【エロ術師争奪戦】
大陸を支配し損ねた大魔王。
今一歩のところで、あろうことか幹部の一人に裏切られてしまった。 だがしかし、我ら魔族にとって、裏切り裏切られは日常茶飯事。 誰も責めたりしないだろう。 何故なら、裏切られる方が悪いのだ。 それが…たとえ大魔王であったとしても―――だ。 問題は…そこではない。 むしろ問題なのは、その裏切り者の幹部が大魔王のもとから立ち去ったことにある。
あれほどの有能な実力者を制御できなかった自分の不甲斐なさを恥じる。 あの者が去って、正直キツいところがある。 これでは我が計画に支障をきたす恐れがある。 やっぱりもう一度、戻ってもらう以外にあるまい。 そうしなければ、あの大陸を支配することはできない。 やっぱりあの者の力が、今の我には必要なのだ。
そこで遂に慌てて焦った大魔王までが―――
「よし、至急エロ術師の行方を捜索しろ!」
「「「「はっ!」」」」
大魔王が側近の魔族たちに命令を下す。 部下全員が散って素早く大魔王城を出ていった。 こうして大魔王もエロ術師捜索に参加する。 いつ捕まるともしれないあのエロ術師の捜索に―――
「早く戻ってこい! エロ術師よ」
今回は別に大魔王が追放した訳ではない。 自分から去っていった。 なので大魔王側からの落ち度はないはず。 それでも何故、大魔王の下から去っていったのか、それだけは聞いておきたい。 今度は魔族・魔物の大軍が、あのエロ術師を捜索・追跡するようにして、大魔王の下から去っていった。
━・ー〇ー・━
ある街の食堂にて、勇者メメント・モリ一行が食事する。 主に魚・卵・野菜料理にパン・スープなど添えて出される。 それをメンバー全員で食べる。
「「「いただきます」」」
「「いただきます」」
「うん、うまい」
「はい、美味しいです」
「ええ、美味しい」
「うん、なかなかいいね」
「ほーう、これはなかなか…」
どれも美味しく食べて堪能する。
「「ごちそうさま」」
「「「ごちそうさまでした」」」
全部食べ終わると、全員が席を立ち上がり、会計を済ませると、そのまま食堂を出ていった。 その足で再び冒険者ギルドへ向かって行く。
━・ー〇ー・━
ある街のレストランにて、勇者イモータルと聖女アクエリアスが食事する。 主に肉料理にライス・スープなど添えて出された。 それを二人で食べた。
「「いただきます」」
「うん、美味しい」
「はい、美味しいです」
「うん、なかなかいい味だね」
「はい、そうですね」
とても美味しいけれど、それでも食べ続ける。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
全部食べ終わると、二人は席を立ち上がって、会計を済ませて、そのままレストランを出ていく。 その足でまた冒険者ギルドへと歩いて行く。
━・ー〇ー・━
某洞窟にて、洞窟の出入口の穴の外から [ブラック・クーデター] の大軍が洞窟の周囲を包囲する。 そんな大軍の中から魔法部隊が洞窟の出入口の穴に向かって、火の魔法陣を発動させて、火の魔法を放出する。
「「「「火よ! 彼の者を撃て!」」」」
ボン、ボン、ボン、ボン!
その魔法部隊が洞窟内に向かって、火の魔法・火の小型球体を放つ。 その複数の火の小型球体が素早く鋭く洞窟内の奥まで入っていき、奥で炎が勢いよく燃えていく。 この分だと、洞窟の奥にいた者は炎に燃えて焼け死んだと思われる。
ボボォオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!
「ハハハハッ、これで奴は焼け死んだッ!」
「ハハハハッ、これで死体も残るまいッ!」
「ハハハハッ、まぁ…骨くらいは残っててくれよッ!」
洞窟の奥の方で炎が激しく燃えていて、もの凄く高温になってると思われる。 もし仮に洞窟内に人間や動物などがいたら、あっという間に燃え尽きて、あっさりと灰となって炭となっていくだろう。 まるで勝利を確信したかのように、あの [ブラック・クーデター] の大軍が高笑いする。 もっとも何をもって勝利とするのか、我々には理解不能なのだ。
アァーーー、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァァァァァーーーーーーーーーッ!!
だがしかし、
そこには誰もいない。
そう、洞窟内には誰もいない。
確かに、あのエロ術師が洞窟内の奥深くに隠れていたはずだ。 それなのに、あの洞窟内には誰もいないのだ。 もう既にエロ術師は、あの [ブラック・クーデター] の大軍の背後の少し離れた木々の物陰に隠れてやり過ごしてた。 したがって、あの火の魔法・火の小型球体で焼かれることはないのだ。
これぞ、まさに【エロ・ワールド】なのだ。
一瞬だが、時間を止めて、その隙に洞窟から脱出して、奴らの背後に素早く回り込んだ。 だから、奴らの火の魔法は通用しない。 しかも、奴らは避けられたことさえ認識することができないのだ。 そのエロ術師が、あの [ブラック・クーデター] の大軍を呆れ顔で見て思った。
アァーーー、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァァァァァーーーーーーーーーッ!!
