表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古書店「怪奇庫」の奇怪な日常  作者: 暇崎ルア
第2章 ウイジャボードの狂宴
17/67

大きさに関係なく他人の家は別世界である

 佳代が西宮のアパートに来てから翌日の日曜日。その日こそが、佳代お目当ての「降霊会」が友人の家で行われる日であった。

「……うわあ、このあたりで事件があったってさ」

 電車に揺られながら読んでいたその日の朝刊の二面には、伯爵議員が集う政党・扶清会御用達の占い師が、赤坂にて何者かに刺殺された事件が載っていた。

「この近くだよ、怖いなあ」

 奇しくも彼らが目指していたのも赤坂であった。「犯人は未だ捕まっていない」という記事の続きを読んで一抹の不安がよぎる。

「そうね、犯人が早く捕まるといいのだけど」

 そう言いつつも、佳代の口調は関心が感じられないものであった。所詮紙上で書かれる事件など、無関係の者には他人事かもしれない。

「駅から十分ぐらい歩くんだっけ?」

 電車を降り、改札の階段を上った先で西宮が尋ねると、余所行き用のシンプルなレモンイエロウのツーピースに身を包んだ佳代が振り返る。

「そう。でも、前もその子の家に遊びに行ったことがあるの。迷わず行けるわ」

「安心して」と言いたげな顔で、ウインクしてみせる佳代。そのまま佳代に歩かされたのは、閑静な高級住宅街である。

「随分と良いところに住んでるんだな、佳代の友達」

「そうよ。三条家だもの」

「へえ、さんじょ……。三条家!? 三条家ってあの!?」

「そうよ、あの三条家よ」

 ——すごい一家じゃないか!?

 平安時代、四代の天皇に仕えた藤原不比等が興し、その家系の者は代々公家を務めてきた由緒正しき名家がある。その由緒正しき一族の名が「三条」であることは知っていたが、まさか妹の同級生に末裔がいるとは。

「元々は京都にお住まいだったそうなんだけど、曽お祖父様が赤坂に別荘を建てたんですって。今はご家族全員そこに住んでらっしゃるそうよ」

 一張羅のスーツを着てきて正解だった、と胸をなでおろす西宮。

「着いたわ。あのお屋敷よ」

 佳代は二メートルはありそうな門扉の前で立ち止まった。

 門扉の先、天まで届くのではないかというぐらい大きな屋敷がそびえ立っている。屋根裏部屋があるのだろうか。屋根には、これまた小さな屋根がついた窓「ドーマー窓」がついている。

「アールヌーボー様式というおうちなんですって。お洒落よねえ」

 隣で佳代がうっとりとつぶやくのが、遠く感じられた。

「……ここ、本当に人が住んで良い家なのか?」

 正直な感想が口をついて出る。

「本当にそうよね。童話のお城みたいだわ……」

 うっとりとつぶやく佳代。

 ——これだけ大きいと掃除とか、大変なんじゃないか?

 西宮がいらぬ心配をしたとき、佳代ちゃーん! と妹の名を呼ぶ明るい声が、前方から飛んできた。

たったっと弾む足音とともに駆けてきたのは、佳代と同年代の少女だった。

「宮子ちゃん!」

 友人の姿を認めた佳代が、嬉しそうに手をぶんぶんと振り返す。

「佳代ちゃん、来てくれて本当に嬉しいわ。……ご一緒されているのは、お兄さまですわね?」

 宮子の、長いまつげに包まれたぱっちりとした瞳が、龍之介の方を向く。

「そうよ。うちの困った龍お兄さま」

「困ったは余計だろ! ……えーと、お初にお目にかかります、西宮龍之介です。妹がいつもお世話になっています」

「龍之介さんですね、佳代ちゃんからお話は聞いています。三条宮子と言います。こちらこそいつも佳代ちゃんにはいつも仲良くしていただいて、嬉しく思っています」

 宮子は品よく微笑み、頭を下げた。

 学生時代、同じ学年にいたら好きになってしまったかもしれない、と心でつぶやく西宮であった。

 門扉を開けながら、宮子と呼ばれた少女はにっこりと笑った。

「ごめんなさい。早く来すぎてしまって」

 屋敷の玄関まで続く石畳の上、西宮を後ろにする形で、同学年の二人の少女は楽しそうに話をしながら歩みを進めていた。

「大丈夫よ。私の方こそ佳代ちゃんに来てもらえるのが嬉しくて、うずうずしていたの」

「今日は私たち以外にもいらっしゃるんでしょう?」

「ええ。隣のクラスのお友達とか、お姉さまのお友達もいらっしゃるわ」

「それは楽しみねえ」


 三条邸内部は、外観以上に別世界のものであった。

「……すごいなあ」

 西宮の口からは、感嘆の言葉しか出てこなくなっていた。

 玄関を抜けた先には、ダンスホールとして舞踏会でもできそうなぐらいの広間であった。天井も見上げた首が痛くなりそうなほど高い。

「私もお二人に付き添っていたいんですけれど、姉のお手伝いをしなくてはなりませんの」

「応接室でお待ちくださいね」とお辞儀をした宮子は、女中に案内をするよう頼んでから二階へと上がっていった。

 それからすぐに、二人分の紅茶が用意されたテーブルとソファに案内される。

「至れり尽くせりだなあ」

 西宮は一階応接室を見回す。ソファや椅子もねこ足の格調高いものであった。

 二人が香り高いアールグレイを一口味わい始めたときである。

「あら、西宮さんじゃないの!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