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砂漠の眠り  作者: 鹿野
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第2章:砂嵐の兆し

 翌朝、砂漠の冷気がやや和らぎ、カイとナディアは旅を再開した。太陽が昇り始め、広大な砂の海が金色に輝いていたが、空気には不穏な兆しが漂っていた。遠くの地平線には、黒い影のようなものが見え、砂嵐が近づいているのを示していた。

「砂嵐が来る。早めに進まないと、巻き込まれるわ。」ナディアは眉をひそめ、遠くの空を見つめていた。彼女の言葉には緊張が含まれていた。砂嵐に遭遇すれば、命を落とす危険もある。しかし、彼らに選択肢はなかった。遺跡はさらに先にあり、時間は限られていた。

 カイは唇を噛みしめながら、荷物を背負い直した。「急ごう。このままでは追いつかれる。」

 二人は砂漠の丘を越え、ひたすら南へ向かって歩みを進めた。風が少しずつ強まり、砂粒が顔に当たるたびに痛みを感じる。ナディアは頑丈な布で顔を覆い、慎重に足元を確かめながら進んでいた。カイも同様に顔を覆い、視界が悪くなる中、足を踏みしめて前進した。

 数時間が経過し、太陽は高く昇ったが、黒い影はますます近づいていた。空が不自然に暗くなり、風の音が不気味な低音を響かせている。カイは焦りを感じ始めた。彼は一瞬立ち止まり、ナディアを振り返った。

「このままだと間に合わないかもしれない。隠れる場所を探すか?」カイは声を張り上げたが、風の音にかき消される。

 ナディアは一度周囲を見渡し、険しい顔で首を振った。「そんな場所はないわ。遺跡まで行かなければ、砂嵐に耐える場所はどこにもない。」

 カイは歯を食いしばり、前方を見据えた。遠くに、わずかながら石造りの何かが見える。それが目的の遺跡であることを確信し、彼は勢いよく歩を進めた。風はますます強くなり、砂嵐が背後から迫っているのが肌で感じられる。

「もう少しだ!」カイは声を張り上げ、ナディアに叫んだ。彼女も彼の声を聞き取ったのか、小さく頷くと、さらに早歩きで進んだ。二人は、砂の嵐が襲い来る寸前で遺跡の入口にたどり着いた。

 遺跡はかつての壮麗さを失い、崩れかけた石壁がいくつも露出していた。入り口は狭く、砂に埋もれかけているが、それでも二人を守るには十分な大きさだ。カイはナディアを先に行かせ、彼もすぐにその後に続いた。砂嵐はすぐ後ろにまで迫っていた。

 二人が遺跡の中に滑り込むと、外の風が猛然と唸り声を上げ、砂嵐が遺跡を覆い尽くした。カイは息を整えながら、ナディアに目を向けた。

「助かった…か?」カイは荒い呼吸の合間に問いかけた。

「少しの間は安全よ。でも、この嵐が通り過ぎるまでは、しばらくここで待機するしかないわ。」ナディアは額の汗を拭いながら答えた。

 カイは遺跡の暗い内部を見回した。古びた石壁に刻まれた奇妙な紋様が、微かな光に照らされて浮かび上がっている。ここが彼らが探し求めてきた場所であることは明らかだった。だが、何かが違う。遺跡に足を踏み入れた瞬間、カイは漠然とした違和感を感じていた。

「この遺跡…何かが変だ。」カイは小声で呟いた。ナディアもその言葉に頷き、周囲を慎重に観察し始めた。

 彼らはまだ知らなかった。この遺跡が単なる古代の遺物ではなく、さらなる試練と謎を隠していることを。



 カイは、遺跡の中に漂う冷たい空気を感じながら、慎重に足を進めた。風が遮られたはずの遺跡内で、なぜか風の音が微かに響いている。まるで、誰かの囁き声が遠くから聞こえてくるかのようだった。

「何か聞こえないか?」カイは、足を止めてナディアに問いかけた。

 ナディアは耳をすませたが、しばらくして首を振った。「何も聞こえない。気のせいじゃない?」

 カイは納得できないような表情を浮かべながらも、深く息を吸い込み、再び歩き出した。暗い石造りの通路はまるで迷路のようで、どこへ向かっているのか全くわからなかった。しかし、奥へ進むたびに、その冷たい囁き声が少しずつはっきりと耳に届くようになってきた。

「やはり、何かがここにいる。」カイは確信を持って言った。ナディアもその様子に気づき、彼の横に立ったまま、慎重に周囲を見回していた。

「気をつけて。この遺跡には、何か古い力が眠っているのかもしれないわ。」ナディアは、手を伸ばして壁を軽く撫でた。その表面には、古代文字が刻まれており、カイも一瞥して意味を理解しようとしたが、その言葉は理解できなかった。

「これ、読めるか?」カイが尋ねると、ナディアは軽く首を横に振った。「古い時代の言葉ね。現代ではほとんど忘れ去られた文字だけれど、これが何を意味するかは正確にはわからないわ。」

「それにしても、何かが動いている気がする…」カイは後ろを振り返り、静寂が遺跡の中を包んでいることを確認した。風の音はもう聞こえなくなり、代わりに深い静けさが支配していた。

 二人はゆっくりと奥へ進んでいった。通路の先には広間があり、その中央に古びた祭壇のようなものが鎮座していた。祭壇の上には何かが置かれていたが、遠くからでははっきりと見えなかった。

「これが…生命の鍵か?」カイは呟きながら、祭壇に向かって歩み寄った。

 近づくにつれて、その輪郭が徐々に明らかになってきた。祭壇の上にあったのは、鍵ではなく、古びた石板だった。そこにはさらに多くの古代文字が刻まれており、見た瞬間にカイは背筋に冷たいものを感じた。ナディアも近づき、石板をじっと見つめた。

「これは…儀式の記録だわ。」ナディアは眉をひそめた。「この遺跡でかつて行われた、何かの重大な儀式について書かれている。」

「生命の鍵に関係しているのか?」カイはさらに詳細を知りたくて、ナディアの言葉を待った。

「おそらくそう。だが、この記述は警告のようにも見える。」ナディアは指で文字をなぞりながら、読み解こうとしていた。「鍵を手にする者は、代償を払うことになる、と書かれているわ。古代の力は、ただ与えられるものではないらしい。」

「代償か…」カイは自分の中に湧き上がる不安を押し殺しながら、石板から目を離した。過去を取り戻すためには、どんな代償でも払う覚悟はある。だが、その代償が何を意味するのかはまだわからなかった。

 そのとき、遺跡全体がかすかに震え、どこか遠くで低い音が響いた。カイとナディアは一瞬目を合わせ、すぐに周囲を見渡した。

「何かが動き出したみたいね。」ナディアの声には、微かな緊張が含まれていた。

「守護者か?」カイは即座に身構えた。彼らの前に現れるのは、サフルのような存在かもしれない。それとも、遺跡そのものが二人に何かを試そうとしているのか。

 静寂が再び訪れたが、何かが確実に動き始めていた。その動きが、彼らをどこへ導くのかはまだわからなかったが、逃れることはもはや不可能だった。

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