[いつまでもバカ笑いしやがってッ! このマヌケ共がッ!]―――と。
そして、そのままエロ術師が、あの [ブラック・クーデター] の大軍の背後を背にして振り向いて、そのまままた何処かへ立ち去っていった。 勿論、その事にすら…あの [ブラック・クーデター] の大軍には気づいていない。
やがて洞窟内が冷えて普通の温度に戻ったタイミングで、エロ術師の死体を確認する為に部隊を編成して洞窟内に放った。 しばらくしてから洞窟内を捜索していた部隊が戻ってきて報告する。
「それで……どうだった?」
「申し上げます。
エロ術師の死体を発見できませんでした。」
「……」
「そうか、発見できなかったか…」
「やはり、骨まで灰になったか…」
「いいや、骨は炭になって消えたのだ!」
「……」
「やはり、我が魔法部隊の威力は侮りがたし!」
「ふふふ、これでエロ術師も終わりだな?」
「ああ、あの者さえいなければ、この大陸は我ら [ブラック・クーデター] のモノ。」
「王国も公国も帝国も全て滅ぼして、我が [ブラック・クーデター] が支配する。」
「さらに、勇者も大魔王も全て滅ぼして、我らがこの地上を支配するのだ!」
「そうだ、我が [ブラック・クーデター] には、それだけの威力・能力が出せる軍隊となったのだ!」
「……」
「ハァーーー、ハッハッハッハァァァーーーーッ!!」
「アァーーー、ハッハッハッハッハァァーーーーーッ!!」
「アァァーーー、ハッハッハッハッハッハッハッハッハァァァーーーーーーッ!!」
「……」
森の奥深くから笑い声がこだまする。 もう既にエロ術師を殺したと勘違いする [ブラック・クーデター] の大軍の幹部たち。 確かに、この軍隊は侮りがたい。 兵士には黒い鎧や黒いローブなどを装備させ、歩兵隊には剣・盾を、騎馬隊には槍・弓矢を、魔法部隊には杖・魔法玉を、それぞれ装備させる。 数にしても、総勢約30万の軍勢を誇る大陸最大最高の軍であり、現状この軍に勝てる軍はいないとされる。 もっとも、そんな [ブラック・クーデター] の大軍でも、もう既にエロ術師が、遠くの方へと逃亡したことにまだ気づいていない。 ちなみにこの軍隊は、どこにも所属していないフリーな軍・傭兵に近い軍であり、軍による大陸支配と軍による国家の建国・征服を狙っている。 もっとも、その分、敵対勢力も多い。
だがしかし、
これでエロ術師の捜索・追跡も終了なのか?
「よし、引き揚げるぞ!」
「撤退だ!」
「「「「はっ!」」」」
今まで [ブラック・クーデター] の大軍は、ずっと洞窟の出入口の穴の方を見ていた。 そこしか見ていなかった。 そこでようやく後ろを振り向いて見る。
「「「「ッ!!?」」」」
「「「何ッ!!?」」」
「しまったぁ!!」
今度は [ブラック・クーデター] の大軍が、無数の魔族・魔物の大軍に、いつの間にか周囲を包囲されていた。 完全に洞窟の方しか見ていなかった [ブラック・クーデター] の大軍の失態である。 思わずエロ術師の方ばかりに集中しすぎて、周囲の警戒を怠っていた。 しかし、魔族・魔物の大軍も…あの [ブラック・クーデター] の大軍が、後ろを振り向いて見るまで、よく攻撃しなかったな。 意外に紳士的行動である。 当然ながら、この魔族・魔物たちもエロ術師を捜索・追跡していた。
「ようやく追いついたけど……」
「……いない……」
「……」
「あのエロ術師は逃亡したのか?」
「はい、残念ながら………」
「そうか、まぁ…いい…」
「まずは……この漆黒連中をなんとかするか……」
「ああ、邪魔だからな」
「今ここで全滅させる」
「ああ、わかったぜ」
「……」
なにやら魔族の幹部連中が小声で話してる。 勿論、あの [ブラック・クーデター] の大軍には聞こえていない。 捜索・追跡していたエロ術師の再度逃亡は認識しており、もう既にここにいないことは理解している。 そこら辺は殺害したと勘違いするマヌケな [ブラック・クーデター] の大軍などとは違い、些か頭が良さそうだ。
だがしかし、
こんな某森林の奥深くにある洞窟の出入口の手前で、今まさに…あの [ブラック・クーデター] の大軍と、大魔王直属の部下・魔族・魔物の大軍との戦闘が始まろうとしていた。 もし万が一、あの [ブラック・クーデター] の大軍がエロ術師生存を知ってしまったら、また殺害しに来るだろう。 それをさせない為、できれば生かしておきたい魔族・魔物の大軍は、この [ブラック・クーデター] の大軍がどうしても邪魔なのだ。 これは……その為の戦いだ。
それでも・やっぱり―――ボクは……【エロ術師】……なのか・・・?
おそらく殺害したと勘違いしている [ブラック・クーデター] の大軍はスーパーフォーンでの確認もしていないと思われる。 全くの宝の持ち腐れである。




