拝啓、あたしの王子さま
拝啓、あたしの王子さま。
この手紙を読んでる頃には、あたしはもういないかな?柄にもなく、手紙なんかを書いています。
さて、突然のことで驚いているだろうけど、あたしはこの国から出ていきます。
あ、勘違いしないでね?別にこないだの喧嘩のことで嫌いになったとかじゃないよ?今も好きだよ。
ただ、あたしが居たってあんたの邪魔にしかならないと思ったから。王子さまの恋人が、ちょっと可愛いだけの、口の悪い平民だなんて、足枷にしかならないでしょ?
でも、あんたは真剣に結婚なんかまで考えてくれちゃって、自分の身分がバレても別れてはくれなかった。あたしは、幸せそうに笑うあんたのお荷物なんかになりたくない。だから、ちょっと冷静になってもらうために、離れるの。
ねぇ、覚えてる?あたし達が始めて会った時の事。あの時は、あんたが王子さまだなんて思いもしなかった。うちの食堂なんかでは見ないくらい綺麗な顔してたし、没落したお貴族さまかな、くらいにしか最初は思ってなかった。
けどなんだろうね、たまに来るあんたとの会話が楽しくてたまらなかった。あたしがどんな話をしたって、いつも楽しそうに聞いてくれる。面白い話をしてくれる。街の中だけで生きてきたあたしにとっては、聞く事全部が新鮮で、次はいつくるかな、なんてウキウキしてた。
そのうち、なんとなくお互いが向ける感情に気付いて、一緒に行った花祭りで告白しようと思ってたら先にされて。あの時は嬉しかった。恋愛なんてくだらないとか言ってた、昔のあたしを叩きたい。そう思うくらいには、あんたが好きだったんだよ。
その後は、デートに行ったり、店の裏でおしゃべりしたり、父さんにバレないようにキスなんかして、初めての恋を楽しんでた。大好きな恋人と過ごせる日々が、これからも続くんだと、信じてた。本当は、あんたが平民じゃないのは薄々気づいてたけど、見ないふりをしてた。
プロポーズされた日、あたしは速攻で返事をしたね。あんたに抱きついて、「もちろん!」ってさ。間違いなく、人生の中で一番幸せな瞬間だった。
でもさ、その後誰かに襲われて、出てきた騎士さまに守られるように囲まれた。正確には、あんたを守るために、だけど。強かったねぇ。バッタンバッタン男達が倒れて、最後まで倒したらみんなして跪くんだ。「王太子殿下、ご無事ですか」って。血の気が引いたよ。本当だと思わないじゃないか。まさか自分の恋人が、雲の上の人だったなんて。
また次に会いにきた時に、全部説明してくれた時にあたしは「別れよう」って言った。いくらなんでも、身分が違いすぎるから。
そしたらさ、いつも優しかったあんたが、初めて強引に腕を掴んできて「絶対いやだ。僕と結婚しよう。アン」なんて言うんだ。嬉しかった。力を込められた右腕が痛くて、あんたの気持ちが伝わってきて……でも、受け入れられなかった。ここで結ばれても、誰も幸せになれない。あたしだってそんくらいの分別はあった。でも、頭のいいはずのあんたは、頑なだったねぇ。その後はまぁ大喧嘩。そういえば、喧嘩なんてあれが初めてだったね。
言ってなかったけど、一回だけお貴族さまがきたんだ。王様の使いだって。案の定、別れろって言われてさぁ。あたし敬語なんて使えないから、返事に困ってたら、今度は金貨の袋を出してきて、「今殿下には、隣国の王女との縁談が上がっている…これを持って、姿を消してくれ」だとさ。
その言葉に、なんかカッときて、「金で釣れると思ってんの?金貨は結構。あたしは、自分の意思でここから離れる」って言ってやった。お貴族さまに失礼だとか、そんな事は考えてなかった。
そしたら、お貴族さまは面白そうに笑って、身分証と当分の生活に困らないくらいの援助はさせてくれ、って。断ったけど、押し切られて、それはありがたく受け取ることにした。
最後にあった時、さっさと仲直りして、いつもみたいに穏やかに過ごせた。相変わらず、「結婚しよう」って言うけど、それよりも今の時間の方が大切そうだった。
いつもみたいに、バイバイって言って帰ろうとしたら、あんたはあたしを引き止めて、不安そうに「どこかに行かないよね?」なんて言うから、正直ヒヤッとしたよ。バレたのかって。なんとか取り繕って、最後にキスをして、別れた。……あの日のことは一生忘れないと思う。
じゃあ最後に。あたしと恋人だったことなんてさっさと忘れて、王女さまと仲良くしてね。たまーに、何年かに一回、そういえばいい女がいたなぁくらいに、思い出してくれればいいから。
なにも今生の別れじゃないからね。今のあんたは、ちょっと冷静じゃない。王女さまではなく、ただの平民のあたしを選ぼうとするくらいには。いつも人のために動くあんたらしくない。
あたしに身分があったらねぇ、なんて思っても、ないものはしょうがないよ。
そうだ。また、恋をしていたなんて忘れた、じいさんばあさんになったくらいにいつもの所で会おう。約束ね。
じゃあ、またね、大好きだよ。
あんたの永遠の友人アンより