服に出会えることはなかなかないと思っているのよ。だから、あなたからそういうご感想を聞けて嬉しかったわ。ありがとう!」

 隣でにっこりと微笑んだ佳代の笑顔が、西宮にはまぶしかった。

「そ、そう。なら良かったわ」

 苦笑するすみれだったが、嫌みが通用しなかったことが悔しかったのか、目は一切笑っていなかった。あれだけにやにやしていた薫子と誠治も気まずそうにあらぬ方向を向いている。

 白熱灯の柔らかな光が包む応接室にひんやりとした空気が流れていたその時、ドアが二回ノックされた。

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